第22話 奴隷志願
昼食は、みんな揃って食べた。明るいカーラが黙っているので、誰もしゃべらない。何か言わないと、この雰囲気に耐えられない。
「王都に拠点を移す。明日、出発する。今日中に用意しておくこと」
「どうして?」
とアルト。やっと会話が始まる、よかった。
「カーラは王都に行かなければならなくなったし、休日とかで帰る家が近くに有ったほうが良いし、教国の情報なんかも入りやすいだろうからね。スウェードルさんも王都にいることだし、ここにいなきゃいけない理由も無いし」
「教国の情報・・・」
セシリアはつぶやく。
「そうですね。お金にもある程度余裕ができたので、どこでも生活はできます。カーラのためにもありがたいです」
それから、家の解約や拠点変更の手続きを済ませ、お世話になったナウラさんに別れを告げ、荷造りをして、その日は終わった。セシリアも少しは落ち着きを取り戻したようだ。次の朝、王都行きの馬車に乗った。
王都は、1辺7kmの壁に囲まれた正方形の大都市だった。日本なら小さいだろうけど、この世界では1,2を争うくらいの大都市だそうだ。人口は10万人、人口密度は1平方kmあたり約2千人とけっこう高い。その中心部に1辺3kmの壁があって、その中には貴族や大商人が住んでいる。さらに、その中心部にまた1.5kmの壁があり王城と大貴族の館がある。外側の配置は、北が軍関係の地区、南門の周辺が歓楽街、それ以外は住宅と商店である。冒険者ギルドは2か所、西門と東門の近くにあり、武器などを扱う店はその北寄りにある。治安は一部の歓楽街を除いて問題なく、良く治められている都市である。
王都の西門に着いた僕たちはまず宿を探した、比較的大きい清潔そうな宿「マリリアの瞳亭」を選んだ。2人部屋2つ1泊2食付きで、合計銀貨28枚だった。とりあえず1泊分を渡した。これから雨期に入るので、宿の確保も大変になるらしい。僕たちは拠点を移すのだから、また家を借りようと思っている。
次の朝、スウェードルさんの店を探す。武器屋は、東の町と西の町、どちらも北寄りにある。王都マリリアは左右対称の街といわれているほどだ。ただ、北地区は軍関係の施設が多く、一般人は通らないほうが良いらしい。東側にあったら南回りになるので遠いなと思っていたが、スウェードルさんの店はすぐに見つかった。西の武器屋街の北の端にあり、すぐ北には兵舎が並んでいた。タンガラーダの店よりも大きく立派だった、もちろん工房もついている。
スウェードルさんを呼び出してもらった。
「サトシ様、王都に来られたのですか」
「はい、拠点を移そうと思って来ました。カーラの件もありますので」
「スカーレット様の件ですね」
「できれば紹介していただきたいのですが、できますでしょうか」
「今日もイバダンと2人呼び出されているので頼んでみましょう。御礼とお金を返す件でしたよね。宿はどこですか」
「『マリリアの瞳亭』です、それから近くに家を借りたいと思っているのですが、どこに行けばいいのでしょうか」
「冒険者ギルドで紹介してくれますよ、西と東にギルドがあり競い合っていますのでサービスは結構いいですよ」
「では、行ってみます。落ち着いたら、また武器をお願いします」
「買い取りですか、ご購入ですか?」
「両方です」
と言って店を出た。
冒険者ギルドに行き、拠点の変更届を出し、借家の紹介を頼んだ。冒険者は収入が良くパーティーで家を借りるし、入れ替わりが多いので、冒険者用の大きい家は冒険者ギルドが管理しているらしい。借家はいくつかあったので西地区の北寄りのものから選んだ、スウェードルさんの店の近くだ。高級住宅街で治安が良い場所だそうだ。平屋だが外観も大きいし庭もある。大きめの部屋が3つにリビングも付いている、浴槽は付いていないがお湯を沸かし身体を拭く専用の部屋がある。タンガラーダの家より大きい家だった。1番大きい部屋にはキングサイズのベッドがあり、それ以外の部屋にはベッドが2つずつあった。家賃は1週間で銀貨60枚、タンガラーダの家の3倍だ。1年分払うと金貨30枚で良いということで、とりあえず1年分の家賃を払う、明日から使えるらしい。
「店はすぐ見つかるし、家も良いのがすぐ見つかる。サトシ様って強運の持ち主ですね。魔法とかも凄いけど、運の良さがサトシ様の最大の能力かもしれない」
とアルトが言う。セシリアもカーラも「そうそう」と言っているし、僕もそう思う、お金の威力かもしれないけど。
スウェードルさんから連絡が入り、スカーレット様が第3近衛隊の詰め所で、明日の朝に会ってくれるとのことだ。通行証も渡してくれた。カーラに金貨10枚を渡し、準備をさせた。次の朝、僕が起きたときにはカーラはもう家を出ていた。僕たちは宿を出て新しい家に移った。部屋割りはキングサイズのベッドのある部屋が僕とセシリア、その左側のツインの部屋がアルトとカーラの部屋だ。
カーラは覚悟を決めていた。どんな形でもいいからスカーレット様のもとにお仕えする、それが私の恩返しだと。思ったよりも緊張しなかった。受付で要件を言い、30分ほど待たされ、スカーレット様の部屋に通される。
「あのときの娘だな。その後、身体はどう?」
「はい、おかげさまでこのとおり治すことができました。ありがとうございました」
「顔を上げなさい」
言われて顔を上げると、スカーレット様は真っ赤な髪の凛々しいというより神々しい美人だった。一気に緊張してしまった。
「あの、これ足りないかもしれませんが、教会での治療代です」
といい金貨10枚を渡す。スカーレットは黙って受け取ると数えもせずに横に置いた。
