第2話 紅バラの棘
シェリルは逃げている途中、はぐれ灰色狼に合う、いきなりレベルEの魔物だ。風のレイピアは振るとウインドカッターが出る。風の盾は急激に体当たりされるとその勢いを逆風で弱める魔法がかかっている。1匹だけだったのでなんとか仕留める。幼い頃から剣の修行はお兄様たちと一緒にやっていたのがよかった。右手の周りを渦巻くような風を6回感じた。「レベルアップね」、12ポイント有るはずだから、生活魔法1、加速、身体強化を念じ取得した。お兄様たちに魔法の取得の方法も教わっている。本を読んで何を執るべきかも分かっている。あと3ポイントは保留だ。
灰色狼2匹を見かけたが、逃げた。まだ複数の相手は危ない。
学園の演習場はGレベルばかりなのに少し外れるとEレベルとは、世の中厳しいな。
洞窟を見つけ、結界石を置く。ここでしばらく隠れることにする。
国王殺し、兄殺しの大罪人なのだ。ゆっくりレベル上げして、外国に逃げる。そのためにここを拠点にしよう。洞窟は3mくらいしか深さが無いが入り口は狭く中は見えない。
シェリルは、順調にはぐれ狼を仕留めていく。複数の狼には決して手を出さなかった。順調にレベルは上げているが、複数を相手にするのはまだ恐い。
2週間後、狼を探していると学園の見回りが来た。学園の冒険演習場の外にあるここまで見回るのかと感心しつつ隠れる。
山を上り、もう少し北に移動する。林の中に入り口の小さな洞窟がある。ここまで来れば誰も来ないだろうと、拠点にすることを決め、結界石を置く。結界石は4個で1セットで、洞窟を囲むように東西南北に配置する。ここでも、狼を中心に狩る。複数は相手にしない。
◇ ◇ ◇
クラウディオさんはギルドマスターの引き継ぎで冒険者ギルドに行っている。宿舎への引っ越しも終わった。ナウラさんも兔の1日付けで西マリリアに勤務することになった。1週前には引っ越してくるそうだ。
ナナはカタリナさんにべたっりとくっつき、いろいろ教えてもらっているようだ。レベルは僕とセシリアはまだ15のままだ。もう少しで2人とも16に上がれそうだ。アルトとリーナは13,アルトは14にあとちょっとらしい。ナナは14のままだ。
「これからお世話になります」
「ナウラさん」
「ナウラって呼び捨てでいいですよ。いろいろ便宜を図ってもらったうえに家にまで住まわせてもらうんですもの、本当にありがとうございます」
「いや、ていのいい留守番になるかもですよ。これから遠征も多くなるだろうから」
「はい、それは覚悟してます。留守番くらいでよければ、今までも1人暮らしだったんで」
猪の12日、ナウラさんが引っ越してきた。部屋割りは、僕とセシリアとアルト、リーナ、ナウラさんとナナ、ということになった。アルトはときどきリーナの部屋で寝るだろうけど。
次の日、僕たちは王宮に呼び出された。王宮に着くと、大広間に案内された。そこにはスカーレット様とカーラもいた。戴冠式の随行員の主要メンバーとその従者の集まりと言うことらしい。僕たちが呼ばれたのは、クラウディオさんとカタリナさんを救出したことのご褒美だろう。ナウラさんも一緒に連れてきた。
「あっ、コンラッド様とアイリーン様だ。紅バラの剣全員が揃っている。凄い。私がいて良いんですか」
「それを言うなら僕もいるのはおかしい」
「大丈夫です、ご主人様。私の両親ですから。それに、カーラの姉さんと、元教皇の娘さんのパーティーなんですよ、私たち」
「私もカタリナ様の弟子ですから」
とナナまで言う。
「スカーレット様ってさすがにかっこいいね。その隣は誰だろう」
と僕が聞くと、ナウラさんが、
「ユージン様です。近衛隊長の」
と答えてくれる。ナウラさんて凄い情報通だと感心する。
ユージン様からの報告が始まった。
「プエルモント教国の情勢が落ち着いたので、魔物の活発化に本格的に対処しなければならない。今回、教国の情報は諜報部が同行してある程度探れると思うので、南と北の魔物の状態を調査する必要がある。南は私が調査する。ルグアイ側の北はアリンガム領でもあるし、今回の教国からの帰国後すぐにではあるが、スカーレット殿に調査をお願いしたい。受けて貰えますか」
「もちろん。調査だけでよいのですか」
「もちろんAランク以上の魔物があれば倒していただきたいですが、ごく小数での遠征になると思いますので調査だけでもけっこうです」
バーナード様がその理由を付け足す。
「諜報部は、ルグアイ王国内を調査するので、メルカーディア国内の調査だけでいいのですが」
「分かりました。私のチームも含めて3チームくらい出しましょう。遠征期間中に2チームを調査に出します。帰ってきて私のチームが加わります」
「そうしていただけるとありがたい」
アラスティア様が他国の情報について話す。
「今現在、南の砂漠は相当に魔物の量が増えている、普段あまり見かけないものもいるらしい。ルグアイ王国からも魔物が多くなっているとの報告がある。教国も今回の事変で正確な情報は入っていないが、おそらく同じ状況だろう、北はルグアイと教国で対処してくれると、南の脅威だけに専念するだけで良くなるのだが」
ユージン様が答える。
「宰相もそのお考えだ。近々宰相会議も開かれるとか。きっとメルカーディアは南部を担当し、大遠征をしなくてはならなくなるだろうな」
クラウディオさんが、
「砂漠か、奥に行くほど大変だろうな。まとまった数ではなおさらだ」
「国軍は国境付近の魔物に対処してもらうとして、近衛隊の精鋭が遠征することになる。魔物は押し返すのは軍隊の方が良いのだが、討伐するときは個々のパーティーの強さが問題になるのでね。遠征のときは、私が指揮をとろうと思っています」
「ユージン殿みずからですか」
「不謹慎ですが、何が出てくるか楽しみですからね」
クラウディオさんがこちらを見ながら、
「冒険者も大勢必要でしょうね。南は1国だけで対処するわけだから」
「そうですね。ところで、そこの若者たちは何者ですか」
カタリナさんが答える。
「私たちの弟子たちです」
「紅バラの剣の弟子ですか、それは楽しみだ。遠征のときはよろしく頼む」
えっ、遠征参加は決まりですか。砂漠は苦手なのに。アラスティア様が追い打ちをかける。
「『紅バラの剣』を名乗らせるわけにはいけませんが、『紅バラの棘』くらいにはなると思いますよ。もちろん鍛えますけどね」
コンラッドさんも、
「じゃあ、おれも鍛えよう。リーダーは誰だ」
しかたなく、
「僕です」
「よし、落ち着いたら鍛えてやるから覚悟しておくように。しばらくは依頼をしっかりこなすことだ」
次の日、スカーレット様たちは、アドリアナ王女とともに旅立った。遠征は戴冠式の前の教皇就任式から始まり、祝賀会、黒日祭の日の戴冠式まで、4日の日程で行われる。遠征は2週間の日程だった。
その間、僕たちは、もう一度、レッドウルフに挑んだ。今度は怪我なく倒したが、やはり魔食いは出来なかった。その後はアーマードベアやオークキングの討伐で連携を深めた。レベルBの依頼は難なくこなせるようになっている。




