第14話 メロ村
深い森林地帯を進んでいくと小さな道に出た。けもの道かもしれないけれど、そこを進むことにした。セシリアの索敵には魔物の姿はないらしい。進んでいくと小川があった。
「ここは、かなり上流に位置しているみたいですね」
とナナが言うと、セシリアも、
「そうみたい、水がものすごくきれい。魚もいます。飲んでいいですか、ご主人様」
「ちょっと待って、一応鑑定するから」
といって鑑定する。異常はない。
「いいよ」
と言うと、セシリアは手ですくって水を飲む。
「おいしい、凄く美味しいです」
アルトも飲むと、
「ほんとだ、美味しい。魔法で作る水は味気ないですからね」
みんな、明るい笑顔になった。
小川からできるだけ離れないように下っていく。小川は合流しながら、だんだんと大きくなっていく。
「ゴブリンです。3匹います。このまま行けば遭遇します」
「ゴブリンかあ、久しぶりって感じだよね」
「そうですね。寒いところにはいませんでしたからね」
みんな、余裕の表情だ。ゴブリンの近くまで来たところで索敵をしてもらう。
「他にはいません。はぐれゴブリンです」
シェリルが、
「私が倒します」
と近寄り、ウインドストームを放つ。それだけでゴブリンは3匹とも倒れた。
それからはまた、何事もなく過ぎていく。木々が少なくなり、少し開けた場所に出た。突然リーナが言った。
「あれっ、兔だよ。魔物じゃない野生の兔」
セシリアが、
「猪もいますよ。このあたりは魔素が少ないのかもしれませんね。あっ、アプリの木があります」
と言うので、ファイアーでアプリの実を落とす。
「トリニダの森を思い出しますね。あのときのサトシ様は人見知りで、何を考えているのかよく分からなかったですよね、今は堂々とされてますけど」
思い出したくない過去を・・・、みんなこっちを見るんじゃない。
「誰かいます。弓を持っています。左前方です」
とナナが言う。セシリアは、
「魔物ではないようです」
そっと隠れて、ナナが消気をかける。人が2人いる。2人とも弓を持っている。猟師のようだ。
「すみませ~ん」
とシェリルが笑顔で声をかける。この笑顔は魔物にでも通用するかもしれないと思える。猟師は、こちらに気付き、何やら相談している。1人の男が、
「誰だ、そこで何してる」
と叫んだ。僕には翻訳でそう聞こえるのだが、みんなはどうだろうと見ると、シェリルが言った。
「道に迷ったんです」
「そうか、この道を真っ直ぐ下ったところに街道がある。そこに出れば分かるだろう」
と答えが返ってきた。言葉は通じるみたいだ。アルトに聞いてみると、
「意味は分かりますけど、シャイアスの言葉なんでしょうね。ひどく訛っているように聞こえます」
でも、言葉は通じるんだ。僕が全部通訳しないと行けないかなと思っていたので大助かりだ。
僕はそっと鑑定をかけてみる。
『エルフ族 男 28才 レベル9』、『エルフ族 男 26才 レベル8』と出た。鑑定の能力が上がっているようだ、レベルまで分かる。それにしてもレベルが低い。猟師で魔物を相手にしていないなら、これくらいが妥当なのかなとも考えられる。
「セシリア、エルフ族の人らしい。セシリアが前に出た方がいいかもしれない。レベルは9と8らしいから危険は無いと思う」
それを聞いたセシリアは、髪を耳にかけエルフであることを強調して近寄っていく。最初に声をかけたシェリルも一緒に行く。僕たちは姿を見せて、その場にとどまる。僕はアルトに、
「何でレベルまで分かったのか、聞かないのかい」
と言うと、
「サトシ様の魔法でいちいち驚いていたら身が持ちません」
当然という表情で、こちらを見ている。
エルフの男たちは美少女2人を相手に緊張しているが、話をして警戒を解いたようだ。セシリアが手を振る。
「この人たちの村に連れて行ってくれるんだって。長老様にいろいろ教えてもらえって言われたわ」
僕たちは2人について行く。しばらく行くと村が見えてきた。木の柵で囲まれた30軒ほどの集落だった。村に着くと、長老の家に通された。長老は『エルフ族 男 112才 レベル13』だった。やはりレベルが低い。
「儂はこの村、メロの長老をしておるペドリドと申します。森の奥で迷われていたとか難儀なされたでしょう」
「いえ、木の実は豊富でしたし小川もあって、魔物も少なかったですし、それ程のことは」
「ゴブリンと会いなさったか、大変でしたね」
「いえ、3匹でしたので」
「その若さで、冒険者なのですか」
「はい」
何か話がかみ合わない。ゴブリン3匹程度でって思えるのは僕らが冒険者だからかな。このあたりには冒険者は少ないんだろうか。と思っていると、
「森の奥には、水猿やアナコンダというランクの高い魔物がいます。奥には近づかないようにしなさいよ」
