第8話 山賊
「セシリアはブルグマンを許さないつもりなんだよ、殺そうと思っている」
「だって、許せません。猫人族を騙して奴隷扱いするなんて。ねえナナもそう思うでしょ」
「ロチェを助けても、またどっかで亜人を騙して奴隷扱いするに決まってます。私も殺してやりたいです」
僕は続ける。
「でも街中で殺すわけにはいかないし、どっかにおびき寄せて殺そうと思ったんだよ。ブルグマンじゃないと思うけど冒険者ギルドに山賊の賞金首の張り紙もあったし、見物人も多かったんで山賊も一緒におびき出せるかもしれないと思ったんだろう」
セシリアが、
「悪い奴はどこかで繋がってます。それに自分たちだけではかなわないのは分かってるはずですから、誰かに助けを求めるはずです。北へ行くとなると、私たちがヴァンデルには入れないのは知っていたはずだし、山に入るのは簡単に想像できるはずよ、頼むなら山賊よね」
シェリルは、
「山に誘うためにあんなに派手に名乗ったの?」
僕は答える。
「索敵のためだよ。索敵は、索敵を使う人に明確な敵意が無いと引っかからないからね」
「あっ、そうか。ブルグマンも見ていた仲間もセシリアに敵意をいだくようにしたのか」
「そういうこと」
その夜は、交代で見張りをしたが何の気配もなかった。諦められても意味がないので、結界石を回収し、朝食の用意をするときに派手に湯気を出し、追っ手に場所を示してやった。
ウシュアイアの森を抜け、南北に連なるトレーヴ山脈に西から直角に入っていく。しばらくは緩い上り坂だ。もう少し行くと本格的な山登りになるらしい。尾根にはいくつか祠があるという噂があるため、尾根まで一気に登り、尾根づたいに北へ行くルートを考えている。しばらく進むと急な上り坂が続くようになる。尾根まで麓から3分の2くらい登ったところで、山賊たちが追いついてきた。
「後ろから来ます。10人くらいが索敵にかかっています、索敵にかからない敵もいるでしょうから正確な人数は分かりません。少し先に行ってください。ちょっと見てきます」
セシリアは道を少し下り、小高い岩の上に登り、そっと下の方を覗いた。戻ってきて、
「40人くらいです。いかにも山賊って感じです、ブルグマンもいます」
「ここなら遠慮することはない。思いっきり戦おう。僕が出て行って震地をかける。シェリル、山賊の首領を狙って。後は魔法を一斉に放とう」
「分かったわ」
と言ってシェリルは弓を持ち、岩に上る。
「魔法を放っても突っ込んで来る奴はセシリア、頼むよ」
「任せて下さい。ご主人様」
僕とセシリアが少し下がったところにある、傾斜の強い道の真ん中に出る。その道は真っ直ぐで、上ってくる敵がはっきり見える。戦うにしても上の方が有利だ。ナナとシェリルとリーナが左の岩の方に行く。僕とセシリアの後ろにはアルトがいる。
山賊たちが見える位置に出て来た。
「遅かったね」
とセシリアが言う。手には氷の刃がきらめいている。
「お前がセシリアか、殺すのには惜しいな」
山賊の首領みたいな奴が言う。
「じゃあ、殺さずにあんたが死にな。数にものをいわせるつもりだろうが、それだけ弱い証拠だ」
と僕が言う。山賊の全員が見える位置に入ってきたところで、
「震地」
と叫ぶ。声を出したのはシェリルへの合図のつもりだ。山賊たちは咄嗟のことに対応ができない。土属性以外のものは膝をついている、土属性の者もふらついている。そのとき、ビュンという音とともに首領みたいな奴に矢が突き刺さった。
「副首領」
という声がかかる。首領じゃないんだ。
どいつが首領か分からなくなった。まあ、いいや。みんな倒せばいいんだから。ふと、僕も過激になってきたなという思いが浮かぶ。
マインドボールに「仲間を殺せ」という思念を込めて放つ。仲間の突然の裏切りに山賊たちは混乱する。場所を変えさらに3発放つ。山賊たちの壮絶な同士討ちが始まる。そのとき、ファイアーストームやウインドストームが炸裂する。山賊たちは近くにいる裏切り者を倒すために、こちらへの攻撃はできない。
もう一度震地をかけると、セシリアとアルトが突っ込んで行く。もちろん僕も遅れない。シェリルも風のレイピアに持ち替え、リーナと共に突っ込んで来る。ナナはブルグマンめがけて走っている。ブルグマンのいる方に向けてもう一度震地をかける。ブルグマンは片膝と片手を地面に着き耐えていた。
「ニャニャル。防具は立派になったようだが武器はちゃちな短剣が2本か。他の奴らは凄い武器を持っているのにな」
と揺さぶりをかけ、剣を一閃する。ナナは動揺せずに素早くかわす、さすが猫人族、動きが違う。かわしながら短剣をブルグマンめがけて投げつける。ブルグマンの太ももと脇腹に突き刺さる。
「高価な短剣はもったいなくて投げられないからね」
と言い放ち、腰に付けていたイバダンさんがナナのために作った特別製の解体用ナイフでブルグマンの喉を深々と切り裂いた。
あとの山賊も殲滅することができた。結局、誰が首領か分からなかった。首領はあっさり死んだのか、追っ手には加わっていなかったかは分からなかった。たいした武器もなさそうだったし、わずかな賞金のために首をいっぱい持って行くのはいやなので放置して先を急ぐことにした。
少し登ったところで、ゆっくり休憩し索敵を何度か使ってもらったが、さらなる追っ手を確認することはできなかった。1時間ほど休憩した後、再び登り始めたとき、セシリアの索敵に魔物がかかった。
「右前方にキングベアです。ワイルドベアも3匹います」
今まで、魔物を見なかったのが考えてみると不思議なくらいだった。
「キングベアか、Aランクだよね。もう魔食いの必要は無いし」
何とかなるだろうと考えていると。セシリアが続けた、
「左前方に、ブルーオークが率いるゴブリンの群れです。100匹以上います」




