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異世界はバラ色に  作者: 里中 圭
第2章 プエルモント教国編
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第20話 終結

 王宮に着きアラスティア様の部屋に入る。アラスティア様とバーナード様が出迎えてくれた。もちろんクラウディオさんとカタリナさんを。

「よく戻ってきたな。サトシたちでは少し心許なかったんだが」

「そうですね。名のりをあげての脱獄ですからね。ガルシアスに勝ってもらわないと大変なことになる」

「まあ、とりあえず成功したのだから良いじゃないか。政治で片が付くことなら何とかなる」

「サトシ、ご苦労だったな。新顔がいるようだが」

「はい、ナナルといいます。支援魔法使いです」

「それで、魔食いはどうなった」

「加速と身体強化を取得できました。次の狙いはファイアースピアです」

「レッドウルフか、頑張れよ」


 バーナードが、

「で、教国の情勢は?」

クラウディオが答える。

「膠着状態のようだ。ディオジーニの掌の上で踊っているようにもみえるが」

「まあ、あいつは策士だからな。じゃあ想像どおり進むってわけだな」

「おそらくそうだろう」


 ◇ ◇ ◇


 アルバーノ軍が罠を解除しようとするが、そこにガルシアス軍が魔法攻撃をかける。罠の解除はなかなか進まない。別働隊を組織したいのだが、カラプナルは、軍を掌握し切れていないのを自覚しており、別行動をさせると、隊ごとの寝返りが怖い。アルバーノ軍とガルシアス軍はフーベル草原でにらみ合ったまま動けなくなっていた。


 大将軍モリエールがガルシアス側に付くと宣言し、北の領地から1千の兵を率いてフーベル草原に向かった。カラプナルはそれを聞きクラチエに撤退を決める。だが、クラチエに撤退したのはわずか2千の兵だけだった、残りは全てモリエール軍に合流した。


 勝勢は大きくガルシアスに傾いたが、アルバーノは首都クラチエに籠もり徹底抗戦を宣言した。ディオジーニを呼び、

「明日、戴冠式を行う。準備しろ」

「教皇もいない状態で戴冠式は無理だと」

「やかましい。教皇にはシュトロー枢機卿を就任させる。サルバティ15世と名乗らせれば問題は無いだろう」

「ですが、手続き・・・」

「必要ない。戴冠式は明日だ、場所はサルバティ大聖堂だ。ガルシアス軍を反乱軍とするしか方法はない。落ち着いたらルグアイとメルカーディアを招待して、戴冠祝賀会かなにか開けばいい。警備は俺が指揮しておく。ただちに布告せよ」

ディオジーニは逆らうだけ無駄だと思い、一礼して準備に入った。


 いかにもプエルモント教国全土に布告を出したように装い、クラチエの街中に布告を出した。また、王族にも連絡し、出欠の意向を聞いた。出席はシェリル王女ただ1人であった。


 アルバーノは、近衛軍を警備に残し、あとの1万2千をクラチエの北側に配備した。緊張のまま夜を迎えた。ディオジーニはシュトロー枢機卿に会い、

「シュトロー猊下、教皇に就任をお願いします。いずれ正式な就任式を行いますが、今日はこの書類にサインをいただくだけということで」

「私がサルバティ15世を名乗れと」

「そうです。内乱後の立て直しも共にお願いしたいと思います」

「1つ質問してもよろしいかな」

「はい、答えられることであれば」

「ディオジーニ殿は、どちらの味方なのですか」

「ご想像のとおりかと。これで答えになっていますか」

「分かりました。教皇就任はお受けいたします」

といって、シュトロー枢機卿は、教皇受諾のサインをした。


 サルバティ大聖堂は、古い建物である。この構造は複雑であるが、常に清潔に保たれている。正式な戴冠式なら別だが、このような戴冠式を行うからといって特に準備の必要はなかった。


 聖堂の奥の壇上で就任式を行い、最前列には首都にいるアルバーノ派の貴族。その後ろに選ばれた市民が参列する。近衛兵は、参列者の両側に完全武装で並んでいる。壇上は、アルバーノ、教皇、シェリル王女、枢機卿が2名、副宰相が2名のみである。内乱中ということであり、アルバーノは軍装で、シェリルは派手ではないが上品なドレスを着用して出席する。もちろん壇上で武器の所持を許されるのはアルバーノだけである。


 市民代表の多くは欠席したかったが、シェリル王女が参列すると聞き、一目見ようと参列したものが多かった。それくらいシェリルは人気があった。近衛隊長から、

「大聖堂はほぼ満席です。アルバーノ陛下の人気がわかります」

「陛下は、まだ早い。でも良い響きだな。貴族や市民の中にはどのようなやましい考えを持っている奴がいるかもしれん。警備は厳重にしろ」

「お任せ下さい。精鋭ばかりですから」


 そうして、戴冠式が始まった。壇上の向かって右にディオジーニと副宰相2人、左に枢機卿2人が控える。中央には教皇が立ち、そのやや右にアルバーノが背もたれ付きの椅子に座り、それに寄り添うようにシェリル王女が立っている。教皇の祈りが始まった。参列者は手を合わせやや下を向いている。近衛兵は客席を見下ろすようにたっている。


 シェリルは静かに、細く鋭いダガーをスカートの切れ込みから取り出した。あらかじめ鞘は付けていない。そして後ろからアルバーノの心臓めがけて背もたれごと突き刺した。ダガーには魔石が付いていて何の抵抗も無しに突き刺さる。シェリルは祭壇の裏に静かに消えた。


 数秒後、アルバーノの首がうなだれる。ディオジーニは、いま起こった出来事を理解した。椅子の後ろのダガーの柄を見ているディオジーニですら、理解するまでに10秒ほどかかっている。周りが気づくまで待ち、ざわついた瞬間、

「アルバーノ様」

と叫び、アルバーノの椅子に近づく、死んでいるのを確かめて、

「魔法治療師を呼べ、急げ」

と叫ぶ。大聖堂は騒然となった。近衛隊長が駆け寄ってくる。

「アルバーノ陛下・・・。シェリル王女を捕らえよ。大聖堂から出すな」

と叫ぶ。やっと何が起こったか理解した市民たちはパニック状態になり、混乱する。近衛隊も動きが取れない。それでも数人の近衛兵が祭壇の裏に入っていく。


 シェリルは、大聖堂の造りを熟知していた。上級貴族の学校、クラチエ学園でマルチェリーナと同級生であり仲が良かった。というよりも、王族のため、利害関係で近づいてくるものが多く、普通に接していられる数少ない友達だった。2人で、

「冒険者になりたいね」

と言いながら、マルチェリーナと探検し、この大聖堂の構造は全て知っている、抜け道も含めて。迷路のようになっている地下道を通り、秘密に作られた通路に入る。そこで風のローブとマントに着替えて闇の袋を背負う。狭い通路を抜け古い教会に出る。フードをかぶり馬に乗り北に向かった。


 アルバーノが死んで、国軍は崩壊した。ガルシアス軍はモリエール大将軍を先頭に堂々とクラチエに入城することができた。内乱の終結である。


 これで第2章が終わりました。

 多くの感想やメッセージをありがとうございます。

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