第10話 近衛隊演習
近衛隊の演習は冒険者でいうパーティーのように組まれ5人ずつの小隊に分かれて魔物討伐に向かう。もちろん強力な魔物には複数で対処する。カーラたちのパーティーは、小隊長のローヌ、チャイヤ、キリス、ワーリンそれにカーラの5人、それぞれ属性は、火、木、土、水、風で構成されている。それ以外にも精鋭部隊や魔法治療師隊が本部を形成し危急の場合に備えている。
カーラは、全長8mはあるスコーピオンというサソリの魔物の右側、左足の方に来ていた。カーラとワーリンはスコーピオンの左足を狙っている。前方でローヌ、チャイヤ、キリスが正面からサソリを攻撃し、サソリの注目を前方に集めている。カーラはウインドカッターでワーリンはウォーターカッターを飛ばし、一気に足元に飛び込み剣で足を傷つける。スコーピオンは左足で身体を支えられなくなり、左の第1肢である鋏で身体を支える。ローヌがファイアーアローで右目を射貫く。そう「紅バラの剣」がワイバーンを倒したときと同じ作戦だ。
スコーピオンの最後の攻撃、毒の尻尾での攻撃が来る。ローヌは素早く避ける。尻尾は深々と砂に突き刺さる。尻尾をチャイヤとキリスが切り裂く。ワーリンがスコーピオンの上に飛び乗り首の後ろに止めを刺す。スコーピオンは動かなくなった。
「やっと倒せた、結構きつかったね」
と言うとワーリンは、
「もう、ぐったりよ。歩けないくらい」
とへたり込もうとした。
「みんなのところまで行かないと、肩を貸すよ。討伐部位の剥ぎ取りもしないといけないしね。疲れたけど、良い戦いだったね」とカーラはワーリンに肩を貸す。
仲間の元に戻るとみんなぐったりしていた。特に攻撃を一手に受けていたローヌと止めを刺したワーリンは砂の上に座り込むほどだった。後は毒壺のある尻尾の先を切り取れば終わりだ。重い身体にむち打ってチャイヤとキリスが尻尾に向かう。カーラもワーリンをローヌの近くに座らせ、尻尾のところに向かおうとした。
そのときローヌの身体が砂の上を滑り出した。カーラはいち早く気づいた。
「ワーリン、赤い狼煙をお願い」
赤い狼煙とは、緊急事態発生を知らせる狼煙である。そう言い放ち、加速をかけローヌを追いかける。ローヌの足に触手が絡みついていた。カーラは双剣を使い触手を切る。ローヌの動きが止まった。生きているよね、
「小隊長、大丈夫ですか」
と声をかける。反応はないが、息はしているようだ。振り返ると赤い狼煙が思ったより遠くに上がっている。300mくらい追いかけたようだ。
何か視界がぶれた。砂が動いている。何かに囲まれている。
そのとき砂の中から、魔物が顔を出した。十数匹のサンドワームが襲ってくる。カーラはウインドカッターと双剣で、攻撃を防ぐ。幸いサンドワームは小形のものであり、一度には攻撃してこないようだ。精鋭部隊が来るまで何とか持ちこたえなければならない。4,5匹のサンドワームを撃退したときに、リリアーヌの部隊が到着した。サンドワームの気配は消えた。
「カーラ、よく頑張ったね。さあ、戻ろう」
とリリアーヌが誉めてくれた、そのとき、
「巨大なサンドワームが来ます」
とリリアーヌの部隊で索敵ができるパフィアが叫んだ。リリアーヌは、
「全員、退却。ローヌを担架に乗せて運ぶ。パフィア狼煙を、スリンは全員に加速をかけて」
と指示した。リリアーヌ隊の隊員は、担架を4人で持ち運ぶ。カーラはパフィアと2人で後ろを警戒しながら続く。
もう少しで、本部と合流できるくらいの距離まで来たとき巨大なサンドワームが砂の中なら現れた。直径は2m、長さは見えるだけでも10mはある、全長は分からない。
「みんな下がれ。あとは私に任せろ」