「名前は?」
「カーラです。ケンプ村のカーラと申します。お願いです、従者にして下さい」
「従者は足りている」
「小間使いでも、何でもいいです。命の恩を返させてください、お願いします」
スカーレットが無言でいると、カーラはカバンの中から「隷属の首輪」を出して付けようとした。この隷属の首輪は山賊のアジトで見つけた物で、他の3人は気付いていなかったので自分で持っていた、こうして使おうと思って。
スカーレットが素早く動いた。腰のナイフを鞘ごとカーラに投げた。右腕にあたり、カーラは首輪を落とした。
「従者もいらないが、奴隷もいらない。そこまでの覚悟があるのなら近衛隊に来い、もちろん特別扱いはしない、騎士見習いの入団テストを受けろ。お前の得物は双剣だな、今から入団テストを行う、いいな」
「はい」
カーラはスカーレットの激しさに驚いたが、チャンスをいただけたことを感謝した。
スカーレットについてカーラは練兵場に来た。練兵場には女性兵士が大勢いた。ケガが治ってから剣の鍛錬は欠かしたことがない。ある程度できるはずだ。スカーレットが、
「リリアーヌ、相手をしろ、入団テストだ、魔法は使うな」
「かしこまりました」
カーラには双剣用木剣が渡された。リリアーヌも同じ得物だ。初めての双剣相手で緊張する。でも、ここで負けるわけにはいかない、気合いを込める。
「始めっ!」
カーラは、先制攻撃をかけた、できるだけ早く、スピードこそが私の利点。リリアーヌは的確に受けた。そして、頃合いを見て、反撃を始めた。カーラはリリアーヌの攻撃の早さに驚いた。早い、でも何とか防げる。そして、しっかり相手が見えている。リリアーヌが大きく振りかぶったときに隙ができた。ここだっ、と反撃した瞬間、思いっきり叩かれた。
「それまで」
負けてしまった。もっと修行してもう一度チャンスをもらおう。カーラの目からは止めどなく涙がこぼれた。
「リリアーヌ、どうだ」
「なかなか筋が良いです。鍛えれば強くなります。涙を流すくらい負けん気が強ければ申し分ありません」
「では、カーラ、今日中に荷物をまとめて兵舎に入るように。第3近衛隊の騎士見習いとして採用する。身元はスウェードルが保証してくれるそうだからな、礼を言っとくように」
「ありがとうございます」
カーラの涙は止まらなかった。
兵舎を出て店に寄り、スウェードルさんにお礼を言い、家に帰り皆に報告した。
「おめでとう、よかったね」
「これから頑張るのよ」
「第3近衛隊って王族の女性を守る女性だけの近衛隊でしょ、騎士見習いでも皆のあこがれらしいよ」
「ありがとう、スウェードルさんが身元保証人になってくれたのが大きかったみたい。みんなの期待を裏切らないように頑張ります。スカーレット様への恩をお返しできるように。では急いで準備しますので」
と部屋に戻った。アルトもそれに続いた。
部屋に戻り、アルトは首輪のことを聞きビックリした。首輪を受け取り、カーラに自分のサトシに対する決意を打ち明けた。それから2人で抱き合い、しばらく泣いた。そして、カーラは兵舎へと旅立った。家の中が静かになった。
こんなことならもう少し小さな家のほうが良かったかな、なんて思ったりした。アルトとセシリアもそう思っていたらしい。でも休日には、休日があればだが、カーラも帰ってくるだろうし、などと話ながら夕食を食べ部屋に戻る。アルトとセシリアは後片付けをしている。カーラがいないせいかいつもより時間がかかっているようだ。部屋でのんびりしていると、セシリアが真っ青になって入ってきた。
続いてアルトが部屋に入ってきた。白い首輪を付けて。
「サトシ様、私と血の契約をして下さい。もう私にはサトシ様しかありません、奴隷にして下さい、お願いします」
「なぜ、なぜそんなことを」
「カーラはサトシ様へのご恩をお返しできません。それを許してください。そして私を自由に使って下さい」
もう「隷属の首輪」を付けた以上、誰かの奴隷になることは決まってしまっている。僕が契約するしかない。それは分かるのだが。
「その首輪、どこで手に入れた?」
「カーラからもらいました。カーラが山賊のアジトで見つけたそうです。だからカーラにもこのことは打ち明けています」
僕はナイフを鞘から抜き、右の人差し指に刺し血を出して、「力よ戻れ」と言って、首輪に付けた。首輪は赤く光り、皮の首輪に変わった。
「命令だ、首輪を外せ」
アルトは首輪を外し言った。
「ありがとうございます。ご主人様」
セシリアは、それを見て泣いていた。セシリアは、今日だけ隣の部屋で寝るそうだ。
その夜、僕とアルトは結ばれた。アルトの胸は最高だった、大きさも柔らかさも感度も。気になっていたことを聞いてみる、もちろん愛撫しながら。
「レベルアップしたとき、どうやって分かるの?」
「今、触っていただいている所が、ピリピリとしびれます、あ~っ」
思わず力が入ってしまった。どこかって、僕からは言えない。
そうして、王都マリリアでの僕たちの生活が始まった。
これで、第1章が終わりました。次話からは第2章に入ります。出だしの部分を変えました。内容は一切変わっていませんので読み直す必要はありません。
第2章からは更新のスピードが鈍ると思います、リアルの方の生活が乱れてしまって。
題名の変更も考えましたが決心が付きませんでした。「Rosy Miracle」とか「Rosy Magic」とか「薔薇色の奇跡」とか。
第2章は、サトシ達3人、カーラとスカーレット、セシリアの両親、新たな登場人物たち、どうなるのか私も楽しみです。




