表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界はバラ色に  作者: 里中 圭
第2章 プエルモント教国編
41/142

第17話 魔食い

 クラチエは混乱を極めていた。アルバーノ王子とガルシアス王子の争いである。どの軍が味方でどの軍が敵か疑心暗鬼に陥っている。アルバーノは軍監に指名したジョードブルをも裏切ったと考えていた。これがまた、国軍の編成を遅らせることになる。


 いろいろな情報が飛び交うなか、周辺の貴族は静観して混乱は全土には広がらなかった。ただクラチエだけが混乱していた。ディオジーニの頑張りで物価は抑えられていたが、物資の流れが止まり、また、買い占めもおき店から商品がなくなっていった。


 それでも、国軍1万を編成しクラカウティンの森を目指して進軍を開始した。ライスナーの出発から5日後だったのは、思ったより早かったというべきだろう。


 ◇ ◇ ◇


 サトシたちは馬車でタンガラーダを出発した。馬車は2頭立てで御者席に2名、車内にぎりぎり6名ほど乗れるやや小さめの物を借りた。荷物のことを心配しなくていいのがありがたい。御者の経験があるのはセシリアだけだ。リーナも馬の扱いは巧く少し練習すればいいらしい。僕も馬車くらいは動かせるようにならないといけないので、できるだけ御者席に座った。


 ラーツ山までの旅は順調そのものだった。南の麓にあるラーツ村に馬車を預け、宿をとる。

「女将さん、ブートドッグはどの辺にいますか」

「ブートドッグの討伐に来たんですか、少し山に入ればいますよ。まっすぐ山に登れば30分ぐらいで、はぐれているやつに出会えますよ」

「そんなに多いんですか」

「ええ、多いですよ。群れはこちら側には下りてこないんですが、はぐれたのは近くまで来ることもあります。村の連中は誰でもブートドッグ1匹ならすぐに追い返せるくらいの力はありますけどね」

「じゃあ、ちょっと行ってみます」

「初心者なら気をつけなよ、加速をかけるとけっこう早いからね」

「はい、分かりました」


 山へは、僕とセシリアで行くことにした。アルトとリーナは馬の世話をするという。はぐれたブートドッグなんて興味もなさそうだった。セシリアの索敵は必要なんで僕から頼んだ。


 セシリアの索敵にブートドッグがかかった。

「右に1匹います」

右に進み、ブートドッグを確認。ブートドッグが加速をかけ襲ってきた。盾を思いっきりぶつけ剣で刺す。倒れたブートドッグに右手を付け「魔食い」とつぶやく。何も起こらなかった。

「死んでからでは奪えないみたいだね」

「そうかもしれませんね。この先にもう1匹います」


 今度は、フリーズで左の肘と膝を凍らせていく。ブートドッグは左に倒れ移動できなくなった。盾で頭を押さえ腹に手を当てて「魔食い」とつぶやく。何かが僕の中に入ってくるのが分かる。加速が取れたようだ。ブートドッグに止めを刺し、試してみる。


 加速と念じ、剣を振る。かなり速く振れる。走ってみてもかなり早く走れる、すぐに効果が切れるのが難点だ。スピードを増す魔法では最も下級のものだが有ると無いとでは全く違う。魔法が奪えたこと、使えたことに満足して、宿に戻った。


