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異世界はバラ色に  作者: 里中 圭
第2章 プエルモント教国編
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第11話 アラスティア

 カーラは、侍女のメリムから従者の心得を聞いていた。メリムは40歳に届こうかという背は低く少し太めではあるがきびきびした動きの女性であり、アリンガム侯爵領出身で、ずっとスカーレットの従者付きをしているベテランだった。スカーレットの従者は、普通の従者と違い、精鋭部隊の1人であること。第4従者は準騎士扱いだが、限りなく騎士に近い扱いをされることなどが分かった。恐ろしいほどの大抜擢だった。


 スカーレットは、第3近衛隊の演習を終え、王宮に報告に来ていた。報告を終え帰る途中、廊下で宮廷魔術師に呼び止められた。

「スカーレット、演習はどうでした。砂漠も魔物が多くなっていましたか」

「これは、アラスティア様。魔物の数も質も上がっていました。40m級のサンドワームも出てきました」

「ではやはり魔物の活発化が進んでいると考えて良いようですね」

「そうだと思います。まだまだ対処できないほどではないですけど、放っておくのも危険かと」

「優秀な冒険者が必要になってきますね」

「『紅バラの剣』みたいなパーティーが欲しいですね」

「スカーレットのパーティーはもうそれくらい強いのでは」

「いえいえ、従者は入れ替わるものですからね。そういえば、今度、従者にした者の姉がクラウディオ殿の娘さんとパーティーを組んでいるとか」

「セシリアですね。どこを拠点に」

「このマリリアだそうですよ」

「会ってみたいですね。クラウディオのことも聞きたいし。その従者に会わせてもらえますか」

「はい、これから帰って、アラスティア様を訪ねるように伝えておきます」

「お願いします」


 スカーレットは近衛隊の執務室に帰り、カーラを呼び、

「ただちに王宮に行き、宮廷魔術師のアラスティア様を訪ねるように。アラスティア様がクラウディオ殿の娘さんのことを聞きたいそうだ」

「はい」

と返事をしてカーラは自室に戻る。

「王宮に行くなんて、どうしよう。何を着ていけば良いのかしら」

メリムは近衛隊の第2礼装を出し、

「これを着て下さい。目上の人に初めてお会いするときは、本来よりも少しかしこまった服装が無難です。大げさかもしれませんが、礼を失することはありません」


 カーラは第2礼装に身を包み王宮へと向かう。王宮の入り口で要件を伝えると衛兵が案内してくれるそうだ。迷子の心配はなくなった。王宮の荘厳な雰囲気にも気後れするが、衛兵や侍女達がお辞儀をしてくれるのにも戸惑いを感じる。思わず返礼をし、クスッと笑われる。衛兵に聞くと身分の下の人には返礼はしないそうだ、特に礼装のときは。自分の立場や地位が分からない。そういう状態で王宮に1人で行かせるなんてスカーレット様も人が悪い。なとど思っていると、

「こちらです」

と衛兵は、ドアをノックする。

「第3近衛隊のカーラ様をお連れしました」

と言った。

中から、ドアが開くと、衛兵はお辞儀をして戻っていく。帰り道は分かるかなとカーラは不安になる。

「どうそ」

と父親の年齢くらいの威厳を持った魔術師が言った。


 アラスティアはカーラを座らせ、

「セシリアを知ってるとスカーレットから聞いたのだが、どのような知り合いかな」

「はい、セシリアとは、ケンプ村がゴブリンの集団に襲われたときに初めて会いました」

と話し始めた。ゴブリンにセシリアと姉と3人で捕まり巣へ運ばれる途中でサトシに助けられたことからはじまり、先日の休みの日に手合わせをしたこと、まだ一度も勝てないことまで話した。

「クラウディオやカタリナとは会ったことは」

「ありません。セシリアのご両親は、いま教国に捕まっているとかで」

「そうか、ではセシリアをここに呼んで欲しいのだが、できるか」

「はい、長期の依頼は受けていないようなので夜には家にいると思います。黒月日は休みにしているはずですので明日なら大丈夫だと思います」

「では、明日の朝。ここに来るように伝えて欲しい」

「かしこまりました」

カーラはアラスティアのもとを辞した。帰りはアラスティアの侍従が送ってくれた。


 王宮からの帰り道、カーラはサトシ達の家に寄った。サトシ達は庭で剣の稽古をしていた、依頼は受けていなかったらしい。カーラが庭に入ると、アルトが、

「誰かと思ったら、そんな格好で帰ってくるとは思わないのでビックリした。今日はどうしたの」

「スカーレット様の従者になれた」

といきさつを話す。準騎士扱いされたこと、王宮のことも話した。

「セシリア、アラスティア様が明日お会いしたいって」

「お父様のパーティーの、私も会いたい。でも何を着ていったら良いのかしら」

「冒険者の格好でいいと思うよ、それが正装なんだから私達の。ドレスなんて持ってないでしょ」

とリーナ。

「リーナが言うならそうなんでしょうね」

とセシリア。カーラが染めていた色が落ちたリーナの髪を見ていった、

「リーナって金髪だったんだ、きれい。じゃあ伝えたよ、すぐに帰らなきゃ。剣の稽古と礼儀作法の指導を受けなければならないの。それから、しばらくは休みも取れないと思うから」

とカーラは帰って行った。

「もう少しゆっくりしていってもいいのに」

とアルトは残念そうに見送った。


 次の日の朝、セシリアはレンジャースーツとマントを着て、盾は持たずに剣だけを持って王宮に向かった。王宮の門で要件を伝え剣を預け衛兵にアラスティアの部屋に案内してもらう。アラスティアは父から聞いたとおりの人だった。色の薄い金髪で碧眼、長身で細く、思慮深そうな人柄がにじみ出ている。でも、父に言わせると1番のいたずら好きとか。


