第12話 修行2
2日目以降は、午前中は乗馬と素振り、午後は座学があり、座学後は兵士たちと魔法抜きで実戦形式の訓練を行う。4人ともまともに打ち合えばとてもかなわないだろうという手練れだ。それを1対1、2対2、3対3、1対2、1対3、2対4などと味方や相手の数をいろいろ変えながら行うのである。防具を着けて、木剣なのでダメージは少ないが、それでも痛い。アルトも弱音を吐かないので僕も吐けない。セシリアやクラウディオさんに鍛えられていたのが良かったようだ。2人とも筋が良いと誉められた。
宿に帰ると、ぐったりして動くのも億劫なのだが、アルトと一緒に風呂に入ると我慢できなくなる。アルトが言ったように修行の疲れとは別物のようだ。これがあるから、辛い修行も精神的に耐えられる。1週間が過ぎ、いよいよ明日からは遠征に出かける。地竜やキングベアがいた地域だ。キャンプになるとコンラッド夫妻と一緒なのでアルトといちゃいちゃ出来なくなる。それが辛い。
次の朝、アルトのキスで目覚めて城へ行き、コンラッド夫妻と合流し、城の厩舎から馬を借りてトレーヴ山脈に向かう。乗馬は、とても馬上では戦えないが、ただ走らせるだけなら何とか付いていくことが出来るようにまでなった。
トレーヴ山脈に着き、宿を取るのかと思っていたが、今回は全て野営だそうだ。
「馬を預けないと戦うときに困るのではないですか」
と聞いてみる。
「馬を守るのも必要なことだ。ただ、余裕があれば結界を張れば良いのだが、今回は索敵が使える者がいないので馬を守りながら戦わなければならない」
「狼とか集団で来たらやっかいですね」
「そうだな。それでも馬も守り抜く」
「はい」
進んでいくとワイルドベアがいた。馬の前に出て加速と身体強化をかける。
「アルト、ファイアーアローを」
アルトがファイアーアローをワイルドベアに向けて放つ。ワイルドベアがこちらに突っ込んで来る。僕は盾を構え迎え撃つ。豪力を使いワイルドベアを止め、心臓を凍らせる。
「凄いな、お前の必殺技は。単体ならBランクの魔物も1人で大丈夫だろうな。2人いればAランクの地竜でも勝てそうだ」
「この1週間で、体を自由に動かせるようになったみたいです」
「だいぶ良くなったが、まだ動きが甘い。もっと動かせるようになるよ。じゃあ肉を取って料理しよう」
「死体はこのまま放置ですか」
「そうだ、土の結界を張るから馬と荷物は安全だ。死体のそばに魔物が来たら2人で何とかしろ」
僕はワイルドベアを解体して、肉をアルトに渡し料理してもらうことにした。アルトはアイリーン様と一緒に料理を始めた。料理が出来上がる頃に灰色狼の群れが現れた。10頭いる。
「2人で戦え。魔法で使って良いのは身体強化だけだ。加速も使うな」
アルトと2人で結界を出る。狼はこちらに気づき一斉に襲ってくる。剣と盾で、ハルバードで次から次に狼を倒していく。2対4で兵士たちと戦った経験が生きている、それに比べれば相手が弱すぎるようだ。囲まれても2人なら後ろからの攻撃は無い。あっさりと狼たちを倒して結界の中に入る。
「良い戦いだった。2人とも」
「相手が弱すぎたんです」
と言うとコンラッド様は、
「強ければ魔法を使えばいい。加速や豪力、ファイアーストーム、ファイアーラプチャーを使えばワイルドベア10匹でも今のお前たちの敵ではないだろう」
それからは、魔物がいれば僕かアルトが単独で倒していく。残った方は馬を守る。それを繰り返しながら進んでいく。AランクやBランクの魔物は出てこなかった。魔物討伐以外にも学ぶことは多かった。戦うための地形の選び方。その地形でのパーティーの配置、一気に乱戦にするのか、隠密に少しずつ数を減らすのか、などの作戦面を指導していただいた。そのいろいろな作戦を狼の群れやゴブリンの集団で実践していく。戦いの後はダメ出しが待っている。これを3週間繰り返した。コンラッド夫妻はもう60歳に手が届く年齢だが、疲れは全く見えなかった。夜は結界を2か所に張ってくれたので十分楽しむことができた。おそらくコンラッド夫妻も。
3週間の遠征を終えてテラッセンに戻る。次の日は城の厩舎に行き馬の世話をして、クリーンをかけて衣服を整えコンラッド様に挨拶に行く。
「4週間の間、いろいろと教えていただきありがとうございました」
「サトシ、砂漠遠征で実践を繰り返すことで、この4週間の修行の成果が試される。メンバーの1人1人がどのように成長しているのかを確認するのも忘れるなよ」
「はい」
「ひょっとすると『紅バラの剣』よりも強くなっているかもな」
「そんなことは・・・」
「いや、そうかもしれない。お前がメンバーの力をどれだけ引き出せるかでパーティーの強さが決まる。あとは実践あるのみだ。それに首輪解放後のことも考えておけよ」
アイリーン様がアルトと一緒にやってくる。
「サトシ、アルトは強くなってるよ。あまり庇いすぎると力を発揮できないので、それだけは気をつけて」
「分かりました。どうもありがとうございました」
2人に別れを告げ、乗合馬車でマリリアに向かった。




