第5話 鉱山
題名を変更しました。
カルビニアに着いて、ミレットさんの実家「カルビニア山荘」にお世話になった。実費はスウェードルさんが持つので宿代は特に気にしなかったが、イバダンさんは満足していたようだ。夕食も豪華だったし、いい部屋に通してくれた。メゾネットタイプで部屋の中に階段があり2階建て構造になっている、下の部屋は広くて大きなベッドがあり、上の部屋にはベッドが2つある、上の部屋は使わないだろうなと思う。イバダンさんもダブルベッドのある広い部屋に通されたようだ。
イバダンさんの欲しい鉱石は、鉄鉱石と龍鋼石らしい。龍鋼石は本物の龍とは関係がなく鉄と混ぜてより固く軽い金属を作るのに使う金属が取れるそうだ。坑道は長く、深く、龍鋼石はかなり奥にあるらしい。あまり強いものではないが魔物も出るそうだ。
朝食後、山に入る。雨がしとしと降り続き、道は濡れている。滑らないように気をつけながら登っていく。1時間くらい登った所に坑道の入り口があった。坑道というより洞穴という感じだ。中は暗いので全員がカンテラを下げ、火をつけた。中に入るとそれでも薄暗い。このカンテラは多少荒っぽく扱っても消えないらしいが、魔物との戦いの時に全て消えると真っ暗になり一方的にやられることになる。灯りを守ることも必要になるのだ。
入り口から少し入ったところにゴブリンが3匹いた。何の問題もなく倒し、奥に進む。一気に奥まで進み、龍鋼石から採掘する計画だ。セシリアの索敵に何かが引っかかったらしい。
「魔物の集団がいます。2m弱の人型です。ゾンビかスケルトンだと思います」
「集団って、どれくらい」
「30匹以上います」
「多いな、いったん帰るぞ」
とイバダンさんが指示を出した、ものすごく慎重だ。
僕は、ゲームではおなじみだが、この世界に来てゾンビやスケルトンは初めてだし見てみたかったが、そのまま逃げることにした。無事に坑道を出て、
「どう戦ったら良いんですか?」
と聞くとイバダンさんが教えてくれた。
「首と胴を切り離すか、胴を真っ二つにすれば2、3日は動かなくなる。核を壊せば完全に倒すことができる。武器を持っているからそう簡単にはいかないがな」
「核はどこにあるんですか」
「いろいろだ、決まってない。とりあえず宿に帰って作戦を立てよう。30匹に囲まれたらやっかいだ」
「アンデッド系は火に弱いんじゃないですか」
と僕がやっていたゲームの話をすると、
「ゾンビは火に反応はしますが特に弱いと言うことはありません。特にスケルトンは火の魔法は効かないみたいです」
とセシリアが応えた。スケルトンに効かないとなると、火はゾンビだけが気にするわけか、それなら、
「じゃあ、とりあえず火で攻めて、ゾンビだけおびき出すというのはどう? 生活魔法1のファイアーでゾンビを1匹ずつおびき出して首を叩き落とすことはできるんじゃないか」
「そうですね。他に良い案もないのでその作戦でいきましょう、イバダンさんはどう思われますか」
セシリアが賛成してくれた。で、イバダンさんをみると、
「とりあえずやってみよう、急ぐ必要はない。安全第一だ、失敗したらすぐに逃げるからそのつもりでいろ」
どうやら賛成してくれたようだ。また明日の朝、1時間雨の中を登るのかと思うとうんざりするが、夜の楽しみもあるし、どおってことないよな。
夜は、控えめに過ごすつもりだったのだが、なかなか控えめってのは難しく・・・。
朝、セシリアのキスで目を覚ました。この仕事はアルトにはさせないつもりのようだ。朝食を食べ、弁当を受け取り出発する。途中、魔物に出会わずに坑道の入り口に着く。中に入り、約300mくらい入ったところ、昨日と同じところで魔物の集団がセシリアの索敵にかかる。直線距離で約100mくらいのところまで近づく。
そこから僕とセシリアが2人で進む。僕のカンテラの火は消した。セシリアのカンテラは布で包み、最低限の灯りしか見えていない。いた、ゾンビとスケルトンの集団だ。スケルトンはそうでもないけど、ゾンビは気持ち悪い。嫌な匂いもたちこめている。
「じゃあ、やるよ」
とセシリアに告げ、一番近いゾンビのこちら側、左耳を狙い「ファイアー」をかけた。ゾンビはこちら側を睨んでいる、目が合った。といっても眼球はないのだが、なぜだかそれがわかる、怖い。気付かれた。ゆっくりと誘うように下がる。
「ウォーッ」
とゾンビが大声を上げて走ってくる。ほかのゾンビもスケルトンも追ってくる。
「イバダンさん、アルト、逃げて」
