第3話 国王の死
「ディオジーニ様、大変です。国王様が」
国王の侍従が慌てて宰相の執務室に飛び込んできた。青龍16日の朝のことである。
「国王様がお倒れになられました。現在、魔法治療師たちが治療にあたっておりますが、もう・・・」
カルディオ・プエルモント国王は47歳、健康そのものであった。それが突然倒れ帰らぬ人となったのである。国王には5人の子供がいる。長女ティレニアはルグアイ王国妃、長男のアルバーノは国軍司令官、次男ガルシアスは宰相補佐官、三男テルミニオは教皇の元で修行中、そして教国の宝石と呼ばれる次女シェリルは15歳になったばかりである。
教国では、教皇は政治にはほとんど関わらないが、国家的大事業を行う際は権威の象徴として命令書にサインする。そして、国王の任命には絶大な力を発揮するのである。
「宰相、これからどうなる」
質問したのは、宰相補佐官であるガルシアス王子である。ディオジーニは答える。
「後継者争いが始まります。ガルシアス様が何もしないなら別ですが」
「兄はどう動くと思う?」
「アルバーノ様は嫡男ですが、政治的駆け引きがうまくありません。話し合いで決められるのならガルシアス様に決まるでしょう。教皇猊下もアルバーノ様を押されることは無いと考えます。また、テルミニオ様やシェリル様はお若すぎます」
「では、兄は力で押してくると?」
「おそらく、軍はアルバーノ様が握っておられますゆえ」
「とりあえず俺は逃げるので、後はよろしくな」
「わかりました。少しでも早いお帰りを願っております」
ディオジーニは、補佐官たちを集め、混乱ができるだけ起きないように指示を与え、自身は葬儀に専念することを告げた。
アルバーノは怒りに震えていた。国王側近からの使者が来たのは夕刻であった。その1時間ほど前にシェリルから確認の問い合わせが来ていた。
「なぜ今頃まで、俺に知らせなかった」
使者は、平伏し震えていた。使者には何も言わず、武装したまま配下の者を連れて王城へと向かった。
王城では、教皇、大臣、国王側近らが集まり会議が開かれていた。そこに宰相の姿は見られなかった。いろいろな意見が出た後で財務大臣が教皇に伺いを立てた。
「教皇猊下、次の国王にはどなたを押されますか」
「私は、ガルアシス様が適任かと考えております。カルディオ王もそう考えてアルバーノ様が成人のおりに世継ぎに指名されなかったのではないでしょうか」
「しかし、嫡男のアルバーノ様を差し置いてガルシアス様をということでは混乱が生じましょう」
「それに対しては、いささか考えがあります」
「ではガルシアス様が次期国王ということで、・・・」
財務大臣は最後まで言葉を続けることが出来なかった。アルバーノが入ってきたからである。
「軍務大臣、これは何の話し合いだ」
「お世継ぎの件でございます」
「で、ガルシアスの名前があがってたわけだ」
「俺が国王を継ぐ。反対する者はいま名乗りをあげよ」
「アルバーノ様、それはいけません。次期国王指名にはそれなりの手続きが必要になります。この会議もその一つです。候補者の発言は認められておりません」
「今まではな。これからは違う。もう決めたことだ」
さらに続けて、
「サルバティ14世、国王の名をもって教皇を解任する。軍務大臣、サルバティを処刑しろ」
軍務大臣は立ち上がったまま動けなかった。
「王命だ。従わないのか。こいつはもう教皇ではない、反逆者だ」
軍務大臣は元教皇と呼ばれる者に近寄っていった、アルバーノの副官が剣を渡した。サバルティの死を確認したアルバーノは、
「ガルアシスとテルミニオを捕らえよ。母上とシェリルは部屋に軟禁するように」
「次の教皇にはどなたを指名されますか」
「巫女姫だ」
「マルチェリーナ様はまだ14歳、成人されておりませんが、それにお父上の教皇猊下が亡くなられてすぐにということでは」
「それがどうした」
「いえ・・・」
◇ ◇ ◇
それより少し前、青龍の11日、サトシはスウェードルの店に来ていた。もちろんセシリアとアルトも一緒に。まず、山賊たちの武器や防具を見てもらった。
「めぼしい物は、魔封じの盾と首領の着ていた防具と大剣、魔術師のローブくらいですね。魔封じの盾は使われるとして、手下の武器・防具と合わせて金貨50枚でいかがでしょうか」
とスウェードル。
「それで良いです。欲しい物は僕の防具とマントが3人分です」
「マントは少し厚めにはなりますが、良い物があります。魔法具で最も売れる物なんですが、軽量化と温度調節の魔法がかかった物で1枚金貨30枚、防御力も少しですが上がります。色も選べます。で、サトシ様の防具はどのような物が良いですか?」
「軽く、動きやすくて、防御力が高い物、色は黒で見た目も街で普通に着られる物が良い」
「では、アサシン用のもので良い物がございます。金貨100枚ほどしますが」
「予算は金貨160枚分しかないので足りません」
「ご主人様、私のマントは次の機会で結構です。それを買って下さい」
「いえ、サトシ様。私のも次の機会で」
と2人が言った。
「ちょっと贅沢言ったみたいですね。もう少し安い物でも・・・」
「いけません。ご主人様の防御力が低いと安心して戦えません」
スウェードルが割り込んできた。
「では、こうしましょう。金貨30枚で依頼を受けて下さい。イバダンが鉱石をとりに
カルビニアの鉱山に行きますので、その護衛を依頼します。先払いで。もちろん実費はこちらで負担いたします。」
「僕たちで良いんですか?」
「本当なら、護衛はいらないと思います。今回は私も行けませんし、荷物を運ぶ人足も雨期は高いのでね。サトシ様の闇の袋を利用させていただきたいのです。鉱石の運搬にね」
「護衛はついでなんですね。分かりました。ありがたいです」
「もし、戦闘になったらイバダンを頼って下さい。強いんですよ彼は」
「カルビニアってどこにあるんですか」
「プエルモント教国の北東部。ここからかなり北西になります。5週間は見ていただきたい仕事です」
「出発はいつですか?」
「出来るだけ早く。明日の朝にでも」
「分かりました。ではマントの色を選ばせて下さい」
僕はもちろん「黒」、セシリアは「深緑」、アルトは「えんじ」を選んだ。ちなみにイバダンは「こげ茶」らしい。




