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異世界はバラ色に  作者: 里中 圭
第4章 北の遺跡編
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第18話 リトルフェンリル

 僕は概略をみんなに伝えた。

「ウスパジャタは、政治や戦争に巻き込まれるのが嫌でこの森に、サンセベの森という名前なんだって、サンセベの森に研究目的で祠を作ったらしい。もともと魔素の濃い森だったらしい」

「それで、魔物がここに集まっていたわけ」

「魔物は多かったらしいけど、ここだけにいたわけでは無いらしいよ。それで、当時は小さな国が一杯あったのかな、いろんな国から勧誘があったらしい。それが嫌で、魔素をここに集める装置を作り、魔物を集め、人を寄せ付けないようにして研究に没頭したらしい。でもそれがあまりにも効き過ぎて大陸の魔素が薄くなったとも書いてある」

「だからなのね、この大陸は魔素が少ないとかんじていたんですよ」

「セシリア、魔素の濃さが分かるの」

「何となくね、そういう感じがするのリーナは感じない。特にこの辺りは魔素が濃くてどんよりした感じがするでしょ」

「う~ん、特には感じない」

リーナは、セシリアにそう答えた。僕もあまり感じない。先を続ける。

「魔素をかき集め、魔物が集まったところで、結界を張り魔物を外に出さないようにした。結界は3重にかけた」

「それは分かったわ。じゃあ、ここは最も強い魔物がいる結界の中ってわけね」

「祠の結界がなかったらと思うとぞっとするね、それで」

「ここを魔石の祠と名付け、研究のための祠を自分の名を取りウスパジャタの祠と名付けた。サンセベの森の住人は、ウスパジャタと首輪の奴隷3人だけだったらしい」


「で、ウスパジャタの祠はどこにあるの」

「この200m先だって。Aランク以上の魔物がいるはずだから、とりあえずここで1泊しよう。この祠の文字も書き写さなきゃならないしね」

祠の文字を書き写して寝た。魔物は祠の結界で入ってこないと分かっているのだが、見張りは交代でする。狼の鳴き声やゴリラのドラミングの音が聞こえた。


 夜が明けた。朝食のときに、

「Aランクのゴリラの魔物っているの」

ナナに聞いたつもりだったが、シェリルが答えた。

「いるよ。ジャイアントコング。豪力を使う巨大なゴリラ。本で見たことがある」

アルトが、

「じゃあ、魔食いはいらないですね」

と言う。

「昨日のドラミング近かったよね」

と僕が言うと、シェリルが、

「ジャイアントコングがいるってことはリトルフェンリルはこの辺りにはいないかもね」

と言った。これに対してリーナが反論する。

「普通なら、違う種類の魔物って別々の所にいるけど、無理に集められた所だからね、ここは。何が起こるか見当もつかない」

「まあ、どっちにしても今日はウスパジャタの祠まで行こう、最大限に気をつけてね」


 僕たちは出発した。今日の予定は200m先だ。壁の絵ではS字状に曲がってはいるが道もついている。ミミックツリーもいないようだ。祠を出るとすぐにセシリアが、

「魔物がいます。大猿が7匹と大きいのが1匹います。ジャイアントコングだと思います」

と言った。

「震地で揺さぶる。一斉に攻撃しよう」

と言って、震地をかける。木から落ちた大猿はいなかったが、危ないと感じたのだろう大猿たちは木から下りてくる。9匹いた。木の上の方にいた2匹はセシリアの索敵にはかかっていなかったようだ。アルトのファイアーストームとシェリルのウインドストームで乱戦になる。セシリアが突出した。そこに上から大木が叩きつけられる。セシリアは予想していたように避ける。セシリアと戦っていた大猿が潰れる。


 座っていたジャイアントコングが道をふさぐように立ち上がった。身長は12mくらいある。心臓の位置までの高さを考えると、心臓にフリーズをかけるにしても15m以内に入り込まないといけない。ジャイアントコングはドラミングを始めた。大猿たちはさっと戦線から離れた。


 ジャイアントコングが跳ねた。意外に俊敏な動きをする。弓でジャイアントコングの顔を攻撃するシェリルに向かって大木を振り下ろす。その瞬間にシェリルは消えた。さらに離れて弓で狙う。そこに大猿たちが向かう。


 大木を思いっきり叩きつけた瞬間に震地をかける。ジャイアントコングが尻餅をつく。そこに雷槍とファイアーラプチャーが飛ぶ。ジャイアントコングの右腕と右脚に亀裂が入る。セシリアが、