と叫びながら、全力疾走する。魔物たちの足は遅く、逃げ切れた。1匹ずつ誘い出すのは失敗したが、広いところに出れば、数を減らせるかもしれない。坑道を出て魔物が出てくるのを待つ。が、出てこなかった。完全に失敗だった。
「帰るぞ」
とイバダンさんに言われ、とぼとぼと山を降りる。イバダンさんは何も言わない。宿に帰り、
「済みません、僕の考えが浅くて」
と謝る。
「気にするな、試して見る価値はあった。そんなにみんなが危険にさらされたわけでもないし」
とイバダンさんが言ってくれた。これまでがうまくいきすぎて少し調子に乗っていたことを反省する。反省しながらお弁当を食べた、美味しかった。昼前に宿に帰っているとは思わなかった。
「明日は黒月日だし、休みにしよう」
とイバダンさんが言った。こちらに来て、仕事らしい仕事はしていないのに、
「疲れていないから、休みは必要ないと思います」
と言うと、
「今日と明日で、作りたいものがあるんでな」
「何を作るんですか、手伝います」
「いや、必要ない。俺1人のほうが早い」
とすんなり断られた。いよいよ、出番がなくなっていく。やはり実力で雇われた護衛ではなく「闇の袋」の運搬人で雇われたんだなと落ち込む。
「じゃあ明日、私が料理を作ります。女将さんに厨房を使わせてもらうように頼んできます」
とアルトが部屋を出て行く。いいなアルトは、やることがあって。セシリアは僕の横でじっとしている、やはり、やることがなさそうだ。
「ご主人様、剣の稽古しましょう」
と誘ってくれた。そうだな、こんな時は思いっきり汗をかく方がいいなと思ったが、外は雨。濡れると寒い。
「行きますよ」
とセシリアは濡れても良いように上着を脱ぎ、薄着になった。それを見た僕は、
「よし、行こう」
と上着を脱ぎ、練習用の木剣を袋から出した。
気合いは入れたつもりだが、何本も立て続けに打ち込まれた。僕の予想通り、濡れたセシリアの服は透けて見え、訓練にはならなかった。身体が冷えてきたので15分くらいでやめた。部屋に帰ってアルトに暖めてもらおう。
次の日、アルトは腕を振るい豪華な料理をだした。もちろん、旦那さん、女将さん、ミレットさんも一緒に食べた。
「これはルグアイ料理ですね」
と女将さんが聞く。アルトは、
「母はメルカーディア人ですが、父はルグアイの兵士だったので、ルグアイ料理もよく作っていました。山の食材が多いときはルグアイ料理のほうが合うと思うんです」
「とても美味しいです。明後日のお嬢様の誕生日にまた作って下さい。お嬢様もふさぎ込んでるし元気をつけてあげたいのです」
「お嬢様っていくつになられるんですか」
「15歳です。成人のお祝いなんです」
「ご主人様、いかがいたしましょう」
こういう他人がいるときはアルトはご主人様と言う、使い分けがきちんとできる大人なんだなと感心する。
「イバダンさん、良いですか?」
「まだ、俺の方も終わっていないのでいいよ」
「終わっていないって、何を作っているんですか」
「罠だ。ばらまけば、あいつらは一度には襲ってこれない。もう少し数を増やしておきたい。持って行くのは楽だしな」
武器の手入れやら、道具の整理をして過ごした。もちろん身体の手入れも忘れない。アルトが奴隷になって身体のチェックはセシリアと2人でやってしまうので夜の楽しみが1つ減っているのが少し残念だけど。
お嬢様ってあのときの娘だよね。碧眼の美少女のはずだ。髪は金髪かな。なんて考えていると、セシリアの手が僕の目の前を上下する。
「何考えていたんですか。完全に意識が飛んでいたようですけど」
「いや、ゾンビのことを」
「うそです。顔がでれっとしてましたよ」
ははは、ばれてる。
◇ ◇ ◇
カーラは入隊して初めての休みをもらった。始めは新年に採用された新兵たちと同じ片手剣と盾、弓の訓練を受けた。剣技は、途中入隊にも関わらず、ずば抜けた実力だった。弓はそれなりだったのだが風の加護があるので問題はない。リリアーヌは、カーラを双剣部隊に配属することを決め、スカーレットに上申した。
双剣部隊では、まだまだ実力不足ではあったが落ちこぼれるほどでもなかった。訓練を受けるにつれて先輩たちからも1本取れるようになってきた。相当な上達速度であることはリリアーヌからの報告でスカーレットが驚いたことでもわかる。
そして入隊して初めての休みの日、カーラは早く起き、アルトたちが待つ家に向かった。家に着いても誰もいなかった。セシリアに剣技をみて欲しかったのにと残念だったが、依頼をこなしているんだろうなと思いあきらめ、また兵舎に戻っていった。




