第11話 修行1
次の日、僕たちは王宮に行き、アラスティア様に報告に行った。シェリルがパーティーに加わったことには驚いていたようだが、予想の範囲内であったのか取り乱すほどではなかった。
「シェリル、サトシのパーティーに入る以上は我々が鍛えるがそれで良いか」
といきなり呼び捨てで話しかける。こういうときの度胸は流石だと言える。シェリルも、
「よろしくお願いいたします」
としっかりと挨拶する。おどおどしないのは流石だ。こういう会話は僕には向かないと密かに思っている。これからはそうはいかないのだろうけど。
「達成金はいくらだった」
「金貨1千枚です」
「まあ、そんなもんか」
「多すぎるのではないかと思うんですが」
「いや、S級の依頼並みだ。まあ、リーナがいなければ探せなかったと思うし、運も良かったんだろうがな。他のパーティーが普通に探そうと思ったら人数を揃えて望まなくてはならないし、秘密のうちに探すなんてことはとても難しかったと思う。王女捜しでもあるので当然このくらいは出すだろうな。ギルドマスターのクラウディオも、S級の依頼を達成したパーティーとして認めるそうだ」
いろいろな話しをして、修行の話しになった。
「明日は装備を点検して、明後日から修行に入りたいと思います。よろしいでしょうか」
「そうだな、それでいい。シェリルはクラウディオのところだな」
「そうです。僕とアルトはテラッセンに出発します」
「新しく装備を調えるなら、修行の途中か修行が終わってからにするように。それぞれの師匠が相談に乗るだろうからな」
「分かりました。そうします」
そう言って、王宮を出て家に帰った。
「お金は1人金貨200枚ずつよね」
とリーナ。
「シェリルは?」
とナナ。するとシェリルは、
「私は助けられた方だからいらないわ。心配しないで、お金なら十分あるから」
さすが王女。リーナよりも金持ちなんだろうな。
その夜は、久しぶりにセシリアとアルトと一緒に寝た。アルトは明日からのことがあるので遠慮がちだった。明日が休みなので思いっきり夜を楽しんだ。次の朝、セシリアのキスで目覚めた。
シェリルも朝早く目覚め、アルトと一緒に朝食を作っていた。アルトがシェリルの料理の手際の良さを誉めるくらいだから器用なんだろうな、負けず嫌いなだけかもしれないけど。朝食を食べ終わり、セシリアとナナが後片付けをし、みんなで装備の手入れをする。ナウラさんは仕事に行った。その間に、今までのことをセシリアとリーナがシェリルに話している。
「全属性が揃っているなんて凄いパーティーね。みんなレベルも高いし。私も負けられないわ」
「レベル以上にみんな強いよ。連携もバッチリだし」
とリーナ。セシリアも、
「私も、以前は1人で何とかしようという気持ちがあったんだけど、連携を取る方が効率が良いのが分かったしね。みんなに迷惑はかけられないと考えるようになったのよね」
「早くみんなで戦ってみたいな。私に出来るかどうかは分からないけど」
とシェリルは言っているが、自信たっぷりな雰囲気が溢れている。
「とりあえず、明日からは修行だ。落ちこぼれないように頑張ろう」
と僕が締めるとセシリアが、
「ご主人様が一番心配なんですけど」
と言う。アルトもリーナも、
「そうよね。必殺技は持っていても、剣の使い方も考え方も何か頼りないのよね。コンラッド様にしっかり鍛えてもらってくださいね」
返す言葉がない。
「コンラッド様って、厳しそうだにゃん。ご主人様、泣いちゃうかも」
とナナまで脅してくる。
装備の手入れが終わると、明日からのことを考えてか期待と不安が交錯し緊張感が高まってくる。特にシェリルはクラウディオさんとは初対面なのだ。そういうことは言葉には出さない性格のようだ。みんなの方を向いて、
「リーナ、セシリア、ナナ。シェリルを冒険者ギルドに連れて行って。まだ、パジェのギルドにしか行ったことがないのでマリリアの大きなギルドも見せてあげて」
「はい、ちゃんとお父さんにも紹介しておきます」
とセシリア。
「アルトは、近衛隊の詰め所だよね」
「はい、ありがとうございます。サトシ様は何か用がおありですか」
「いや、もう一回寝る」
ということで、それぞれに行動をはじめた。何かすることがあると緊張もほぐれるものだ。
狼の13日、みんなはそれぞれの師匠の元に出かけた。僕とアルトは乗合馬車でアリンガム領のテラッセンに向かった。昼過ぎにはテラッセンに入り、城を訪ねた。コンラッド様とアイリーン様に挨拶をし、明日からの修行の打合せをした。宿は城から出てすぐのところに1週間だけ取るように言われた。1週後からは遠征する予定だそうだ。
これから1週間は、アルトと2人だけで宿に泊まる。お金は十分にあるので、宿は疲れが取れることを最重点に選び、大きなベッドのある風呂付きの部屋を朝夕2食付きでとった。宿の近くを散策し店の位置などを確認する。アクセサリーの店に入りほんの少しだが魔法防御の付いた指輪をアルトに買った。
「誕生日おめでとう」
というとアルトは涙を浮かべていた。そう狼の13日はアルトの19回目の誕生日なのだ。夕食も高い宿だけに豪華で美味しかった。
部屋に戻り一息つく。アルトが風呂の用意をして部屋に戻ってくる。
「サトシ様、お風呂の用意が出来ました」
とアルトが言う。
