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異世界はバラ色に  作者: 里中 圭
第2章 プエルモント教国編
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第18話 脱獄

 ガルシアスはライスナーと合流しクラチエに侵攻する計画を練る。そしてフーベルの草原で相対することとした。もちろん、いろいろな罠を張って待っている。

「国軍がやっと動き出したようだ」

「はい、ガルシアス様。指揮官はカラプナルのようです。モリエール様でないなら負けはしません」

「でも数が多いからな、勝つのも大変だ」

「数は多いですが、士気は低いです。士気が低いと一度敗れるとバラバラになります」

「そこが付け目だな」

「カルメリット様がモリエール大将軍に連絡を取るといわれていましたので、モリエール様の出方一つでこの戦いの行方が決まると思います」

「どちらも教国の民だからな、殺したくない。できるだけ長くここでにらみ合うことにしよう」


 蛇の10日、国軍がフーベルの草原の西側に陣を張り終えた。サトシが身体強化を取得した日である。次の日、戦闘が始まった。まずは軽い小競り合いであった。エルフ軍の仕掛けた罠が効果を発揮し国軍はすぐに進軍をあきらめた。罠の解除に全力を尽くすようだ。これでガルシアスの計画どおり長期化しそうな気配となった。


 ◇ ◇ ◇


 サトシたちはクラチエの北の地下牢の近くに到着した。馬車は西の森の中に隠しセシリアが緑の結界を張る。何かあったらここに集まることに決めている。次の日の早朝、牢に近づき様子を見る。


 地下牢はクラチエの北にある小高い山の中腹にあり、周りには森が広がっている。牢の周りには何もなく30m四方くらいの広場になっている。牢を見張っていると、5名の兵士が牢に近づいていく。外の見張りをしていた2名のうち1人が中に入り3名の兵士とともに出てきた。


 牢番の交代のようだ。今までいた兵士が山を下っていく。新しく来た5名のうち3名は中に入り、2名が外で見張りをするようだ。魔法が使えない結界がかかっており、逃げ残ったエルフは6人だけだったために5名で十分なんだろう。牢番が交代し1時間くらい待つ。


 リーナが、フードを外し、牢番に近づく。美しい女性ばかりの方が油断するだろうということで僕は岩陰に隠れている。話し合いですんなり決まれば、アルトが合図をし、うまくいきそうになかったらセシリアが合図をすることになっている。


 リーナが進み出て、セシリアとアルトが1歩後ろで跪く。

「巫女姫マルチェリーナです。クラウディオ様とカタリナ様をここへ連れて来なさい」

牢番2人も跪く。

「はい、かしこまりました」

巧くいきそうだ。本物のお嬢様の威厳は凄いな。牢番の1人が中に入り、クラウディオとカタリナではなく牢番3人を連れてくる。小隊長らしき者が、

「アルバーノ様の書状かなにかありますか、書状がなければ申し訳ありませんが」

とおどおどしながら聞いてくる。身分上はマルチェリーナの方がずっと上なのだ。

「わたくしの頼みでも、こちらに連れてきてはもらえないのですか」

「アルバーノ様からの書状がない限りは、申し訳ありません」

牢番はまじめな性格なようだ。


 だめだと思ったセシリアが僕に合図をする。そんなに甘くなさそうだ。僕がマルチェリーナと牢番の間くらいに矢を放つ。どちらかというと牢番よりに。アルトが、

「きゃあ、マルチェリーナ様危ない。マルチェリーナ様が怪我されたら、あなた達の責任ですよ」

と少しわざとらしいがマルチェリーナをかばう。セシリアがせっぱ詰まったように叫ぶ、

「お願い、あの者を捕らえて」

とセシリアが叫ぶ。美少女のお願いは判断を狂わせる。牢番の3人がこちらに向かって走ってくる。僕は弓を剣に持ち替えて、逃げる。距離は30mほど。3人の兵士が追ってくる。加速を使いながら、追いつかれそうで追いつかれないように山の麓の方に下りながら逃げる。15分くらい走っただろうか、ここまで来れば帰りは上り坂だし、兵たちが急いで帰ったとしても30分はかかるだろう。とても走る元気があるようには見えないけど。それから僕は西へ逃げ、リーナたちが巧くやってくれていることを祈りつつ、馬車を隠した場所に移動する。追われていないことを十分確かめながら。


 その間に、セシリアがあっけにとられている小隊長を拘束し、リーナがもう1人の兵士を雷杖で叩きしびれさせ拘束する。リーナとセシリアが中に入り、エルフ6人を救出した。クラウディオとカタリナも一緒だ。手はずどおり、各々に牢番の部屋から武器を持たせて出てきた。


 牢から離れ、カタリナとセシリアがヒールを、リーナが光の癒しをエルフたちにかける。空腹らしいが歩くことはできるようだ。馬車のところまで移動する。セシリアはカタリナにピッタリと寄り添っている。アルトはうらやましそうにそれを見ていた。


 馬車のところまで来ると、ふたたび結界を張った。僕ははぐれるかもしれない作戦だったので、アルトが作った濃厚なスープが入った水筒とパンは袋から出しておいた。アルトがそれを温め直す。エルフ達は、待ちきれずにぬるいまま1杯目を啜っていた。

