第21話 復讐
そしていよいよ山賊の討伐だ。ナウラさんによると、依頼は出ていないが賞金首であるし、山賊の物や盗まれた物でも持ち主のハッキリしない武器や道具はもらえるらしい。討伐しても魔素は入らないとのことだ。ちなみに賞金は騎士団の管轄で、首領が金貨40枚、手下は1人金貨5~10枚程度、合わせて金貨75枚くらいになるようだ。
アジトはオスマニエ山の中腹らしい。何日かかっても良いように食料は十分に闇の袋に入っている。便利な袋だ。重さも重くならないし、ぺちゃんこな皮の袋で傷も付かない。背負うと背中にピッタリとくっついて動きの邪魔にならない。それでいて生きている物以外は何でも入る。
まずはアジトの位置を探らなくてはいけない。これはセシリアの仕事だ。カーラから山賊が逃げた方向を聞き、山に入る。馬の足跡を見つけ慎重に進む。索敵は使えない。山賊たちには僕たちが敵であるなんて認識がないからだ。それでもセシリアの注意力は流石だ。
1日目は、山道から少し入ったところで野営となった。山賊たちも火を焚くだろうし、煙も見えないところをみると、アジトは近くにはないようだ。セシリアが「緑の結界」をかける。これで、かなり安全になるらしい。結界の中の様子は周りのものからは興味が無くなるんだとか。
アルトの料理は、やはり美味しい。鶏肉中心のあっさりした料理だが、ボリューム感も最高だ。アルトがパーティーに入ってくれて助かる。パンと木の実ばかりだと食欲も落ちる。
次の日、もう少し上に登っていくとゴブリンの死骸を見つけた。緑の血が乾いていない、わりと新しい物だ。それからも頂上に向かって慎重に慎重に進んでいくと、セシリアが皆を静止させた。
「煙の匂いがします。けもの道に少し入って待っていてください。先を見てきます」
セシリアが帰ってきた。
「50mくらい先にアジトがあります。洞窟がアジトのようです」
「じゃあ、今日は少しだけ離れて、明日の夜明け前に襲撃しよう」
と、少し離れ、奥まったところを野営地にして、セシリアが結界を張り、明日に備えた。
作戦は簡単だ。見張りを僕が殺り、みんなで枯れ枝を放り込み、アルトが洞窟内にファイアーストームをかける。ついでにファイアーボールを何発かおみまいする。燻し出されて出てきたところを、みんなでやっつける。洞窟から出てくるまでにできるだけダメージを与える作戦だ。奇襲だから何とかなるかな。
朝、セシリアのキスではなく、カーラのキスで目覚める。セシリアと思って舌を入れようとしたら抵抗され、目を開けると違う顔でビックリした。何を言われるか分からないので何も言わなかったが、しっかり目覚めた。
闇の袋から風の弓と矢が6本入った矢筒を取り出して、袋を背負う。他のみんなもそれぞれの武器を手にして集まった。
「では、いくぞ」
アジトの方へ向かった。予想どおり、見張りが1人いた。12,3mくらいまで静かに近づき、心臓を凍らせる。のどの奥に水を作り声を出させない。まずは1人倒した。
予定どおり、みんなで枯れ枝を洞窟の入り口から投げ入れ、アルトが火を付ける。洞窟内に煙が充満する。カーラがウインドカッターをかける。少しだけだが奥まで煙が入ったようだ。中が何やら騒がしくなる。山賊が出てくる。そこへアルトがファイアーアロー、カーラがウインドカッターを放つ。山賊たちに当たったようだ。
血だらけの山賊が咳き込みながら出てくる。次々に心臓を凍らせる。2人目、3人目、4人目。あと2人だ。そのとき、洞窟の中から水が噴き出した。ウォーターストームだ、水の魔法の使い手がいるらしい。正面にいたアルトは吹き飛ばされた。素早くセシリアがヒールをかけてくれた。洞窟から出てくる前にできるだけダメージを与えたい。一斉に洞窟の中に向けて攻撃を放つ。セシリアとアルトはウォータボールとファイアーストームを交互に、カーラはウインドカッターで、僕は弓で。中からもウォーターストームが連発される。
首領らしき男と魔法使いみたいな手下が出てくる。お互いにMPを使い切ったのか治療魔法のためにMPを温存しているのか、魔法は飛ばない。僕は弓からハルバードに替えた。運良く手下の肩には矢が1本刺さっている。痛そうだ、抜いて治療する隙は与えない。セシリアとアルトが手下に斬りかかる。僕とカーラが首領に向かう。
「ほう、こないだの嬢ちゃんか。せっかく命拾いしたのにわざわざ殺されに来るとは物好きな、魔法は効かない、矢も通さない、無駄だ、投降しろ、女は生かしといてやる、男はいらないがな」
「こないだの女性はどうした」
とカーラが時間を稼ぐ。
「俺たちで楽しんで、奴隷商人に売り飛ばした。また仕入れに街へ行こうと思ったんだが、わざわざそっちから来てくれるとはついてるぜ、全く、うっ・・・」
首領は静かに倒れた。遠距離操作は、こちらから放つのではなく、そこに魔法を発生させるのだ。間に何があっても関係ない。
