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異世界はバラ色に  作者: 里中 圭
第4章 北の遺跡編
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第6話 カラプナル

 カラプナルは大きな都市だった。マリリアのように城壁に囲まれてはいるが、壁は低く、門は常に大きく開かれていた。門番も常駐している雰囲気はなかった。街に入ると冒険者も多く、経済活動は活発なようで、街全体が活気に溢れていた。料亭や酒場や娼館が目立つのも特徴だ。


 冒険者の格好は、北の国らしく重装備で荒々しい格好が目立つ。冒険者ギルドに行き、お勧めの宿を聞く。1泊の予定だが、治安がよく、清潔で、食事の美味しいところを紹介してもらう。最近はお金の心配がなくなったのが強みだ。


 『ラ・カラプナル』という高級旅館を紹介された。1人1泊銀貨12枚だそうだ。北の遺跡までは山での野宿が続くので、街に泊まるときくらい贅沢も許されるだろうと、その宿屋に決めた。


 食事には時間が早かったので、情報収集がてら、店を見て回ることにした。僕の目当ては書店だ。古代語で書かれた古い本があれば手に入れたいと思っている。伝説でもなんでも。セシリアとナナが付いてきた。

「ご主人様、何買うんですか」

「本が欲しいんだ。古代語の本がね」

「本屋ですか、あまり聞いたことがにゃいにゃん」

「そうなんだ」

「冒険者が多いですからね。本は売れそうにないですよ」

とセシリア、本じゃなくても古文書でもと、

「じゃあ、骨董屋が狙い目かな」


 なんて話しながら、街の散歩を楽しんでいると、ナナが急に僕の後ろに隠れる。

「どうした」

と聞くと、ナナは小声で、

「ブルグマンです、前にパーティーを組んでいた。一番体の大きいのがブルグマンです」

と答える。見ると、冒険者用の重装備に身を包んだ2組の夫婦と薄汚れた旅人用の軽装の小柄な猫人族が、高級そうな料亭の前に立っていた。そのうちブルグマンの妻らしい冒険者が猫人族にお金を渡し、何やら言っている。猫人族はお金を受け取り、屋台の方に行く。ブルグマンたちは料亭に入っていく。


 ブルグマンが料亭に入ったのを見届けたナナは、猫人族の方に走り寄り何やら話している。僕とセシリアもそこに行く。

「どうしたの」

と聞くと、ナナは、

「私のときと同じです。自分たちは豪華な食事で、この娘には銅貨20枚で食事をさせる。パンとスープくらいしか買えないんですよ、銅貨20枚では」

少し涙目になっている。


 セシリアが聞く、

「ブルグマンの所から逃げたい?」

猫人族は、

「はい、逃げたいです」

と力なく答える。さらに続けて、

「でも、このあたりは初めてで、お金もないし、強くもないんで逃げられません」

と泣き出した。気付かなかったが、どうやら女の子らしい。猫人族は人族よりも発達が遅いらしい。ナナもセシリアより年上なのだが、とてもそうは見えない。この娘は12歳くらいにしか見えないけど、冒険者なら15歳にはなっているはずだ。


 ナナが、

「サトシ様、この娘を助けて」

セシリアも、

「ご主人さまあ~」

と言う。そう言われては断れない。何とかしてあげたいと思う。

「分かった。とりあえず宿に連れて帰ろう」

といって、『ラ・カラプナル』に戻った。


 部屋に入るとみんな集まってきた。

「名前は」

「ロチャです。ヴァンデルの西にある村、ウシュアイアに住んでいました。15歳になって仕事を探していたときに、ブルグマンに支援魔法師にならないかと誘われて冒険者になりました。でも、稼ぎは全て取られてレベルアップしても取る魔法は指定されるし、宿には泊まらせてくれないし、食事も、・・・」

泣き声であとは声にならなかった。

「ブルグマンの手口です。私のときと同じです。私のときよりもひどいかも」

とナナが言うと、ロチャは、

「貴方が、ニャニャルさんですか」

「ナナルよ」

とナナが訂正すると、怯えたように、

「ごめんなさい、ごめんなさい」

と繰り返す。アルトが優しく抱きしめてあげた。


 それからは、ナナがブルグマンのことをひとしきり話し、ロチャが頷くという感じだった。リーナが冷静に、

「で、サトシ、どうするの」

と聞く、

「とにかく、食事にしよう。話しは食事が終わってから」


 食事を1人分追加し、ナナの部屋にベッドを1つ追加してもらった。豪華な食事にロチャは恐縮していたが、小さな体のどこに入ったのかというくらい、しっかり食べたようだ。

「とにかく、ブルグマンからは引き離そう」

「でも、どうやって。北の遺跡に連れて行くのは無理よ」

「冒険者ギルドに相談してみようか」

「それもいいけど、カラプナルでは危険かも。ブルグマンの本拠地みたいだし」


 ナナが、ロチャに聞く、

「ウシュアイアに帰りたい?」

「帰りたくないです。帰っても仕事はないし。それにブルグマンはヴァンデルに向かうらしいから、次に山には入るときにはウシュアイアにも寄ると思います」

「じゃあ、南に。アジメールのレイアさんに頼もう。悪いようにはしないと思うよ。信用できそうな人だったし、全力を尽くすなんて言ってくれてるからね」

「それしかないみたいね」

とリーナも同意してくれた。


「あとは、どうやって連れ出すかだね」

「ここから馬車に乗せるのは危険だわ。明日の朝早く馬でカングスまで行って、カングスの冒険者ギルドで護衛を雇ってアジメールまで馬車で連れて行ってもらうことにしましょう」

カングスまでは、僕とリーナが同行することにした。ナナも行きたがったが猫人族が2人いると目立つだろうから断念させた。リーナは人を見る目が確かだから護衛を頼むときに必要だし、僕が行くのはギルドカードのAの文字が威力を発揮するからだ。


 ナナは、

「リーナ、レンジャースーツをロチャにあげていい」

と許可をもらい、ロチャにリーナからもらったレンジャースーツを着せ、金貨を何枚か渡した。

「こんなにもらえません」

と言うロチャに、

「余ったら、今度会ったときに返してね」

と言って、無理やり押しつけていた。


 夜明け前、宿の馬を借りてカングスに向かった。ロチャは馬に乗れなかったのでリーナの後ろに乗せた。カングスの冒険者ギルドで女性のいる若い冒険者グループを雇い、アジメールまでの護衛を頼んだ。彼らは、Aランクの冒険者からの依頼だと張り切っていた。ロチャにはレイアさんへの手紙を持たせている。馬車を見送り、カラプナルに戻った。


 昼前に、カラプナルに戻ることができた。馬を返却して宿を出る。大通りはざわついていた。ブルグマンらが騒いでいたのだ。俺たちの連れがいなくなった。誰か知らないかと叫んでいる。

「あっ、猫人族だ」

と誰かが叫ぶ。ナナが僕の後ろに隠れる。

「お前、顔を見せろ」

とブルグマンが詰め寄ってくる。


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