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異世界はバラ色に  作者: 里中 圭
第4章 北の遺跡編
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第1話 黒龍の牙

 5日後の鰐の13日、僕たちは国王に招集された。今回の遠征の報告会である。王宮に入り、武器を預けて謁見の間に入る。荘厳な雰囲気で黒と赤を基調とした重々しい雰囲気だった。王が中央に座り、その横に宰相が立っている。右に武官、左に文官が並んでいる。本来なら王の近くにユージン様がいるはずなのだが、今回は報告する側であるために王の前、1段低いところにスカーレット様と共に跪いている。その後ろには彼らの従者がいる。


 僕たちも謁見の間に入り、僕はユージン様の左側に、他のメンバーはユージン様の従者の横に案内された。

「これより、魔物侵攻対策、南の遺跡遠征報告会を開催する。近衛隊長ユージン、報告せよ」

と宰相が開会を宣言する。ユージン様が報告する。

「我々、第1近衛隊、第3近衛隊、それに冒険者『紅バラの剣』の弟子たちで南の魔物侵攻に対するために砂漠に遠征し、マディヤのオアシス、南の遺跡を制圧し、魔物が侵入していた歪み、神の門を閉じることに成功いたしました。以上報告いたします」

国王が一言、

「今回の働き大儀であった」

一同が礼をし、国王が退出する。宰相が、

「ではこれより別室で詳しい報告を聞く。会議室へ場所を移す、1時間後に大会議室に集合せよ」


 僕たちのパーティーは武器を返され、控室に案内された。16畳くらいの部屋だ。テーブルと椅子が置いてあり、飲み物や果物が置いてあった。

「ふー、緊張したね。ご主人様」

「そうだにゃん」

「でも、もう肩がこることは終わりだね。あとはユージン様とスカーレット様が詳しく報告して下さるだろうからね」

などと話していると、ノックの音がして扉が開いた。


「そのまま、そのまま」

と言って入ってきたのは国王だった。国王は椅子に座ると、

「お前がサトシか、黒ずくめだな」

なんて言っている。入ってきたのは、国王、宰相、ユージン様、スカーレット様、それに絵に描いたような美少女だった。その美少女が、

「シェリル」

とシェリルに声をかけた。シェリルも、

「アドリアナ、久しぶり」

と返す。王女たちの再会は、庶民の友達どうしが合ったような雰囲気だった。シェリルと一緒に冒険者やってなければ絶対に見ることのできない光景だ。


 国王はあらためて、

「今回のサトシたちの働きは素晴らしかったとユージンが言うものでな。本当に礼を言う」

「いえ、大したことはしておりません」

「いやいや、もし古代語が読める者がいなければ今回の遠征が成功したかどうかは分からない」

と国王は言ってくださった。宰相も、

「もし、君らがいなければ、オアシスの文字を写し取ってマリリアに戻り、時間をかけて翻訳し、再び遠征して遺跡の文字を写し取ってまたマリリアに、それから3度目の遠征でやっと神の門を閉じることができるのだ。翻訳の時間を考えるとリトルサラマンダーが複数侵入していたかもしれない」

国王が割り込んで、

「そうだぞ。お前らはもっと自信を持っても良いんだぞ。そうだな、パーティーに名前がないのはいかんな。俺が付けよう、そうだな『黒龍の牙』というのはどうだ」


『黒龍の牙』というのを聞いて、ユージン様とスカーレット様の顔色が一瞬引きつったような気がした。気になったので聞いてみる。

「ひょっとして、以前にその名を名乗っていた人達がいるんですか」

宰相が答える。

「いや、いないはずだ。伝説にも出てこない」

「それなら『黒龍の牙』、ありがたく頂戴いたします。その名前に恥じないような冒険者になりたいと思います」

「おう、頑張れよ」

と言って、国王たちは部屋から出て行った。


 リーナが、

「国王から名前をいただくなんて、凄いことよ」

セシリアも、

「『黒龍の牙』か『黒帝龍の牙』じゃなくて良かった」

「あんまり変わりないにゃ。黒龍も黒帝龍も、恐れ多いことには変わりはにゃいにゃん」

と興奮気味のナナ、言葉が滅茶苦茶になりかけている。アルトは

「『黒龍の牙』ってものすごく強そうな男ばかりのパーティーみたいですね。その方がいろいろと便利かもしれないけど」

おいおい、国王の付けた名前の批評はするなよ、それに便利って何を考えているのかな。

「世界に轟くパーティーにしましょ。そしたら私も続けられるかもね」

とシェリルも言う。


 1時間後、僕たちは大会議室に案内されて、ユージン様を中心に詳しい報告をした。昼食のあと、さらに詳しい報告をするために各部署に別れることになった。僕たちが入った部屋にはアラスティア様がいた。


「サトシ、これから翻訳を頼む。シェリルたち5人はアドリアナ王女がお呼びだ、侍女が案内する」

とシェリルたちは部屋から出て行った。アラスティア様が、

「この者たちは、古代語を学ぶ言語学者たちだ。日記や遺跡の壁に書かれた物は、すでに書き写して各自が持っている。これを始めから訳しながら読んでいって欲しい」


 そう言われて、書き写された紙を持ち、日記から読み始める。学者たちは1文1文、僕が読んだまま書いていく。言語的な分析は後からするらしい。僕は書き取れるくらいのスピードでゆっくりと読んでいった。アラスティア様は要点だけをメモしているようだ。


 日記の方は、オアシスでじっくり読んでいたので、僕にとっては新しい発見は無かった。遺跡の方の文字には初めて読む物も含まれていた。神の門は長い年月を経ると少しずつ歪みが広がってくるらしいこと。北にも神の門があることも分かった。南はサマルカン大陸に通じ、北はシャイアス大陸に通じているらしい。そのことから、もう一つの大陸、ファジルカ大陸に通じる神の門も存在するはずだと書かれていた。


 夕方には全ての報告が終わり、国王主催の晩餐会が開かれた。コンラッド夫妻も駆けつけたようで『紅バラの剣』も全員揃っていた。その席で、

「サトシのパーティーは『黒龍の牙』と名乗ることを許す」

ということが、国王から通達された。会場は異様な雰囲気に包まれた。


 コンラッド様から、

「サトシ、これから大変だぞ。パーティー名に『龍』を入れることが許されるのは国王が命名する場合に限られる。つまり、国王の看板を背負って活動していけってことだ。国王が付けた以上名乗らなくてはならないしな。待遇だけならSクラスのパーティー扱いされるだろう」

「そ、そんな」

「今、この大陸に『龍』の字が入ったパーティーはお前たちだけだ。つまり伝説級って訳だ。国王が知っていて付けたかどうかは分からんがな」

なんか震えが出て来た。今更その名前はまずいですとも言えないし。


 アラスティア様が来て、

「よっ、黒龍の牙。頑張れよ。名前だけでは強くなれないんだからな。名前に恥じないようなパーティーに早くなれよ」

と声をかけてくれる。しかし、僕は声も出ない。みんな青ざめて固まっている、リーナでさえも絶句している。

「それから、マインドボールの実験。準備ができた、明日の昼過ぎに来てくれ」

「はい」

力なく答えた。


 それからは、料理の味もお酒の味も分からなかった。みんなもそうだったらしい。家に帰ってからもリビングに集まり、あまりの名前の重さにみんなため息ばかりついていた。


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