第6話 教国からの依頼
夜、アラスティア様が家に来た。
「ディオジーニから手紙が来た。恩赦が発表されたそうだ。セシリアのご両親は無実となり、メルカーディア王国の国民として暮らすことが認められた。脱獄に手を貸したパーティーも罪には問われないとあった。ディオジーニの掌で踊らされた感が強いな。それから教皇も決まり、マルチェリーナはもう探されることはないだろうと書いてあった」
「良かったね。リーナ」
とアルト。アラスティア様が、
「しかし、サトシ。罪を犯そうとするのに名前を残していくなんて不注意だぞ。今回はこれで済んだが、これからは注意しろよ」
「はい、反省してます」
「まあ、牢番たちを傷つけずに済んだんだからいいとして。そうだ、牢番たちもお咎めはなかったらしい。どうせ始めからこうなることは予想されていたということだ。せめて、ディオジーニの裏をかくくらいのことをして欲しかったな」
「・・・」
「それはそうと、教国から内密の依頼が来ている。シェリル王女が行方不明だそうだ」
「シェリルが」
とリーナ。
「シェリル王女は、兄であるアルバーノ王子をサルバティ大聖堂で殺害し逃げたそうだ。それから行方が分からない。ディオジーニは、今回の暗殺は大きな功績であり、もちろん罪に問うことはあり得ない。と言ってきている。ただ、兄殺しではあるし、暗殺であるわけだから、大きく賞賛することもできない。まだ、新しい王になり国内も安定していないので大っぴらに探すわけにもいかないらしい。微妙な問題として扱われているようだ」
「で、見つけ出したらどうするつもりなんですか」
と聞いてみると、
「ガルシアス王も願いがあるなら聞くと言っているそうだ」
リーナが、
「シェリルの性格から言うと、王家には戻らないと思う。それも聞き入れられるかしら」
「それは無理かもしれない。ガルシアス王に子供ができるまでは王位の第2継承者であるわけだから」
「まあ、どちらにしても探してみよう」
と僕が言うと、リーナも、
「もちろん探すわ。でも探し出してどうするかは私に任せて。それで良いですかアラスティア様」
「どうするかは任せるが、ちゃんと報告してくれるよね」
「はい」
アラスティア様が帰って、リーナに聞いてみる。
「で、あてはあるのか」
「何となくだけど。私もサルバティ大聖堂の地下道はよく知っているので、シェリルの選ぶ道筋も想像が付く。明日にでも出発したいんだけど」
「でも、準備もあるし」
「そんなに無いと思いますよ、サトシ様。今回は途中で買い物も自由にできるんだから」
とアルト。セシリアも、
「そうです。私たちも相当旅慣れてきたので、すぐにでも出発できますよ。遠征から帰ってきたばかりだしこのまま行っても何とかなると思うわ」
今まで黙って聞いていたナウラさんが、
「焦ったらダメです。今日は道順を検討してください。それから、最低限でも準備を整えて。休むことも重要ですよ」
「リーナ、シェリル王女が行きそうなところは分かる?」
「サルバティ大聖堂の地下道からだと逃げるためには、北に行くしかないと思う。北の地下道が一番長いし、森の中に出るからね。クラチエ学園の冒険演習場に入るのが一番確実に逃げられると思う。馬で入ると目立ちすぎるからその前にどこかで馬を放すことにはなると思うけど」
アルトが納得したような顔で、
「そうか、リーナと王女は学園の同級生だったのよね」
「そうです。それで私なら演習場に入ります。ただ、演習場はランクGの魔物しか入れないように、見回りが頻繁に有りますから、隠れるならそのすぐ北の山岳地帯になるでしょうね」
「でも、1人でそう何日も隠れることができるんですか、王女様なのに」
とナナが聞くと、リーナは、
「学園の演習では、戦い方の他に野営の仕方、料理まで自分でしなくてはならないの。シェリルは料理も含めて全ての科目で優秀な成績だったわ」
「でも食材とか」
「シェリルも闇の袋を持ってるの。100kgくらい入るやつを。武器も王家の物だとかなり良いのを持っているはずよ」
「じゃあ、そこが一番可能性があるわけだ。で、どうやって行く?」
「北回りで、カルビニアの南を通って、山沿いに進むと学園の演習場に着きます」
「演習場って入れるの」
「私は卒業生だから、許可をもらえば入れます」
「じゃあ、そのルートで」
セシリアが、
「乗合馬車で、タンガラーダまで行って、買い物して、馬車借りて、北回りで国境を越えるルートですね」
「それでいこう」
◇ ◇ ◇
シェリルは、どんどん奥に入って行った。途中、ゾンビやスケルトンにも出会ったのだが、何とも思わなかった。魔物たちも襲ってこなかった。3階層に下りて行った。3階層の中央の間に着いたときシェリルは倒れるように眠ってしまった。
シェリルは夢を見ていた。アルバーノ兄様を殺す場面が何度も何度も繰り返し出てきた。始めは静かに短剣を刺す場面だけだったのが、だんだんと、
「兄を殺して良いと思っているのか。お前を心から愛していたのに。どうして俺ではいけないんだ。なぜ、殺す」
といったような兄様の声が聞こえてくる。シェリルも、
「殺すつもりは無かったんです」
「でも始めから剣を隠していたのだろう」
「国のために」
「なぜ、俺が王になったら国のためにならないのだ。ガルシアスなら国のためになるとなぜ言えるのだ」
「それは、・・・、でも」
「本当に、国のためなのか。お前の単なる好き嫌いではなかったのか」
「違います。アルバーノ兄様もガルシアス兄様も同じくらい愛していました」
「それでなぜ俺を刺した」
「・・・」