「クラウディオとカタリナの娘、セシリアと申します」

「そう固くならんでも良い。お父様とは旧知の仲なんで、おじさんとでも言ってくれたほうがいいのだが」

「父が今ここにいれば、そうお呼びしたかもしれませんが、なかなかそういうわけにも」


 セシリアは、両親の話、冒険者になったいきさつを話した。そして、

「ケンプ村でゴブリンに襲われ、カーラ達と巣に連れて行かれるときに、ご主人様に助けていただいて」

「待て。今何と言った。ご主人様。セシリア、誰かの奴隷なのか」

アラスティアは声が荒かった。明らかに怒りを表していた。

「ご主人様は、いえ、サトシ様は悪くありません。実は、・・・」

先ほど語らなかった、Dランクになって村に帰ってから、両親が教国に連れて行かれたこと、2人組から騙されて隷属の首輪を付けたことを話した。

アラスティアの怒りは収まらなかったが、どこへぶつければいいのかも分からなくなった。

「とにかく、今すぐにそのご主人様というのに会いたい。家はどこにある」

「怒らないでください。サトシ様は悪くありません」

「分かっている。そうだ、パーティー全員呼んでこい」

家の場所を聞いた侍従はすぐに呼びに行った。セシリアは何とか落ち着かせようといろいろな話をした。アラスティアはしばらくここで待つようにと言い、部屋を出て行った。30分くらいして戻ってきたときは少しだが落ち着いていた。


 ◇ ◇ ◇


 2時間後、僕たち3人はアラスティアの部屋にいた。アラスティアはいきなり侍従を殴った。

「王宮に危険物を持ち込ませるとは何事だ」

「武器は衛兵が預かりました。持っていないはずです」

僕の方を指さし、

「では、その客人の背中の物は何だ」

帰りに4人で買い出しに行こうかと思って、闇の袋を持ってきていた。中身はお金を入れた袋が入っているだけのはずだ。

「えっ、僕の背中? この袋のことですか。武器は入っていませんけど」

侍従の顔は青ざめていた。闇の袋には武器を入れておける、何本でも、それが分かったからだ。

「その袋、あらためさせてもらってもいいか」

とアラスティア。

「どうぞ」

と闇の袋を渡す。アラスティアはじっくりと袋を調べていった。途中から何やら思うことがあるように考え込みながら、そして言った、

「この闇の袋には呪いがかかっているようだ。使っていて何か異変はないか」

「いや、特に何も。凄く便利なだけです。何百キロの荷物を入れても重さは変わらないし鍛冶師のイバダンさんからも良い袋だと言われたほどです」


「何百キロも、・・・、そう、その便利さが問題なのだ。ひょっとしたらこれは『マジャルガオンの袋』ではないかと思う。もしそうなら危険なのだ」

そう言ってアラスティアは風の騎士ジェイハンの話を始めた。


 ジェイハンは風の属性を持つレベル25の騎士だった。そして北の神殿に調査に行き闇の袋、「マジャルガオンの袋」を手に入れた。無制限に入り、重量は変化せず、背負うと背中にピッタリと着く。戦闘には邪魔にならないし、背中への攻撃は全て無効になる。まさに良いことずくめの袋だった。

 しかし、その代償が大きかった。使っていくうちに、ジェイハンの攻撃魔法の威力が落ちていき、取得していたはずの魔法が消えていった。ジェイハンは袋のせいだとは気付かず、何かの病に侵されていると思っていた。

 そのことを高名な魔術師に相談した。魔術師は古い文献を調べ、病ではなく呪い、「マジャルガオンの袋」の呪いであることを告げた。「マジャルガオンの袋」の呪いとは属性が消えていく呪いであることを。

 ジェイハンは教会に行き、ステータスを調べた。属性は「風」から「無」になり、風属性の魔法は全て消えていた。ジェイハンは騎士をやめ冒険者となり、「風の弓」と「マジャルガオンの袋」を持って行方が分からなくなった。


 アラスティアも文献で読んだことがあり、それを知っていた。

「サトシといったな。お前は属性は何だ」

「無です。もともと属性はありません」

アラスティアは侍従に水晶を持ってこさせ、僕にステータスを見せるように言った。

「ステータス」

というと、僕のステータスが水晶に浮かび上がった。


 サトシ・ヒライ

 人族 男 16才

 レベル  15(経験値 24306)

 職業   冒険者D

 属性   

 HP   65/65

 MP   34/25+9

 力    22

 敏捷性  23

 持久力  22

 知力   25

 魔法   生活魔法1、生活魔法2

 特殊能力 鑑定、翻訳1(大陸共通語のみ)、遠距離操作

 ポイント 4P

 所有奴隷 セシリア(エルフ)、アルト(人族)

 

 取得可能特殊能力

   特殊能力<レア>

    翻訳2(1言語ごとに)/2P

 以上


「あっ、属性の『無』が消えている。空欄になっています」

「魔法は減っていないのか」

「もともと攻撃魔法は使えませんでしたから、ステータスも見えていましたし」

「今も見えるか」

「ステータス」

とサトシはいつものようにつぶやいたが何の変化も起きない。

「ステータスが見えません」

属性の「無」が消えた。僕の身体に何らかの変化が起こっていることは明らかだった。属性「無」が消えるとどうなるんだろう。

お気に入りが3000件を越えました。本当にありがとうございます。これからも頑張ります。

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