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異世界はバラ色に  作者: 里中 圭
第2章 プエルモント教国編
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第2話 帰還命令

 クラウディオとカタリナは新年を祝っていた。オルガ村に来て17年になる。トリニダの森のすぐ近くにあるこの村も、2人が来てゴブリンの脅威が減り平和になった。森も浄化されたように生き生きとしている。黒帝龍の1日、新しい年の始まりである。


「セシリアは帰ってこなかったな」

「あの娘は『Dランクになるまでは帰ってこない』、なんて言ってたけど、新年ぐらい帰ってきても良かったのにね」

「Dランクか、もう少しかかるだろうな」


 コンコンとドアが叩かれる。カタリナは一瞬セシリアかと思ったが叩き方が違うことにすぐに気付いた。

「クラウディオ様、カタリナ様、ご在宅でしょうか」

見知らぬ声が聞こえる。プエルモント風のアクセントだ。誰だろう。

「国王陛下より、帰還命令が出されました。ご同行お願いいたします」


「帰還命令、何のことだ」

「魔法師隊の再編に伴う徴兵だそうです。クラカウティンの森出身で、他国に住んでいる方全員に帰還命令が出されました。御夫妻ともに帰国願います」

「この村では、我々2人だけか」

「他にエルフの方がいらっしゃるのですか」

「いや・・・」

「その命令はお断りできるのですか?」

「無理です。国王陛下、教皇猊下、宰相閣下の署名が入った命令書ですので」

「もう俺たちはメルカーディア人になったと思っていたのだが、気が進まない、断らせてもらおう」

「分かりました。私の力では有名な『紅バラの剣』のメンバーであるお2人にかなうわけはありません。教国に帰り、拒否との報告をいたします。それでよろしいですか」

「それで良い。拒否というより、考えさせてくれと言っていたと伝えてくれればありがたい」

「『考えさせてくれ』ですね、分かりました、そう伝えます。では失礼いたします」


「カタリナ、どう思う?」

「拒否は難しいでしょうね。セシリアが独立してくれていて良かった」

「監視が2人残っているようだね」

「ええ、気配も消せないくらいの者ですけどね」

「逃げても無駄だろうな」

「無駄ですね、あの宰相まで絡んでいるとなると」

「では、準備をしておくか、村長の所に挨拶に行ってくる」


 オルガ村から帰った兵士から報告を受けた魔法師隊隊長ライスナーは、宰相ディオジーニに報告した。

「いかがいたしましょう」

「クラウディオのことだ、もう諦めていることだろう。心配することはない」

「ではもう一度使者を送ります」

「いや、少し大げさに迎えに行こう。二度と国外に出られないくらいにはな」

「と言いますと」

「1個中隊で迎えに行けばいい。新兵を中心に編成すれば演習にもなるだろうし、大げさでも、若いのばかりだと敵意があるともいえないしな」

「逃げられませんか」

「逃げはしない、奴の性格ならな。村の連中はどう思うか分からんがな」


 1週間後、オルガ村は騒然としていた。村は外周を兵で取り囲まれ、また、クラウディオ夫妻の家も取り囲まれていた。そして、その兵士たちは一言もしゃべる者はいなかった。村の家々は戸口を固く閉ざし、あたりは静まりかえっていた。

「ちっ、ディオジーニの奴、大げさな」

「こちらから出て行くしかないようですわね」

「じゃあ、出かけるか」

「はい」


 クラウディオとカタリナは、旅装ではあるが武器を持ち戸を開けた。

「武器は預けたほうが良いか?」

「いえ、そのままで結構です。教国に戻っていただけますか」

「これだけのことをして、帰らないとは言えないだろう。かわいい兵士ばかりだが、ディオジーニの嫌がらせか」

「・・・」

「まあいい、行こうか」


 1個中隊は、夫妻を取り囲むように進んでいく。もう40歳過ぎているはずなのにエルフ特有の若さがある。これがあの有名な「紅バラの剣」の2人、ワイバーンも倒せるほどの2人なのかと若い新兵たちは近寄ることもできない。それでも、統率がいいのか、往き道にかなり鍛えられたらしく行軍も野営も滞りなくできている。歩兵部隊は最初の野営地で分かれ、騎馬隊だけで教国の首都クラチエへと急いだ。