スカーレットが前に出る。スカーレットと4人の従者で構成される最強部隊だ。巨大なサウンドワームに対し、スカーレットが正面に、他の4人は右に2人、左に2人、少し離れた横で戦っている。4人はサンドワームの触手を瞬く間に千切っていく。怯んだところにスカーレットが走り込み、炎の大剣を大上段から振り下ろす。
「ファイアーラプチャー」
サンドワームは口から15mくらい真っ二つに裂け動きを止めた。
「今日の演習はここまで、総員、野営地に戻れ」
スカーレットは宣言し、野営地に戻った。スカーレットはリリアーヌとカーラを天幕に呼んだ。
カーラはスカーレットに経緯を報告した。
「カーラ、今回の働きは見事だった。おかげで犠牲者を出さずに済んだ、礼を言う」
「いえ、スコーピオンを倒したあとの油断が招いたことです。恥ずかしいことだと思っております」
「それは気にしなくて良い。サンドワームは演習前の索敵にはなかったものだ。お前のせいではない。リリアーヌ、今回の働きでエポロアが騎士になる資格を得た。よって第3従者を外れる。第3従者にはナジーを昇格させるが第4従者を推薦せよ」
「エポロアは風でしたね。ではカーラを推薦します。カーラはまだまだ伸びると思いますし、もともとスカーレット様の従者希望でしたので、カーラは貴族ではないので騎士にはなれませんし」
「カーラ、今日から私の従者になるように。動きが悪いようならいつでも変えるからそのつもりで」
「はい、精一杯頑張ります」
「私の従者になるということは、第3近衛隊の精鋭部隊に入ることと同じ意味だ。他の誰よりも強くなってもらわなければならない。お前は貴族ではない。貴族でなければ騎士にはなれない。よほどの功績がなければ準騎士どまりだ。これは国の決まりでもある。だが、私の従者はその範疇にとどまらない。第1、第2従者は騎士と同格、第3、第4従者は準騎士と同格に扱われる。強さだけではなく。礼儀も覚えるようにしろ。私に恥をかかせるなよ」
「はい、分かりました。精進いたします」
「私は『紅バラの剣』のアイリーン先生から剣と剣技を引き継いだ。お前は風だ、クラウディオ殿のようになって欲しいと思っている、リリアーヌが素質はあると言っている。是が非でも強くなれ、早くなれ。良いな」
「クラウディオ様、セシリアのお父さんのように・・・」
「カーラ、クラウディオ殿を知っているのか」
「いえ、クラウディオ様とは面識はございません。カタリナ様との娘さん、セシリアを知っています。彼女は姉とパーティーを組んで冒険者をしています。先の休みの日も手合わせをしてきました。残念ながら、まだ1度も勝ったことはありません」
「そうか、たしかお前と同じ年だったな」
「すぐに荷物を取ってくるように、リリアーヌ。ローヌの隊の再編成を頼む」
カーラは、深々と頭を下げ、静かに天幕を辞した。
遠征のための荷物を部隊のテントから運び、本部天幕の横にある従者用テントに入る。これからスカーレット様のお世話をしなければ、先輩従者の生活のお手伝いもしなければと心を引き締めていると、
「メリムと申します。カーラ様付きの侍女でございます。お荷物は私が整理いたします。武器のお手入れは私どもは出来ませんのでご自分でなさって下さい。必要な物がありましたら、私にお申し付け下さい」
「侍女って、私は従者の身。侍女なんて・・・」
「スカーレット様の従者は、準騎士様です。侍女が付くのは当然です。こういうことにも慣れていただかなくてはいけません」
カーラは、スカーレット様の従者というものの凄さに驚いていた。よくも従者にしてくれなんて、あのとき頼んだものだと冷や汗をかいていた。
サトシの1人称を「俺」から「僕」に変えました。
1年の長さとか、家賃を週単位にするとか、細かいところの設定は変えました。