手下の魔法使いは、倒れる首領をみて、
「何で魔法が・・・」
最後まで言葉を言うことはできなかった。セシリアの剣が気をそらせた者を生かしておくわけはない。
僕たちは油断なく洞窟の中と周囲を調べ、他に仲間がいないことを確認した。そして、セシリアに結界を張ってもらい。盗賊の武器・防具を回収する。洞窟の中や、盗賊が身につけていた小袋からお金を回収する、金貨は50枚ほどあった、女性を奴隷に売ったお金だろう。他には持って帰るべき物は無かった。
タンガラーダに帰り、騎士団の詰め所に行き、山賊の首を渡し、武器やお金のことを相談する。賞金は予定通り金貨75枚を魔素でもらった。お金や武器はそのままもらって良いそうだ。
「奴隷に売られた女性の家族に渡す必要はないのか」
と聞くと
「その必要はない。そういうことをされても迷惑だ」
と言われた。こういうことはよくあるのだろう。お金を貰えたり貰えなかったりとバラバラな対応はできないと考えれば、渡すのはよくないことと考えなければいけないのかもしれない。
詰め所を出て、遅い昼食を屋台で済ませ、家に帰り、武器や防具を点検する。また、持って帰った山賊の武器や装備もチェックする。闇の袋にはいったいどれだけ入るのだろう、不思議な袋だ。
1番高価そうなのが「魔封じの盾」だ。物理攻撃にも強いらしい。これは売らずに使おうと思う。正直、金貨130枚くらい手に入ったわけだし、闇の袋に入れておけるのだから、すぐに売る必要もない。山賊の持っていた金貨や銀貨は小さい袋に入れて闇の袋に入れた。
アルトは僕に買い物付けを渡してきた。日用品もあるがメインは酒のようだ。今日は宴会なのだ。僕が家を出た後、3人は相談を始めた。
買い物から帰り、3人は豪華な夕食の用意をしていた。僕は学食やコンビニ弁当ばかり食べていたくらいで、料理はできないし、ライトノベルによくあるように日本の料理を教えることなんてできない。というか日本での知識を生かすことが難しい、少々計算ができるくらいだ。
夕食は豪華で美味しかった。お酒も飲んだ、セシリアはなぜか無茶な飲み方をして酔いつぶれてしまった。アルトはセシリアを部屋に連れて行き寝かせて戻ってきた。
「今日はありがとうございました。おかげで復讐することができました」
「まあ、お金もたくさん入ったしね」
「でも、よく考えると命がけのことなのです。私たちのためにいつも命を賭けて戦っていただいているのです。ご恩は忘れません、一生かかってもお返しいたします」
ここで反論すると、また叱られるんだよなと思っていると、
「お願いがあります」
とカーラが思い詰めた表情で言った。助けてくれた近衛隊長の所に行くんだったよな。
「いいよ、スカーレット様の所に行っても。僕のことは良いから」
と先取りして言うと、
「ありがとうございます」
沈黙が続く、何が言いたいんだろう、スカーレット様の件じゃないとすると見当が付かない。アルトが部屋に帰っていく。僕も部屋に戻ることにする。カーラは座ったままだ。
部屋に帰ると、セシリアはいなかった。アルトの部屋でアルトが介抱しているのだろう。ベッドに横になる。しばらくしてカーラが入ってきた。
「抱いてください」
やっと聞こえるような小さな声でカーラが言った。僕は何が何だか分からずに返事ができない。
「私を嫌いですか、私じゃおいやですか?」
「嫌いじゃない。好きだよ、でも・・・、アルトやセシリアもいるし」
「姉と話し合って決めたことです、セシリアにも許可をもらってます。スカーレット様のもとに行くのに、サトシ様のもとを離れるのに何のご恩も返せなくて、それで、せめて、あたしの、私の初めてを・・・、お願いします」
カーラは服を脱ぎベッドに入ってきた。どうすれば・・・。
カーラは僕にギュッと抱きついてきた。僕もそっと背中に手を回し、優しく抱きしめる。するとカーラは顔をあげ唇をつけてきた。僕の理性もそこまでだった。スレンダーな身体でも胸はそれなりに発達している。胸をそっと手で包み揉んでいく、乳首に触ると「あっ」と可愛らしい声が聞こえた。それから・・・。
次の朝、早くに目覚めた僕は、アルトやセシリアにどんな顔して会えば良いのだろうと悩んでいた。誰か入ってきた、寝たふりをしよう。いきなり乱暴にキスされた。セシリアだ。セシリアはそのまま部屋を出て行った。
カーラが目覚めかけている。そっとキスをして起こす。カーラが強く抱きついて、すぐに起きて服を着て部屋に帰っていった。セシリアが部屋の外にいることが分かっていたから我慢できたが危なかった。このあと、どうしようか考えた。重大発表をしないといけない。それで話題をそらそう。なんて思っていると、セシリアが再び部屋に入ってきた、裸だった。激しかった。
次が第1章の最終話になる予定です。