 クラチエまで3日間、何事もなく過ぎていった。クラチエに着き、魔法師隊の詰め所に連れて行かれた。さすがにディオジーニは出てこないかと思っていると、1人の魔法剣士が入ってきた。

「よう、クラウディオ。元気か」

「なんだ、ライスナーか、宰相はどうした。あの迎えは宰相が考えたんだろう」

「分かるか、だよな、宰相しかあんなことをしないよな。国境付近で新兵の演習していたんで利用したんだろう。1個中隊で国境を越えさせるのも楽じゃないんだぞ。それより抵抗せずに来てくれて良かった」

「抵抗できるか、あそこまでされて。する気もなかったが。で、お前が魔法師隊の隊長になったんだな、まあ、当然か。俺たちに何をさせる気だ。こう見えても歳はいってるぞ」

「前線に出す気はない。裏切られても困るしな。絶対に裏切られない方法を考えたんで引き受けてくれ」

「なんだ」

「クラウディオは、新兵の強化。奥さんには病人を診て欲しい。新兵の命と病人の命を預ける」

「手を抜けば教え子たちや病人が死ぬわけか。手は抜けないな。分かった、協力しよう」

「私もそれならやりましょう」

「それに、しばらくは行動範囲の制限も付けさせてもらう。夜は、この練兵所と兵舎だけ、昼はそれに加え周辺の通りだけだ」

「周辺の通りも良いのか、制限があまりないのと同じだな」

「昼は2人別々だしな。休みも違う日になるだろう」

「わかったよ。それでいい」

「良かった。じゃあ手続きしてくる」


 ライスナーが出ていき、2人になった。

「もっとひどいことをやらされると思っていました」

「ライスナーが隊長でよかった。あいつなら悪いようにはしないだろう。仕事も手を抜けないものを選びやがったし。宰相の考えだろうけど。会ったら一言くらい嫌みを言ってやらないとな」


 こうして、クラウディオとカタリナは教国で働くことになった。


 ◇ ◇ ◇


 雨期に入った。1か月も雨が続くのか、気が滅入る。5月病が復活しそうだ。セシリアとアルトもこの時期はさすがに明るくとはいかないようだ。その分、ベッドでぐだぐだ、いちゃいちゃできるのはいいのだが。


「ご両親を助けるといってもどうやって情報を集めたらいいんだろう」

セシリアはまだ諦めていないのかという顔をして、

「助けるのは無理だと思います。無理して死んだら何にもなりません」

「でも、助けたいよな。何とかならないかな」


 アルトが言った、

「できることから始めましょう。まずはご主人様の装備を何とかしないといけません」

「アルトはご主人様って言いにくそうだね。サトシで言いよ。人前では適当に使い分けて」

「ありがとうございます、ご主人様。では、使い分けさせていただきます、サトシ様。セシリアはいいの?」

「私はご主人様のほうが言いやすいので、このままがいいです」

「じゃあ、そういうことで」


「ご主人様の装備をどうするかでしたね。私たちは身体強化が使えますから。最低でも身体強化をかける以上の強度は必要です」

「重たいのは嫌だな。フルプレートとかだと動けないかも」

「動きやすく、軽い物ですね。そうなると魔法具になりますね。またスウェードルさんに相談されてはいかがですか」

「そうしよう。この雨じゃ依頼を受けるのは億劫だしね。色は黒でいいよね。で、セシリアとアルトはどうする?」

「私たちはレンジャースーツがありますので、もし買っていただけるならマントをお願いします。北に行くときの防寒着にも、雨具にも、寝具にもなりますし、視線よけにもなりますから」

「レンジャースーツって、身体の線が出やすいんですよね」

「そうだね、邪魔なら闇の袋に入れとけばいいしね」


「サトシ様、移動方法もそろそろ考えたほうがいいんじゃないでしょうか」

「え、移動方法。辻馬車じゃだめなの」

「辻馬車では行けないところも出てきます。ご主人様は馬に乗れますか?」

「乗れない、乗ろうとしたこともない」

「雨期が終わったら練習して下さい。それまでは、馬車を借りるか辻馬車を利用するしかないですね」

「私も乗れません。一緒に練習させて下さい」

アルトも乗れないんだ、よかった僕1人じゃなくて。


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