第10話 昼食会
ミレットさんが呼びに来た。
「食事の用意が出来ました。こちらにおいで下さい」
部屋に入ると、豪華な食事が用意されていた。食事係の侍女達は退席させられ、侍女はミレットさんだけになった。教国側の方を見るとシェリルも含めて5名が座っている。ディオジーニ様が教国側の出席者を紹介していく。
「ガルシアス国王陛下、教皇サルバティ15世猊下、シェリル王女、ライスナー魔法師隊隊長、それに私、宰相のディオジーニです」
それを受けて、リーナがこちら側の紹介をする。僕にさせるのは心許なかったのだろう。
「パーティーリーダーのサトシ、クラウディオ夫妻の息女セシリア、アルト、ナナ、それに私、マルチェリーナです」
国王が、
「シェリルを探し出してくれてありがとう。あのままだったらゴーストに取り殺されていただろう。礼を言う。本当にありがとう」
こういうときに僕は気の利いたことを言えない。ただ黙って頭を下げる。
ディオジーニ様が驚いたような顔をしていた。
「クラウディオの娘さんか、それであんなに早く事を済ませたのか」
「はい、申し訳ありません。それに許していただいてありがとうございます」
改まってセシリアがお礼を言う。
「いや、ライスナーの手の者が脱獄させる予定ではいたのだが、・・・、恩を売り損ねたぐらいのことだ」
ライスナーも笑って、
「ディオジーニ様、クラウディオたちの武器を返してもらえませんか。クラウディオのやつ、西マリリアの冒険者ギルドのギルドマスターをしてるんですよ」
「当然だ。持って帰ってくれ。冒険者ギルドからも睨まれたくないのでね」
教皇がリーナに話しかける。
「マルチェリーナ、私が教皇を継がせてもらった。お父様のご冥福を祈らせてもらうよ」
「はい、シュトロー様、いえ、サルバティ15世猊下。これで私も心置きなく冒険者がやれます」
国王が改まった表情で話し出す。
「今回のシェリルの行動は、国や国民のためを思い、戦いを防ぐためであった。しかし、公衆の面前で兄を暗殺するという行為は国王として認めるわけにはいかない」
僕たちは、不安な表情でお互いの顔を見た。国王は続ける。
「それで、一定の期間、シェリルの王位継承権を剥奪し、城内に軟禁することにした」
リーナが抗議する。
「それは、ひどすぎます。シェリルの罪は問われないと言われたじゃありませんか」
国王は笑って続ける。
「というのは表向きだ。シェリルに願いを聞くからといったら冒険者になるんだそうだ。それで、王位継承権を持ったままうろうろされると困るので、こういう措置をした。幸いシェリルという名前は一般的で多いから、冒険者のシェリルというだけでは特定はされないだろう」
いや、それは無理がある。この髪の色で、この可愛さで、この歳でとなるとすぐにばれそうだ。
「ばれても王位継承権は剥奪しているので、シェリル本人の問題だけだ。王家としては王女は軟禁中であるという態度は絶対に崩さない。サトシ、そのつもりでな。それからシェリル、とりあえず1年間は自由にして良い。その後のことはそれから考えよう」
え~、僕たちのパーティーに入ることが前提なんだ。嬉しいけど、怖いような気もする。
ディオジーニ様が、
「これから君たちのパーティーはどんな活動をしていくのかな」
シェリルが入ったからといって、予定を変えるつもりもなかったんで、
「マリリアに帰ったら、『紅バラの剣』のメンバーから教えを受けることになっています。私はコンラッド様から、セシリアはバーナード様から、アルトはアイリーン様から、マルチェリーナはアラスティア様から、ナナルはカタリナ様から教えてもらうことになっています。シェリル様が入ったらクラウディオ様が教えてくれると思います」
「様なんて付けないで、仲間なんだから呼び捨てにして」
とシェリル。うなずく国王。ライスナー様が感心したような顔で、
「クラウディオなら任せられる。お前たちは、『紅バラの剣』の後継者になるのか、凄いことだぞ」
「いえ、後継者じゃなくて、『紅バラの棘』くらいと言われています」
「それが、後継者なんだよ。あいつらはそのつもりだろうな。ちゃんと育ってくれよ」
ディオジーニ様も少しは見直したような顔で、
「それからは?」
「南の魔物侵攻に対して軍が出ますので、スカーレット様の友軍として着いていこうと思います」
「傭兵ではなく、友軍なのか」
「はい、傭兵になると勝手に動けなくなりますので」
「スカーレットが、そんなものを認めるとおもうのか」
「はい、スカーレットの従者に、そこのアルトの妹がいますので。それに地竜とキングベアの討伐にもご一緒しましたので」
「凄いな、お前らは」
とライスナー。
昼食を美味しく食べ、クラウディオさんたちの武器や荷物、魔素を受け取って王宮を後にした。次の日の早朝、ディオジーニ様のはからいで馬車に乗って出発した。途中で1泊し、2日目の夜にタンガラーダに着いた。そこで馬車を返して、次の日に乗合馬車で家に帰った。シェリルはリーナの部屋に入った。