「じゃあ、一緒に入ろう」
と言って、服を脱ぐ。アルトは僕の脱いだ服をたたみ、服を脱ぎ始めた。
思えば風呂に入るのはこの世界に来て初めてだ。風呂好きというわけではないのだが、やはり日本人だ、ワクワクする。アルトもすぐに入ってきた。アルトが身につけているのはさっき買った指輪だけだ。もちろん視線は胸に釘付けなんだけど。アルトは桶に湯をくみそっと僕にかける。僕もお湯をアルトにかける。そしてお互いに石けんを泡立てて、お互いの体に付け合って、・・・・。
長い長い時間をかけて風呂を出た。疲れ果てた顔をしているもののすごく満足だ。アルトも幸せそうな顔をしている。
「やはり、2人だけって良いですよね。セシリアには悪いけど。ねっ、サトシ様」
「でも、修行の後にこれだと疲れ果ててしまうかも」
「ふっ、別物ですよ、きっと」
とまたキスしてくる。今度はベッドの上で・・・。
朝はアルトのキスで目覚めた。昨日の夜の疲れはすっかり取れてさわやかな朝を迎えることが出来た。体力が付いている証拠だろうなと考えている。朝食を食べ、準備をして城に向かう。1日目の午前中は、僕もアルトも練兵場で素振りをすることになっている。僕は剣と盾を装備して、アルトはハルバードで素振りをひたすら繰り返す。それをコンラッド様とアイリーン様が見ている。周りを見るとアリンガム領の兵が4人、僕たちの素振りを見ている。気を抜いた素振りをするとその兵たちから罵声が飛ぶ。素振りだけで気の入り方が分かるのだから相当の手練れなのだろう。
コンラッド様からときどき素振りの型を変えるように指示が飛ぶ。アルトの方を見ると気合いに充ち満ちている。
「剣のスピードが落ちているぞ。よそ見をしたぐらいで剣を乱すな」
と声がかかる。周りを見るのは連携に有効なので怒られないがそれで剣が乱れるのがいけないようだ。難しい。
午後は、僕は座学だ。作戦の立て方やチームメンバーに対する心得などをしっかり鍛えられるのだそうだ。アルトも座学が中心だそうだ。火の属性についてのレクチャーを受けるらしい。
座学が終わり、頭の中がパニックになろうとしたころ、コンラッド様が言った。
「サトシ、アラスティアが隷属の首輪を外した後のことを心配していたぞ」
「そうなんですか」
「隷属の首輪をはめていると、主人に好意を持ってくるそうだ。それを外すと好意が無くなるかもしれない。そのときにお前らのパーティーがどうなるかを心配しているらしい」
「そのことは、僕も考えました。アルトは、亡くなったお父さんがルグアイ王国の兵士でヴァンデル教の信者だったらしいのです。それで『恩は必ず返す』というのをお父さんと約束していて、それから始まっているので隷属の首輪がなくてもあまり変わらないと思います。でも、セシリアは初めて会ったときから首輪を付けていたし、エルフだし、どうなるかは分かりません」
「で、もし好意の感情が消えてしまったらどうする」
「わかりません。外せるのかどうかもまだ分からないし、パーティーも1年後はどうなるか分かりませんので」
「シェリルは1年の約束だったな」
「そのときリーナがどうするのかも分からないし、セシリアも抜けるとなるとパーティー自体を考えなくてはいけないかなと思っています」
僕がいつまでこの世界にいれるのかも分からないのだし長期的な視野では考えたことがない。
「そうか、まあ俺たちとしては、1人1人が強くなり、それぞれがパーティーを組んでくれて非常事態のときに力を合わせることができるというのも理想の形なので、パーティーが解散しても問題は無いのだが、俺はお前次第のような気がする。本気でパーティーを引っ張っていく覚悟があるのか」
とうとう、聞かれてしまった。とりあえずこう答えることにした。
「僕は、この世界に来てまだ半年です。それまでは違う世界にいて、その世界の記憶は霞がかかっているみたいに思い出せないんです。この世界での生活はまだ半年なのです。最初は属性もなく、生活魔法しか使えず、ステータスも見えていました。剣や弓も使えず、身分もありませんでした。偶然からセシリアとアルト姉妹を助けてこの世界で生きていくことが出来ています。でもそれだけなんです」
コンラッド様は少し考え込んで、
「お前らはレベルは低いが、もうこの世界では有数の実力を持つパーティーになっている。特に有名ではないが、スカーレット様も認めているし、ディオジーニもアラスティアも認めている。先のことは分からないが、今回の魔物侵攻にはしっかり対処して欲しい。今はそれだけを考えておけ。それから先はなるようにしかならない」
「ありがとうございます。そう言っていただければ心が少し軽くなりました」
「とは言っても、今回の魔物侵攻は大がかりだ。北からも南からも侵攻があるんだからな。止められる保証は何もない。心してかかれよ。お前らの働きに期待しているのだからな」
「はい、頑張ります」
座学が終わればまた素振りの練習だ。体が動かなくなるまで鍛えられる。同じ素振りを何百回、何千回とやる。すべて気合いを入れて。ふらふらになりながら宿に帰り、アルトと一緒に風呂に入る。いちゃいちゃしていると元気になってくる。風呂から上がり夕食を食べてベッドにダイブ。やることやって、気がついたら朝のキスの時間になっていた。また、1日が始まる。