 クリーンでみんなの体を綺麗にして夕食を食べた。夕食は僕の苦手な山菜だった。それからナナルのことをみんなで話しあった。

「サトシさんはナナルをパーティーに入れるつもりですか」

「わからない、とりあえず会ってみようとは思っているんだけど」

「サトシ様は女の子に甘いですからね、入れたいんでしょ」

「そうそう、『入れてにゃ』とか言われたら、すぐに入れますよね、ご主人様」

いかん、ばれてる。何も言い返せない。


 セシリアが、

「でも支援魔法使いは必要ですよ。属性も土なら誰ともかぶらないし良いんじゃないですか」

「土が入ると、あとは風だけですね。他に属性が無ければですけど。カーラがいれば全部揃ったのに」

とアルトも続ける。入れて良さそうな雰囲気だ。

「とりあえず会ってからだよね。みんなが賛成してくれないと入れないから、みんなで会うよ」


「リーナ、馬の状態は問題ない?」

「はい、荷物が無いのでこれくらいの人数なら余裕ですね。出発する前の荷物の量をそのまま入れたら、だれも乗れなくなったでしょうけど。袋一つですものね。すごい袋です」

「明日は、国境を越えてコルウェジまでだね。コルウェジは大きい町らしいから情報も集められると思う。早めに休もう。おやすみ」

「おやすみなさい」

といって、アルトとリーナが部屋を出て行く。俺たちも体の点検をして寝た。


 次の日、少し進むと国境の検問があった。リーナは緊張していたが、冒険者カードを見せるとすんなり通してくれた。

「検問があるんですね。帰りの検問が心配ですね」

「帰りは検問のない山の方を通らないといけないかな」

「トリニダの森の南縁を通れば大丈夫だと思います。ゴブリンはいるでしょうけど」


 夕方にコルウェジ草原に着いた。湖もある綺麗なところだ。観光地らしい。宿をとる。観光地らしい立派な宿だった、宿代も当然高かった。


 次の朝、僕とリーナは南の岩場にアルマジロンを探しに行った。セシリアとアルトが情報収集だ。リーナはできるだけ人目にはつけたくないからこういう組み合わせにした。


 アルマジロンはなかなか見つからなかった。セシリアの索敵がいかに有効かを思い知らされた。それでも3時間後に1匹見つけることができた。盾で思いっきり叩くと丸く堅くなり動かなくなった。動かないなら話は早い、魔食いをかけて身体強化を奪い取る。試しに、リーナに杖で軽く叩いてもらう。全く痛くないと思っていたら痛かった。しびれも入った。

「それ、電撃が入っているんじゃない」

「はい、叩くと電撃が入るはずです」

「それ、叩く前に言ってよ」

と言い返すと、今度は木の枝で思いっきり叩かれる。そんなに痛くない。身体強化がかかったみたいだ。


 宿に戻り成果を報告する。

「遅かったですね、2人で何してたんですか」

とセシリア、

「何をって、アルマジロンを探していたんだ。セシリアがいないと索敵ができないから大変なんだよ。セシリアがいればと何度思ったことか」

とセシリアに言う。それを聞いてセシリアの機嫌も治ったようだ。

「身体強化は取れた。明日はクラチエだね」

「クラチエの情報も集めておきました。国軍とエルフ族の戦いになっているそうで、エルフのセシリアも見つかると危険だと思い宿にいてもらいました」

「で、クラチエはどうなっている」

「クラチエは大混乱しているみたいです。牢の囚人の世話どころではないかもしれません。食事や水がきちんと与えられているか少し不安になりました」

「じゃあ、急がないとね」


「明日は、クラチエには入らず西を回ってクラチエの北に出る。それから北の牢を確認して馬車を隠す場所を決めて、救出に向かうとしよう」

「そうですね、できるだけ早く救出した方がいいと思います」

リーナも同意する。セシリアもうなずく。

「アルト、少量で吸収が早く栄養の高い食べ物を用意できる?」

「栄養たっぷりのスープを作っておきます、それにお弁当も」

「じゃあ、みやげ物屋でバッグを買ってくる。セシリアのご両親以外はクラカウティンに向かって貰わないといけないからね。他にいる物はあるかな」

「武器は牢番のものを奪えばいいので、とりあえずは入れ物さえあれば何とかなります。セシリア、エルフ族で食べられないものはある?」

「いえ、人族の食べ物なら何でも食べられます。野菜中心のほうがありがたいのですが、体力が落ちているのなら肉も必要でしょう」

「分かりました。食材は重くなるかもしれませんので、できればリュックを4つ買っておいて下さい」


 必要な買い物を済ませ、早めに休み、朝早く出発した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