とまで言う。いっぱい倒してきたんだけどな水猿は、アナコンダは1匹ですけど。
「僕たちは冒険者のパーティーです。水猿もアナコンダもDランクですよね。それって強いんですか」
「強い。倒すと経験値が100も入る。聖なる森にいる魔物を除くと、Dランクが最強なはずじゃ。常識じゃよ」
僕たちが、非常識な田舎者に見えているのかもしれない、見た目だけでも、ローブやアサシンスーツなんていう立派な防具を着けているのに。神の門のことは伏せたいので、
「僕たちは田舎から出てきて、このあたりの常識に疎いのです。小さい頃から修行してて、みんな腕に覚えがあります。水猿やアナコンダくらいは問題なく倒せます」
「レベルはどのくらいなんじゃ」
そう聞かれて困った。レベル17とは言えない。長老ですら13なんだから。
「レベルを見る水晶が無いのでわかりません」
と答えると、長老は不思議なものでも見るように僕をみて、
「ステータスと念じれば見られるだろう。お前たちは見えないのか」
「はい、見えません。僕は15才になったばかりのときは見えていたんですけど、今は見えなくなってしまいました」
「そうか、このあたりでは見えない者はいないんじゃがのお」
と言う。
リーナが、
「じゃあ、魔法は使えないんですか」
と尋ねる。長老は馬鹿にしたように、
「ファイアーやウォーターは誰でも使える。レベルをあげるとフリーズやクリーンも使えるようになる」
「遠距離操作は」
「なんじゃそれは、聞いたことがないな、魔法なのか」
「いえ、噂でそんなものがあると聞いたもので、つい」
「攻撃魔法を使える人はいないんですか」
「魔法は魔道具で使えば誰でも使える。それがないとFランク以上の魔物には苦労するからな」
話していくうちに、魔道具はかなり発展しているというのが分かる。強い冒険者の装備は高価な魔道具だらけということだ。魔道具を使うにもMPが必要で、威力の高い魔法は1発で魔力切れになるらしい。
「冒険者のレベルは大体どれくらいなのですか」
「儂が聞いたことのある冒険者では15が最高じゃな。昔は20を超える者もいたらしいが」
「けっこう低いんですね」
とセシリアが小声で言うと、聞こえたのか長老が睨む。
「これをもらって下さい」
と雪狼の毛皮を出す。
「森の奥にいた雪狼をみんなで倒しました」
「雪狼、ときどき森の奥にいるという。Dランクなはずだ。6人で狩ったのか」
「はい、何とか」
「君たちはそんなに強いのか」
「強いのか弱いのかはよく分かりません。他の人と比べたことはありませんから」
「そうか」
長老は混乱しているようだ。
「かなり高価なものだが、もらっても良いのか」
「どうぞ」
嬉しそうな顔は隠しきれない。
「今日は、ここに泊まるがいい。妻のレヒナが病でな、料理は大したものは出せないが」
と言って、部屋に案内してくれた。2部屋使っていいらしい。荷物は闇の袋に入れているので、片方の部屋にみんなで集まる。
「レベル17のパーティーなんて言ったら卒倒するかもしれないね」
「死んでしまうかも」
「奥さん、病気だって。治してあげようか」
「でも、魔法が使えるってばれるよ」
「薬を飲ませればいいのよ。水でも何でもいいから、そして魔法で治す。セシリアの治療魔法か、私の光の癒しのどちらかで治せるよ」
「そうね、いい薬があるって言えばごまかせるよね」
「でも、料理はアルトがしてよ。山菜ばかりじゃいやよ」
そういうことになって、レヒナさんを治療することにした。長老のところに行き、
「いい薬がいろいろあるので奥様に会わせて下さい。ここにいるセシリアは薬師です。きっと合う薬を選んでくれます」
「そうか、よろしく頼む」
そう言って、長老はレヒナさんのところにリーナとセシリアを連れて行った、シェリルもついていく。
アルトが料理を作りに行き、ナナもアルトと一緒に行こうとしたので、ナナを呼び止めた。
「ナナ、誕生日おめでとう」
そう言って、指輪を渡した。そう、今日は蠍の7日なのだ。ナナは涙目になって抱きついてきた、そして、
「ありがとうございます」
と言ってキスをした。僕の方が固まってしまった。ナナはすぐに離れてアルトの元に急いだ。
しばらくして、リーナとセシリアが帰ってきた。セシリアが報告する。
「うまくいきました。魔法を使ったのはばれなかったと思います」
「レヒナさんは58才なんだって、エルフだから人族なら30才くらいに見えるよ。長老も元気ね」
とリーナも言う。
夕食はアルトが作り、長老夫妻と一緒に食べた。もちろんナナの誕生日をみんなで祝った。レヒナさんはセシリアが魔法を使ったことが分かっていたようだ。セシリアを魔導師様と呼んでいるくらいだ。長老も魔導師がいるなら雪狼くらいは倒せるだろうと言っている。
この大陸の魔物について詳しく聞くことにした。そして一番大切なことも。




