第15話 ペドリド
この大陸のことを聞こうとすると、長老のペドリドさんから先に質問された。
「君たちはどこから来たんですか」
長老は真剣な顔で聞いてきた。横にいるレヒナさんも緊張を隠していない。
「この森の向こうから来ました」
とてもごまかせそうにない。何だかとても緊張する。
「森の向こう。なんという所ですか」
「マリリアです」
「マリリアなんていうところは聞いたことがありませんが」
「森の向こうにあるマリリアという都市から来た。ではいけませんか」
と聞いてみる。
長老はしばらく考えて言った。
「質問を変えましょう。この大陸の人族は絶滅したはずです。なぜ、人族のあなた方がここにいるのですか」
「人族は絶滅したんですか」
「そうです。数百年前に絶滅したはずです。それ以降の記録には出てきません。ひょっとして、神の門から来られたのではないですか」
今度は、僕が考え込んだ。リーナが言った。
「言っても良いんじゃない。別に隠さなければいけないことではないよ」
その言葉で僕の気持ちは楽になった。
「そうです。イグナシオ大陸から神の門を通って来ました」
「やはり、そうでしたか。儂は神の門の存在を、それがこの森にあることを信じていた。それでここに住んでいろいろと調査しておったのじゃよ。やはりあったんだね神の門は」
「はい、それを通って来ましたから」
「水猿やアナコンダがいて奥には行けなかった。最近では雪豹まで現れるしな」
「国からここを守るようにいわれているんですか」
組織なのか、個人なのかで僕らへの対応は変わる。正直に答えてくれるのかどうかは分からないのだけれど。
「この森のことなんて、国が気にしているとは思えんよ。気にしてたら大規模な調査で神の門を見つけていただろうしな」
「そうですね。軍を動員していたら弓や剣だけでも水猿くらいは何とでもなるでしょうね」
「そういうことだ。神の門を開けると、空飛ぶ災厄が入ってくるとの記録もある。開けてはならないことになっている」
「AランクのウインディドラゴンやCランクの翼竜ですね」
「空飛ぶ災厄のせいで、森を抜けた所にあった人族の国が消滅したと伝説にある」
「その後、魔物たちはどうなったんですか」
とシェリルは聞く、
「消えた。神の門から帰ったのか、死んだのかは分からない。とにかく、空飛ぶ竜種は今では確認されていない」
セシリアが最も気になっている魔物のことを聞く。
「リトルフェンリルがいますよね。リトルフェンリルは災厄ではないのですか」
「この大陸の強い魔物は聖なる森からは出てこない。なぜだか分からないが出てこないんだ」
「そうなんですね。どんなのがいるんですか」
「リトルフェンリルの他には、牙竜が確認されている。あとは狼や猿の魔物も多いそうだ。あくまで伝説でしかわからんがの。牙竜は10年ほど前に、森の外から見える位置に現れたことがあるらしい。ゴブリンもいる、ゴブリンは森から出てくることもあるようだ」
「この大陸に、国はいくつくらい有るんですか」
とシェリル。
「大きいのは2つじゃよ。エルフの国エスキーナと竜人族の国アルヘンティーノ。アルヘンティーノは山岳地帯にある。竜人族は俊敏で力が強いがエルフ族に比べて魔道具の扱いが下手。エルフ族はその逆。それで2つの国の均衡が保たれている。この2か国以外は、小さい部族の集落しかない。猫人族の集落もあるぞ」
ナナに向けて言ったらしい。ナナは無表情だ。イグナシオ大陸の猫人族は同族で群れることはあまりない、というのが常識だったからかな。
さて、そろそろ核心に迫りたい。
「隷属の首輪ってご存じですか」
「隷属の首輪。ウスパジャタの首輪のことかね」
おっ、当たりだ。
「そうです。僕たちはその外し方を見つけに来たんです」
長老がほっとしたような顔になった。僕たちの目的が分かってほっとしたのだろう。それから、済まなそうな声で、
「無駄足だったようだな。ウスパジャタの首輪の外し方はウスパジャタの祠に行かなければ分からないだろう。伝説では、ウスパジャタの祠は聖なる森の奥にある。昔は冒険者や軍の精鋭が調査に入ったらしいがたどり着けたものはいないそうだ、リトルフェンリルもいるからな。最近では聖なる森に入っていった冒険者は1人も帰って来ていない。それに、祠を調べるなら、そこまで古代語を読める者を連れて行かないといけないのだぞ。とても無理じゃ」
「聖なる森って、どこにあるんですか」
「ここから下っていくと街道がある。それを西に行けば森が見える。その森が聖なる森じゃ。歩くと2日はかかる。どうしても行くのか」
沈黙が流れる。これ以上は僕たちの秘密を話したくない。
「ウスパジャタは聖なる森の奥まで行ったんでしょう。行けないわけじゃないんですよね」
「伝説の大魔導師くらいの実力があれば行けるだろう」
僕は言った。
「行きます。そのために神の門を抜けてきたのですから」
「分かった。そこまで言うなら止めることはしない。君らにはいろいろと世話になった、せめて森の入り口まで馬車で送らせよう。明日の朝で良いな」
「お願いします」
「無理はするなよ、生きて帰ってきたら話しを聞かせてくれ」
僕たちは部屋に戻った。セシリアが、
「ねえ、信用できる」
「たぶんね、嘘をつく理由も無いし」
とリーナ、シェリルは、
「嘘をつく理由なんて、長老さんには有るかもしれないよ」
と言う。僕はどっちでもいいかなと思う。
「ウスパジャタの祠が聖なる森にあるならそれでいいよ。とりあえずそこに行こう」
「そうね、心配するだけ無駄よね。明日、馬車で変なところに連れて行かれそうになったら戦えばいいんだしね」
「そう、恐いのは長老よりも聖なる森の魔物だよ」
とナナが言う。みんながうなずく。
「さあ、寝よう。明日からは大変だよ、きっと」
「お休みなさい」
と言って、シェリルとリーナとナナがもう1つの部屋に行く。
久しぶりに3人だけの夜になった。疲れないように注意しないといけないな。
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