「胃がびっくりしますよ。それに、暖めたほうが美味しいので、1杯目はゆっくり食べて下さい」

とアルトが言う。


 セシリアは、ケンプ村で隷属の首輪を付けられたことを話した。ちゃんとした理由を話しておかないとクラウディオがサトシを殺してしまうかもしれないと思ったからだ。クラウディオもカタリナも黙って聞いていた。


 そこに僕が帰ってくる。クラウディオからものすごい殺気とともに睨まれる。

「お前がサトシか」

「はい」

そういうとセシリアが、かばうような視線を俺に送ってくれた。

「セシリアを助けてくれてありがとう」

礼を言われる。顔は恐いままだ。


 アルトが暖めたスープのおかわりを差し出す。クラウディオは黙って受け取った。僕は、

「隷属の首輪の奴隷も解放できる方法があるそうです。必ずその方法を探し出して解放します」

と宣言した。クラウディオは黙ったままうなずく。カタリナが、

「セシリアは今、幸せなのですね」

と聞く、

「はい、幸せです。ご主人様と別れたくありません」

と答える。カタリナはだまってセシリアを抱きしめる。


「なぜ牢番を殺さなかった」

「牢番を殺さずに助けられるなら、その方が良いと思って」

「甘い。もし、アルバーノが勝てばマルチェリーナが狙われることになるんだぞ。お前のことは知られて無くても巫女姫のことを知らない教国人はいないからな」

「そのときは教国には近づかないので問題ないです、でも、なんとしてもガルシアス様に勝ってもらわないと」

とリーナ。


「これからどうしますか」

と聞くと、4人のエルフは予想どおり、

「クラカウティンの森に行きます」

と言う。食料や着替えなどを入れたリュックを渡す。お金も少しだが入れておいた。クラウディオさんが、

「この情勢なので、追っ手はかからないとは思うが。念のため、いったん北に抜け大きく回ってクラカウティンへ向かうように。北の地域はガルアシス様を支持しているはずだ」


「お父さんたちはメルカーディアに、アラスティア様やバーナード様がお待ちです」

とセシリア。ご両親も同意してくれた。あとは国境をどう越えるかだけが問題だ。


 僕たちは、山を下りクラチエから直線的に南へ進んだ。それも目立つように。北へ逃げたエルフ達を気づかせないためだ。

「今日は、一気にトリニダの森に入る。追っ手は来ないと思うから馬を潰さないようなスピードで行く」

とクラウディオさん。リーナが聞く。

「なぜ、追っ手は来ないと思われるんですか」

「俺たちの実力を知っているからさ。少人数だと意味がないし、人数を多くすると編成に時間がかかる。どこへ逃げるのかを報告するくらいの尾行は付けるかも知れないが、襲っては来ないだろう。尾行も無いと思うがね。クラチエが混乱しているのがありがたい」

「問題は国境ですね」

「ディオジーニの配慮だろうが、冒険者カードはなぜか取られなかった。国境も大丈夫だ。俺たちの武器も牢に保管してくれてたら良かったのに、まあ言っても仕方ないか」

よほどのことがない限り、冒険者カードをみせれば通らせないという選択枝は無いようだ。クラウディオさんたちのことが国境の検問所にまで連絡が行っているとは考え辛いのだが、誰が通ったのかは記録に残るだろうし、念のため検問のない国境を越えることにした。


 馬車に乗る人数が増えたので、とはいっても御者含めて6人なのだが、馬に負担がかからない程度のスピードで進む。ときどき、カタリナさんが馬にヒールをかけている。夜遅くトリニダの森に少し入ったところで1泊、もちろん野宿だ。森の南側をかすめるように国境を抜ける。途中、一角兎やゴブリンが多数出た。ゴブリンロードもいたが、紅バラの剣の2人を加えたパーティーには何の障害も無かった。さすがにクラウディオさんの剣さばきはすさまじく安物の剣でも威力は抜群だった。カタリナさんから加速や身体強化をかけてもらうと、自分でかけるのとの相乗効果でものすごく強くなった気がした。そのままラーツ山の北を通ってメルカーディア王国に入った。森をかすめるように抜けたので国境の検問は無かった。国境を越えたところで南に進み、ラーツ山の北の村モルーヤで宿をとった。


「タンガラーダで人に会う約束をしています。タンガラーダで1泊しますが良いですか」

と聞くと、セシリアから事情を聞いていたらしく、カタリナさんが、

「私たちも、その姉妹に会って話を聞きたい」

と言ってくれた。


 次の日、タンガラーダに入り、光の森の泉亭に泊まった。2人部屋を3つ取った。セシリアが睨むので、部屋割りは、セシリアとご両親、アルトとリーナ、それに僕の3部屋にした。僕は冒険者ギルドへと向かった。アルトとリーナは馬車を返しに行った。


「ナウラさん、帰ってきました。今日、妹さんと会えますか」

「お帰りなさい。早かったんですね。仕事が終わったら妹を連れて宿の方にお伺いします」


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