第5話 キングベア
それから、また山を上っていく。セシリアは属性が木のパフィアさんと話している。
「何か新しい魔法をとろうと思うのですが、何が良いと思われますか」
「セシリアは、サトシのために使いたいんだろう」
見た目は可愛い感じの美人なのだが、男っぽい感じでしゃべるパフィアさん。
「はい、ご主人様のために使えるものが良いと思っています」
「そうか、ナナもサトシのために魔食いの手伝いを申し出たくらいだからな」
「私も負けられません」
「何に負けられないのだ?」
「ご主人様のためになりたいのです。誰よりも」
パフィアさん、あきれたような顔で、
「そうか、それなら魔食いの手伝いだな。蔓の捕縛なんか良いかもしれない」
「あれはそんなに強い捕縛ができないのではなかったですか」
「強い魔物でも動きを鈍くすることはできるし、重ねがけすると威力が増すので、かなり使えるはずだ」
「そうなんですか」
「セシリアは、剣の腕が良いし、両手剣とはいえ氷の刃は軽くできている。蔓の捕縛で動きを止め氷の刃で瀕死に持って行けると思うが、どうだ」
少し考えて、
「分かりました。蔓の捕縛を取得します」
途中、灰色熊が出てきたので、アルトがファイアーラプチャーを試してみた。灰色熊は真っ二つに切り裂かれ、はじけ飛んだ。セシリアは蔓の捕縛で鳥を捕まえている。蔓の太さ、長さ、飛ばすスピードはある程度設定できるようだ。細く短い蔓ならかなりのスピードで飛ばせるらしい。始めは、なかなか捕まらなかったが、だんだんと取れる確率が増えてきている。
野営の準備をする。パフィアさんとセシリアが緑の結界をかけ、アルトが熊肉と野鳥の肉を料理する。その間、4人の従者は、あたりを調査しているようだ。何をどう見ればよいか分からないので僕たちは手伝えなかった。その後、夕食を美味しく食べ、楽しいひとときを過ごした。
朝、山を上り森の入り口でキングベアを見つけた。ワイルドベアよりも一回り大きい真っ黒な熊だった。ワイルドベアを5頭従えている。ワイルドベアのように他の魔物を追い出したりはしないようだ。
ワイルドベア5頭が突っ込んできた。その後ろからキングベアも続いてくる。左に僕のパーティー、右にスカーレット様のパーティーが位置している。エトシャの石つぶてが炸裂する。中央のキングベアと3頭のワイルドベアが怯みスピードが落ちる。左端のワイルドベアにリーナの雷槍が突き刺さる。さらにアルトのファイアーアローで止めを刺す。右端のワイルドベアにはトルネイドとウォーターカッターが炸裂している。僕は左のワイルドベアの前足にフリーズをかけ転ばせる、そして心臓を凍らせ倒す。
残りはキングベアとワイルドベア2頭。もう一度石つぶてが飛ぶ。アルトとスカーレット様がファイアーストームを放つ。ワイルドベア2頭が倒れる。
キングベアが突っ込んで来る。スカーレット様が炎の大剣を低く水平に振り切る。キングベアの前の両足が切断される。キングベアは顔から地面に突っ込んでいく。セシリアが氷の刃で右膝を切る。膝が凍る。パフィアさんが蔓の捕縛で首を締め付ける。
僕は加速で回り込み背中に駆け上がり、魔食いを唱える。強烈な何かが僕の中に入ってくる。そのとき倒れていたワイルドベアが起き上がり僕に襲いかかる。左手に持っていた盾を出し、「豪力」を唱える。ワイルドベアの一撃をあっさりと受け止めることができた。そしてフリーズをかけ止めを刺す。と同時にキングベアが起き上がり、背中から横に振り落とされる。その瞬間、光と炎がキングベアを襲いキングベアは後ろに倒れて行った。討伐は終わった。
「毛皮は使い物にならないね。右手をお願い、僕は牙を抜くから」
とナナに頼んだ。
山を下り、その日の夜に宿に着き1泊した。それから馬と馬車でアリンガム侯爵の城下町テラッセンに入り、お城で泊めてもらった。コンラッド様に、
「『豪力』を魔食いしたのか、それは良いものを手に入れたな。落ち着いたら俺のところで修行しろ。いいな」
「はい、そのときはよろしくお願いします」
アイリーン様も、
「アルトもね。鍛えるからね」
「はい、お願いします」
僕は気になっていたことをナナに聞いてみた。
「ナナ、ちゃんと話せるようになったんだよね」
「はい、話せるにゃ」
「でも、僕と話すときは、『にゃ』とか『にゃあ』とか付けるよね。最初の頃よりも付ける回数が多くなってきている気がするんだけど」
「サトシ様、好きなんでしょ。姉さんも付けようかなにゃんて言ってたにゃん!」
「・・・」
「あ~、私も付けようかな。いい考えだにゃん。ねっ、ご主人様」
とセシリア。まさか本気ではないだろうけど。みんな大笑いしている。この世界にきて僕はいじられキャラになってしまったようだ。
次の日に、マリリアに帰り着き、冒険者ギルドに寄り、達成報告をする。もちろんナウラさんが担当だ。お金も貯まり、また装備も検討できる身分となった。ナウラさんは
「戻ったら王宮に知らせるようにとアラスティア様から頼まれています。これから知らせに行ってきます。家に戻っていて下さい」
「分かった、家にいます」
リーナが心配そうに、
「アラスティア様、何かあったのかしら」




