第9話 龍の祠
右にキングベア、左にブルーオーク1匹が率いるゴブリンの群れか、やっかいだな。
「先に、キングベアのほうが来ます」
熊の姿が見えたところで、震地を使う。熊の動きが鈍る。そこでマインドボール。ワイルドベアに当たる。ワイルドベアがもう1頭のワイルドベアに襲いかかった。動きの鈍ったキングベアに近づきフリーズをかけ心臓を凍らせる。リーナが雷槍を放ちとどめとなった。アルトがファイアーラプチャーでワイルドベア1頭を倒し。残りの2頭は今も戦い続けている。
そこに、ゴブリンが放つファイアーボールや矢が飛んできた。離れていたため被害はなかった。ナナが消気をかけ、戦っているワイルドベアの後ろに回り込む。ワイルドベアにもゴブリンの放った矢が刺さっている。マインドボールの効果が切れたワイルドベアは、もう1頭と共にゴブリンの方に飛び込んでいき、ゴブリンを蹂躙していく。
シェリルはブルーオークめがけて矢を放つ。リーナも雷槍を放つ。ブルーオークは倒れた。ブルーオークはレッドオークに比べると頭は良いが戦闘能力は低い。指揮を無くしたゴブリンたちは目の前に来た敵であるワイルドベアを相手にしている。震地をかけ混乱を増す。アルトのファイアーストームとシェリルのウインドストームでゴブリン達をなぎ倒し、リーナは雷槍で、セシリアは氷の刃でワイルドベアを倒す。戦いは終わった。辺り一面すごい匂いだ。
「また、魔物です。160m程下ったところから来ます。山ハイエナの群れです大群です。匂いで寄ってきたんでしょう。熊やゴブリンの死骸が目当てだと思います」
「じゃあ、上に逃げよう」
と美味しいキングベアの肉も取らずに逃げることにした。返り血を浴びたセシリアにクリーンをかけ血の臭いを消し、尾根に向かって登っていった。
頂上付近まで登るとセシリアが、
「魔物の気配がありません」
と言う、アルトが、
「上にいます。空です」
空を見上げると、鳥のような魔物が数匹飛んでいた。尾根伝いに遠くまで転々と浮かんでいる。
「翼竜ですね。あまり強くは無いし、油断しなければ襲われることはないと思いますが、空から攻撃されるとやっかいですね」
とルグアイの魔物に詳しいナナが説明する。
翼竜のほうに動きがあった。
「一斉に下に向かっていますね」
「さっきの所だ。魔物の死骸が目当てだろう。山ハイエナとの奪い合いだね、きっと」
「今のうちに、少しでも進んでおきましょう」
尾根の頂上に出て、北へ向かう。少し行ったところに洞窟があった。自然なものに手が加えられている。今日はそこで泊まることにした。シェリルが、
「良かった。結界石の結界で上をカバーできるか不安だったんだ」
「緑の結界もそうです。イメージでは壁を作る感じですから」
「だから、尾根伝いに行くと、祠というか、避難所があるんだね」
洞窟に結界を張る。これでひと安心だ。洞窟の中まで入り、壁を調べてみる。落書きみたいなものは有ったが有益な情報といえるのは1つ、大陸共通語で書かれた「ここから下ると西にヴァンデル」というものだけだった。
アルトが作った夕食をみんなで食べながら、今後の予定を話し合った。リーナが、
「尾根伝いに進んで、洞窟を調べていくしかないよね」
と言い、シェリルが続けた。
「そうだね。北の遺跡の場所が分からないからね。洞窟内の情報を分析していくしかないわ」
「魔物はどんなのがいるんだろう」
と僕が聞くと、ナナが答えてくれた。
「トレーヴ山脈で現れたことがある高ランクの魔物は、リトルフェンリル、ウインディドラゴン、地竜、それにキングベアだと言われてるにゃん」
「リトルフェンリルは想像が付く、リトルというのは神獣のフェンリルに敬意を表しての名前だよね。皮が魔法を通さないという」
と言うと、セシリアが補足する。
「そうです。スピードも力も桁違いです。伝説級の魔物です、もちろん、リトルサラマンダーと同じSランク。最近は見た人はいません」
「じゃあ、ウインディドラゴンは」
「Aランクです。Aランクで最も強いとされています。翼開長は20mくらいと言われています、エアーブレスを使うそうです。こちらは目撃情報がカラプナルの冒険者ギルドにありました」
「地上に落とせば何とかなるわ。いろいろ試しながら行きましょ」
とリーナが締めくくる。
朝、起きて洞窟から出ると寒かった。あわててマントを着て、改めて外に出る。アルトが朝食の用意をしている。その横でシェリルが見張りをしていた。
「寒いね」
と言うと、シェリルは、
「でも空気は澄んでいて、翼竜も夜は飛んでいないし、ほら、まだ起きていないみたいよ」
「鳥は、夜は飛ばないかもしれないけど朝は早いよね。翼竜はそうでもないんだ」
「天敵が少ないからでしょうね。餌も豊富なのかもしれない。何を食べてるか分からないけど」
「じゃあ、みんなを起こしてくる」
とシェリルは洞窟の中に入っていった。2人になったのでアルトにキスをする。
セシリアが起きてきてキスをして、
「寒いね、マント着てくる」
とまた、洞窟に戻っていった。
朝食を取り、北に向かって出発した。いつの間にか翼竜が空に浮かんでいる。ときどき急降下する、魔物を襲っているようだ。いつ、僕たちも襲われるか分からないのでひやひやしながら歩く。しばらく進むと洞窟が有った。中に入って壁の文字を読んだ。大した情報は無かった。
昼食を取り、しばらく進んだところに、祠があった。洞窟ではなく石造りの祠だった。
「南の遺跡にあった祠に似てますね」
「ここにも魔物よけの結界が張ってあります」
とみんな口々に言う。入り口に古代語で「龍の祠」と書いてあった。
中に入ると、壁一面に古代語が書かれていた。誰かが訳したのだろう、床に大陸共通語でメモが書いてある。訳は誤訳が多く参考にならないようだ。もちろん僕は古代語が読めるので問題は無かった。
アルトが何か見つけたらしい。
「あっ、ジェイハンって書いてあります。ジェイハンさんもここまで来ていたんですね」
「北の遺跡の調査をしていたらしいからね」
「遺跡までの行き方が訳されていますよ」
「大ざっぱな訳だね。大体合ってるけど。とにかく、ここの文字を全部書き写すから」
「じゃあ、今日はここで泊まりね。結界を張りますね」
とシェリル。リーナとシェリルとナナが古代語を写し、僕は訳しながら重要事項をメモしていく。セシリアとアルトは祠の外に出た。セシリアは見張りを、アルトは食事の用意を始めた。時間がたっぷりあるので手の込んだ料理をするらしい。




