第5話 アジメール
その後は順調に、ワイルドベアや灰色熊、大トカゲなどを狩りながら予定より1日遅れでアジメールに到着した。アジメールはルグアイ王国の南部で最も大きい都市である。ここから王都カラプナルまでは馬車で1日かかる。
アジメールの冒険者ギルドに行き、魔物から剥ぎ取った素材を売る。熊の毛皮に爪や牙、トカゲの皮、ビッグネイルの爪などを売る。数の多さにギルド職員は驚いていた、地竜の牙や爪を出したところで固まってしまった。ギルド職員は仲間に応援を求め複数で対応してくれた。地竜の鱗を出し終わって職員が、
「ギルドカードをお願いします」
と言うので、魔素を入れてもらおうとリーナがギルドカードを出した。見せるだけなら名前とAとパーティー名しか見えないのだが、冒険者ギルドで魔素を入れると属性がばれる、属性「闇」はまだ秘密にしたい。
対応したギルド職員は、リーナのギルドカードを見てまた固まってしまった。しばらくして、
「あなた方が『黒龍の牙』なのですか。お若いんでビックリしました。それなら地竜くらい討伐できますよね」
面と向かって言われるとやっぱり恥ずかしい。それに、もう『黒龍の牙』というのがルグアイ王国にまで伝わっているのにも驚いた。とりあえず聞きたいことを先に聞こう。
「お勧めの宿はありますか」
「宿ですね、それなら『トレーヴの麓』という宿がお勧めです。部屋も食事も最高だそうです」
「じゃあ、そこに行きます」
「私は、レイアと言います。何かありましたら、私をご指名いただければ全力を尽くしますのでよろしくお願いいたします」
「指名って、この国のギルドはそういう制度があるんですか」
「いえ、有名なパーティーと繋がりがあるって自慢したいだけです。でも、全力は尽くしますので」
「そのときはよろしくね」
とリーナが言って宿に向かう。
宿はこの街一番の豪華な宿だった。1人銀貨8枚と宿泊料もマリリアよりも高かった。部屋は、3人部屋を1つと、1人部屋を3つにした。3人部屋は広く豪華で、この部屋だけにして6人泊まっても良かったかなと思ったくらいだ、夕食はこの部屋で食べることにした。リーナが、
「あっ、これ、私の誕生日のときにアルトが作ってくれた料理に似てるね」
「ルグアイ料理ですよ。私の父はルグアイ人でしたから私も作れます」
「山の幸が多いときは、やっぱりルグアイ料理ですよね」
とナナ、ナナもルグアイ生まれだ。
みんなで話し合い、明日の朝早い馬車に乗るのも大変なので、この宿に2泊することにした。食事を堪能し、リーナたちはそれぞれの部屋に戻っていった。各部屋には風呂があった、3人部屋には大きな風呂があり、もちろん3人一緒に入った。石けんも置いてあり、お互いに体を洗いっこして、ゆっくり楽しんだ。疲れが取れたのだか、疲れが増したのかは微妙なところだった。スッキリしたことは確かなのだが。
アジメールは、王都から離れた都市だけあって自由な雰囲気が漂っている。トレーヴ山脈の入り口で、メルカーディアへの国境を越える拠点となっているため冒険者も多い。冒険者ギルドはしっかりしているし、都市警備隊が充実しているため治安も良いらしい。
2泊して、乗合馬車でカラプナルに向かう。乗合馬車の値段は1人銀貨1枚で距離を考えるとメルカーディアと相場は変わらないようだ。東側には草原が、西側には山脈が見える。どちらも雄大な景色だ。特に東の草原地帯は地平線まで続き圧倒される視界の広さだ。メルカーディアや教国は、所々に小高い山があるためこれほどの視界の広さは感じなかった。
馬車には、僕たちの他に1組の冒険者パーティーがいた。その中の1人が話しかけてきた。
「君たちも冒険者かい」
「はい、そうです」
「まだ若いみたいだが。稼げているのか」
「ええ、まあ稼ぎは良い方だと思っています」
「まあ冒険者だからな。俺たちは鰐専門なんだ。草原の奥には鰐の魔物が多くてね、結構良い稼ぎになるんだよ。皮も高く売れるしな。今日もカングスから東の草原に入るんだ」
カングスはカラプナルのすぐ南の町だそうだ。
「その防具も鰐皮ですね」
「そうそう、これも俺たちが狩った奴だ」
「ところで、お前以外は女の子ばっかりだがカラプナルに行って大丈夫か。荒くれた冒険者も多いぞ」
「ルグアイ王国は、ヴァンデル教の信者が多いので治安が良いんじゃないですか」
「カラプナルは特別だ、冒険者が多いからな、外国人も多いし、アジメールほど街の警備が充実していない。弱い冒険者はかもにされることも多いらしい。俺たちクラスになれば問題は無いんだけどな」
「俺たちクラスって、どれくらいなんですか」
弱そうに見られるのが耐えられないといった様子でセシリアが聞く。この世界では、個人のレベルは秘密にすることが多く、冒険者クラスが強弱の判断基準となる。正確な強さが表されているわけではないのだが、他に判断基準もない。男は自慢げに、
「俺たちはBクラスさ。鰐専門で偏ってるけどな。それでも喧嘩したらCクラスの奴らには負けたことがない」
自慢できるレベルなのかどうか、Bクラスの冒険者とは勝負しないのだろうか。
男は続けて言う、
「Bクラスは少ないからな。Bになると国軍に入る奴も多いんで、それにAやSは数えるほどだしな、で、お前たちのクラスは何だ」
シェリルがニッと笑って、
「Aクラスのパーティですよ」
男は、目をまん丸にして、そして笑って、
「冗談はよしてくれ、その若さでAなんて無理だろ。それともお前らのパーティーリーダーがカラプナルで待っているのか」
「冗談なんかじゃないよ、勝負してみる」
とシェリルは過激だ。男は驚いた様子で、
「ギルドカードを見せてくれ」
と言う。男の仲間も一斉にシェリルの方を向いている。シェリルは僕の方を向いて、
「サトシ、カード見せて」
と言う。見せなくては治まらない雰囲気だ。僕のだけが見ただけでAと分かるからしょうがない。
袋からカードを取り出し、見せる。カードが白くない時点でB以上は確定だ。そしてAの文字。その横に龍の文字が入ったパーティー名。
「お、お、お前。いや、あなた達が『黒龍の牙』。どうも済みませんでした」
と土下座する勢いだ。
「いえいえ、まだ若造ですから。そんなことしないで下さい」
しばらくして、気を取り直した男は、
「人は見かけによらないな。口は災いの元だ」
なんてブツブツ言っている。災いなんて起こしたつもりは無いんだけど。
馬車はカングスに着き、男たちは馬車を降りた。そして馬車は夕方にはカラプナルに到着した。




