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異世界はバラ色に  作者: 里中 圭
第2章 プエルモント教国編
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第15話 2人の王子

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 ガルシアスはクラチエを出て東に逃げた。ガルシアスを推してくれる貴族たちにも連絡した。ただ、貴族たちはガルシアスが優勢になるまでは動かないだろうことは想像がつく。心情的にはアルバーノよりもガルシアスのほうが国王にふさわしいと思っても、アルバーノが軍部を押さえている以上、犬死にはしたくないのだ。それが領民の命を預かる貴族としての役目なのだと考えている。


 ガルシアスに残された道は1つだけだった。エルフ族を味方につけることだ。ガルシアスはクラカウティンの森を目指した。供は魔法師隊のエルフ4名のみ。森に入るとすぐに威嚇の矢が飛んできた。ガルシアスは動きを止め言った。


「私は、プエルモント教国の第2王子ガルシアス。エルフ族の長老殿にお会いしたい。お取り次ぎをお願いする」

そう言って、武器を全て馬上から地面に向けて投げ捨てた。供の4人のエルフも同じようにする。

「了解しました。長老に伝えます。馬を降りて、そこでお待ち下さい」

という声がして、静かになった。


 ガルシアスたちは、馬を降り、馬に寄り添うようにその場に立っていた。数分後、使いの者が来た。

「長老様がお会いになるそうです。武器は持ったままで良いそうです、付いてきて下さい」

ガルシアスは馬を引き歩いて付いていく。


 エルフの長老カルメリットは、ガルシアスを丁重に迎えた。

「お待ちしておりました、ガルシアス様」

「カルメリット様、待っていたとはどういう意味でしょうか」

「カルディオ王が亡くなられたと聞き、こうなることは予想できました。あと5年遅かったらガルシアス様が後継者の指名を受けていらっしゃったと思いますが」

「兄上には、その資格が無かったと言われるのですか」

「その器があれば、成人のおりに後継者として発表されているはずです」

「しかし、俺も15歳になったときに後継者には指名されなかった」

「そうですね。第2王子を後継者に決めるには、特別の決め手が必要と思われたのではないでしょうか」


 しばしの沈黙が流れ、

「特別な何かとは、俺と兄の器を測る何か、ですか」

「そんなものが都合よくあればよかったのですが、おそらくアルバーノ様が軍部でなにか失敗をされるのを待っていらっしゃったんではないでしょうか」

「ところが、あの性格だ。軍部ではけっこう人気がある。魔物の侵攻を食い止めるのもうまくいっている。副宰相にでもしていてくれたらすぐにでも失敗していただろうけど」

「そういうことです。それでガルシアス様を後継者にするのに、宗教の代表としての教皇サルバティ14世、政治の代表としての宰相ディオジーニ、軍務の代表として大将軍モリエール、魔法師の代表としての私、の4名で御前会議を開き決めるつもりでした。4名ともガルシアス様を推していましたので、あとは会議を開くきっかけを待っていたのです」


「しかし、こうなった以上は会議で決めることなど不可能だ」

「そういうことです。ガルシアス様は国王になってから何をなされたいのですか」

「俺が国王になったからといって、凄いことを考えているわけではない。魔物の侵攻を防ぎ、国民の生活を今まで通り維持していくだけだ。できれば少しでも豊かにしたいとは思うが」

「そうですか。それができれば良いのではないでしょうか。アルバーノ様にも以前、同じことを聞いたことがあります。そのときの答えは『まず手始めにメルカーディアに侵攻する』でした。この答えだけでもガルシアス様の方が後継者にふさわしいと私は考えています」

「軍にいる者と宰相のもとにいる者の差ではないか」

「そうかもしれません、そうでないかもしれません」

「俺にとってはありがたいことなのだが、今となっては力が欲しい」

「分かっております。もし国王になられたらエルフ族の処遇はどうなされますか」

「今まで通りで。それとも何か望みがあるのか」

「いえ、自治権があれば十分です。今まで通りであれば」

「それは約束する」


 アルバーノはディオジーニの部屋にいた。

「宰相、戴冠式はいつになる。できる限り急いでだ」

「戴冠式までにしなければならないことは、教皇の選定と就任式、国王陛下の葬儀、少なくともこの2つはやらなくてはいけません」

「教皇が殉死したのはまずかったか」

「殉死ですか。教皇の就任だけでも3週はみていただかないと、同時に準備を進めるとしても葬儀にはさらに1週、それから国王の選定式をへて戴冠式となります。メルカーディアとルグアイに招待状を出し、欠席の返事をもらうとしても戴冠式までは5週かかります。どちらかの国が招待に応じるとなると使節団を待たなくてはなりませんので、それ以上かかると考えるべきです」

「そんなにかかるか、もっと早くならないのか」

「これ以上は無理です。手続きを軽視すれば簒奪とみなされます」

「わかった。招待には欠席するように招待状を工夫しろ。それ以上は待てない。それまでは国王代行として命令を出すことには支障はないのだな」

「それは構いません」


「エルフ族にただちに王都に軍を出すよう命令する。命令文を作成しろ」

「エルフ族に一方的な命令はできません。なにか交換条件を出さないと彼らは動きません」

「条件とは」

「エルフ族が望むのは自治権です。自治権を保証すれば動くかもしれません」

「クラカウティンの森はわが国のものだ。国王の命令に従うのは当然のことだ。従わなければクラカウティンの森を焼き払うと伝えろ」

そう言って、アルバーノは出て行った。


「勝負は決まったな」

とディオジーニはつぶやき、過激な命令書をしたためた。これを見れば必ずエルフ族はガルシアスに付くというようなものを。


 数日後、アルバーノのもとに、ガルシアスがクラカウティンの森に逃げ込んだという報告が入った。アルバーノはただちにクラカウティンの森を攻撃するようにアルバーノの直属部隊である魔法師隊と国軍2個大隊の約2千名に攻撃命令を出した。

「ライスナー、相手がエルフ族でも戦えるよな」

「できれば戦いたくはないのですが命令とあれば全力を尽くします」

「よく言った。軍監としてジョードブルを連れて行け」


 ライスナーはエルフ族全員に招集をかけた。クラウディオとカタリナは国軍の監視が付いていたためにライスナーからの連絡が届かなかった。国軍よりも早く、エルフ族の軍人とその家族全員を連れて出陣した。軍監のジョードブル以下50名も連れて。


「軍監たちの朝食には眠り薬を入れておいた、馬車に詰め込み連れて行くぞ」

「この馬車はどこに」

「トリニダの森あたりに捨ててこい。馬だけは連れて戻れ」


 クラチエとクラカウティンの森の中間フーベルの草原に布陣した。エルフの家族たちは森に逃げ込み、森からはエルフ族の戦士たちが魔法師隊に合流した。


 エルフ族がガルシアス側に付いたことに激怒したアルバーノは貴族全てに出陣命令を出した。それと同時に国軍1万に出撃命令を出した。迎え撃つエルフ軍は魔法師隊1千名とエルフの戦士5百名。ディオジーニの巧みな工作で、国軍の動きは遅く出発するまでにまだまだ時間がかかるようだ。


 同時にアルバーノは、王都クラチエにいるエルフを捕らえ、といっても6名しか残っていなかったのだが、北の地下牢に収容することを命令した。これによりクラウディオとカタリナは残っていたエルフ4名とともに連行されていった。北の地下牢には都市部から少し離れているが、魔法を無効にする結界が張ってある、魔法に長けたエルフ専用の牢である。警備の手薄な北の地下牢を選んだのはディオジーニだった。また、そこに収容したという情報も流しておいたのは言うまでもない。


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