第4話 カルビニアへ
マルチェリーナはアルバーノに呼び出された。そして最も聞きたくないことを聞かされた、
「サルバティ14世は、殉死を選択した。今頃は父王と2人して神の御前に並んでいることだろう」
マルチェリーナは気丈にも声を上げなかった。ただ、涙がぽろぽろと流れ落ちていた。耐えられなくなって床に這いつくばるような格好になっている。アルバーノには平伏しているようにしか見えない。
「14歳のお前には辛いことだろうが耐えてくれ。そして父の後を継ぐように。もうすぐ15歳になるんだったな、15歳になったら愛妾に加えてやるから俺の元へ来い。それまでは、命令書にサインするだけでよい。まずは、宰相のところに行って教皇受諾のサインをしてこい。誰か、連れて行け」
ディオジーニは今後のことを考えていた。王権は混乱するだろうが政治は滞りなく行わなければならない。国王も教皇もいなくなった今、事務方が落ち着いていなければ国民の生活が壊れてしまう。
「宰相閣下、国王陛下の命により教皇猊下をお連れいたしました」
誰が国王で誰が教皇なのかな。見ると、兵がマルチェリーナを連れていた。
「わかった、下がってよい。マルチェリーナ様、こちらへ」
「私、教皇なんかにならない。あいつの愛妾にも」
「わかっております。ではお逃げなさい」
「逃がしてくれるんですか」
「はい、どこへでも。行く当てはありますか」
「いえ、ありません」
「では、カルビニアにある私の隠れ家に行っていただきます。絶好の避暑地です。まだこの時期では肌寒いかもしれませんが」
「でも城から出られるかしら」
「その金髪は目立ちます。髪を切って、茶色に染めていただきます。よろしいですか」
「はい、そのくらいで良ければ」
「案内は、ミレットに頼みます。カルビニア出身の私の侍女です、剣も使えます」
ミレットが手を差し出し、
「こちらで髪をお切り下さい、ご案内いたします」
ディオジーニは、教皇受諾書に左手でマルチェリーナの名前を書いた。
◇ ◇ ◇
荷物は闇の袋に入れた。イバダンの物は馬車に積んであった。
「サトシ様、俺の荷物も袋に入れてくれ、入ればだが」
「サトシでいいです。こっちがセシリア、それにアルト。みんな呼び捨てでいいです」
「そうか、助かる。敬語は苦手なんでね」
「袋に全部入りました。大丈夫みたいです」
「やはりすごい袋だな。これで馬の負担が減る。助かった」
スウェードルが見送ってくれた。スウェードルにも呼び捨てにするよう頼んだが、商人ですからと断られた。
雨の中、馬車はまず、ラウニオン街道を西に行き、懐かしいモンテロ伯爵領に入り1泊し、オルソノ街道を北に向かった。途中、町や村で3泊した。その町の一つがコモドラドだった、セシリアが売られるために連れて行かれそうになった町だ。2人は宿から出ようともしなかった。そして、森を抜け、森では灰色熊を3匹ほど倒し肉を堪能し、そして国境を越えた。プエルモント教国に入った。
壁も検問もない、なんかいい加減な国境に思えた。冒険者カードがあれば国境は関係ないらしいが。あとは北に行くだけ。だんだんと山が迫ってくる。このあたりで1泊することにした。小さな町に入り宿に入る。2人部屋が2つ取れた。部屋割りはもちろん3人と1人。イバダンはその夜、遊びに行って帰ってこなかったらしい。それなら1部屋で良かったのに。
それからは、魔物を倒し、レベルの低い物しか出てこなかったが、イバダンの指導のもと、必要部位の剥ぎ取り方と内臓の位置を勉強しながら進んだ。
2日後カルビニアのすぐ南。山あいを上り、気温も下がる。マントがあるので何ともないが、無かったらと思うとぞっとした。雨期の時期にこのあたりに来る人はまばららしい。鍛治師でなければ真夏にしか来ないらしい。それでも1台の馬車が狼の群れに襲われているところを助けたくらいだから、全く人が通らないわけでもない。
「ありがとうございます。助かりました。女2人の旅で、この時期に狼が群れで来るとは思いませんでした」
「僕はサトシ。冒険者で、今は鍛治師の護衛中です。カルビニアまで行きます」
「私はミレットと申します。勤め先のお嬢様を旦那様の別荘までお連れしている途中です。私の実家が宿をしておりますので、もし宿がおきまりでなかったら利用して下さい」
馬車のほうをみると目だけしか見えないが、碧眼の少女がいた。きっと美少女だ、絶対、だってお嬢様だもの。
「では、出発しましょう。ついてきて下さい」
青龍の20日、2台の馬車はカルビニアに入っていった。
◇ ◇ ◇
そのときはまだ、アルバーノは国王への地固めに自信を持っていた。