「ジャイアントコングが、もう一匹来ます」

と叫ぶ。僕も、

「一気に走るぞ」

と叫んで、ウスパジャタの祠を目指す。もう一匹のジャイアントコングがこちらを見た。襲いかかろうとしたところに震地をかける。ジャイアントコングの動きが一瞬止まる。


 あと30mで祠に着くというところで、ジャイアントコングが大木を投げてくる。僕は魔封じの盾で豪力を使って、シェリルは風の盾に魔力を込めて大木を受け止める。バキーンという音がして、魔封じの盾が砕ける。左腕に激痛が走る。シェリルも左手を押さえ蹲った。

「シェリル、大丈夫」

とリーナとセシリアが走りより抱えるようにして祠まで移動する。僕は魔封じの盾を捨て、最後の気力を振り絞り震地をかける。そして祠に向かう。


 ジャイアントコングは震地のせいか少しよろめいて、それから立て直しこちらに向かおうとする。そのとき、青い2つの風が走った。

「急げ、リトルフェンリルだ」

リトルフェンリルは、ジャイアントコングの太ももと腰に食らいつき倒し、首にかみつきとどめを刺した。そして座り込んでいるジャイアントコングに襲いかかった。その間に僕たちはウスパジャタの祠にたどり着いた。

「この祠の結界がリトルフェンリルに効くといいね」

「大丈夫よリーナ。結界は生きているわ」

「セシリア、分かるの祠の結界も」

「何となくね」

「私も分かる」

とアルトが言う。

「ひょっとして首輪の影響」

「そうかもしれない。セシリアのいう魔素の濃さは分からないけど魔物よけの結界は何となく分かるわ」

「へー、じゃあ大丈夫よね。ウスパジャタはここで長く研究したんでしょ」

「そうだよね」


「それにしても、リトルフェンリルって強すぎだよね。ジャイアントコングを瞬殺だよ」

「そうね。サトシどうする」

そう言って、リーナとシェリルは僕の方を向く。僕は左手を押さえて蹲っていた。重く激しい痛みに声も出ない。

「セシリア」

と2人は叫ぶ。その声にリトルフェンリルがこちらを向く。恐怖が走る。しかし、リトルフェンリルは何事もなかったようにジャイアントコングを食べ始めた。リトルフェンリルはさらに2匹増え4匹になった。


 僕は、リーナとシェリルに祠の中に引きずるように連れて行かれ、セシリアの治療を受けた。

「これはひどいです。ご主人様」

「シェリルは」

「シェリルも骨が折れていたけど大丈夫です。ご主人様、ここまでひどいと上級の治療魔法でも2週間は痛みが引きませんよ。使うとなるとそれから2週くらい覚悟しておいて下さい」

「そんなに」

どうやら骨が砕けているらしい。ナナが、

「ジャイアントコングは豪力を使って大木を投げつけたんでしょうね。シェリルの風の盾は、魔法でショックを軽減してくれたけど、サトシ様は魔封じの盾なので物理攻撃の軽減は無かったんですね。豪力が無かったら背骨も危うかったでしょうね」

僕の気力もそれまでだった。


 それから3日間は痛みで朦朧となり寝て過ごした。シェリルは痛みが引いたらしい。ウスパジャタの祠の壁はスッキリしていて文字が彫って無かった。


 祠には地下室があり、リーナとシェリルが降りていくとレイスとゴーストがいたらしい。レイスもゴーストも、じっとして動かず、リーナが光の癒しをかけるとその光に飛び込んでいったという。リーナは、

「レイスは微笑んでいたわ。きっとウスパジャタとその奴隷だったんだわ」

と言っている。地下にはノートが3冊と魔道具、魔物の皮や透明なシートが何枚か置いてあったそうだ。


 3日後、僕はやっと椅子に座れる状態になった。リーナが話しかけてきた。

「ねえサトシ、リトルフェンリルって強すぎだよね」

「そうだね。1匹だけなら豪力で受け止めてフリーズで仕留められるかもしれない、と考えていたんだけど。今でもそう思っているよ、シェリルの風の盾を借りて豪力で受け止めれば。狼類は心臓の位置は大体同じだとイバダンさんも言ってたしね」

「じゃあ、倒せるのね」

「2匹いたら絶対に無理。1匹なら可能性があるというだけ、受け止められるかどうかも分からないし、心臓の位置だって狼類と同じとは限らないし」

「そうよね。ジャイアントコングの攻撃だけで、このケガなんだもんね」


 一段落して、そのノートを読もうとした。そのときアルトが、

「サトシ様が起きられたことだし、新年のお祝いをしましょ」

と言って、ご馳走を並べていく。今日は、黒帝龍の2日だそうだ。ということは昨日が正月ってことだよね。

「じゃあ、今日はゆっくり楽しんで明日からまた頑張ろう」

と何をやればいいのかは、よく分からないが正月くらい祝ってもいいよね。


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