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異世界はバラ色に  作者: 里中 圭
第1章 メルカーディア王国編
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第20話 アルト

 アルトは気が動転していた。両親を失い。さらに妹を失ったらもう生きていけない。カーラの元気な笑顔が目に浮かぶ。気がついたら教会の前にいた。取り乱してはいけない。生きているって、だから迎えに来てっていわれたのだから。


 それから、冷静に、いや冷静を装った態度で教会に入っていく。カーラの前に来ても冷静を保てたのは不思議なくらいだ。シスターから説明を聞き、荷物をまとめ、カーラを抱えるように支え馬車に乗せた。


 帰り着き、カーラをベッドに座らせ、目を閉じ深呼吸をする、そして目を見開き顔に感情が溢れてくる。そして、思いっきりカーラの頬を叩く、大きな音がする。カーラはじっと耐えている。続けて2発往復ビンタが飛ぶ。


 カーラより先にアルトが泣き出した、大声で。カーラも声を押し殺して涙をポロポロこぼしだした。カーラはこれまでのこと、教会で聞いたことを話し出した。山賊が女性2人を連れていたこと、それがあの日のことに繋がり冷静さを失ったこと、双剣がボロボロに刃こぼれし、片方は折れてしまったこと。背中を切られ、金貨10枚の魔法治療を受けたこと。スカーレット様という人に助けられたこと。


「そのスカーレット様って誰?」

「第3近衛隊の隊長さんらしい」

「スカーレット・アリンガム様、侯爵令嬢の」


「カーラ、あなたは2度も命を救われました。1度目はサトシ様に、次にスカーレット様に。お父様とした3つの約束は覚えているわよね。『常識のある人間になること』『受けた恩は必ず返すこと』『受けた害には必ず報復すること』、この意味は分かっているよね」

「2度も命を助けらた私はどうしたらいいの?」

「あなたはスカーレット様のもとに行きなさい。そして恩を返すのです。私が2人分サトシ様にお仕えします。とりあえず金貨10枚ですね。なんとかしなきゃね」

「動けるようになったらまた稼がなくちゃいけないね」

「私も冒険者になって、一緒に稼ぐわ。今から登録してくる。あなたの剣の折れていないほう貸して」

鞘に入らなくなった双剣の1本を布で巻き、軽装に着替えて冒険者ギルドに向かう。


 アルトは、冒険者ギルドに行き登録した。属性は火だった。「白ヨモギ採取」の依頼を受け、依頼を達成し、夕方には帰り着いた。

「魔物に会わなかった?」

「会わなかった。出会っても逃げたわ。装備も不安だし。またサトシ様には迷惑かけるけど、先行投資をしてもらうわ。一緒に依頼に行けば野営でも料理が作れるし、便利なはずよ」

「戦力にならないと邪魔だよ、きっと」

「すぐに強くなる。頑張るから、あなたはスカーレット様にどうやって恩を返すか考えなさい」


「でも、恩を返すのは山賊をやっつけてからね。『受けた害には必ず報復すること』もお父様の言いつけですからね」

「もちろん、絶対にやっつけてやる。サトシ様とセシリアに手伝ってもらわないとできないけど」

「恩を返すのはそれからのこと、じゃあ、ゆっくり休みなさい」


 次の日の夕方、僕たちは帰り着いた。依頼は大成功である。魔素も2人合わせて金貨5枚分、報酬も金貨10枚。武器も手に入れた。「風の弓」と「火の杖」だ。そして「闇の袋」もある。指輪も5個ある。鑑定してみると「虫除けの指輪」が2個、「指輪」が3個だった。少し期待はずれだが売れればありがたい。満面の笑みで

「ただいま」

と帰ると、アルトがなにかほっとしたような困ったような顔をして出てきた。


「お帰りなさい」

「何かあったの」

「とにかく、部屋に入って落ち着いて下さい。夕食を食べながらお話します」

部屋でクリーンをかけて、着替えて、夕食を食べにリビングに出る。アルトは配膳をし、いつもなら手伝うはずのカーラは椅子に座りうつむいている。


 頬を真っ赤に張らしたカーラは、順を追って今までのことを話し出した。依頼を順調にこなしていったことから始まり、スカーレットに助けられ、金貨も10枚出してもらったことまで話した。セシリアはカーラの頬にヒールをかけた。


 アルトはそれに続けて、父親との3つの約束のこと。カーラをスカーレット様のもとへ行かせたいこと。冒険者に登録したこと。これからサトシに一生かかっても2人分の恩を返すことを告げた。


「一生かかってもって、少し大げさじゃない」

「いえ、ゴブリンに子供を産まされるところを助けていただいたのです。2人で恩を返すのが本当なんです。カーラの分は目を瞑って下さい、私が精一杯お仕えしますから」

「ごめんなさい。サトシ様」

カーラの傷も3週間すれば治るらしい。さすが高位の治療魔法だ。僕の時も3週間だったが、2週目くらいからリハビリできた。山賊討伐もそれからだな。


「で、アルトの属性は何?」

「火です」

「じゃあ、火の杖が使えるね。カーラも風の弓が使えるのかな」

「私は双剣を使いたいです」

とカーラ。セシリアも魔道具についてはよく分からないそうで、明日、アルトの装備を調えるためにスウェードルの店に行くついでに聞いてみようということになった。


 次の日、

「冒険者になって、やっと、みんなの仲間に入れた気がする」

「アルトって、意外と活発なのかな。カーラの姉だもんね」

などと話ながらスウェードルの店に行く。カーラはもちろん留守番だ。


 店に入り、スウェードルさんを呼んでもらう。

「いらっしゃいませ、サトシ様」

「こんにちはスウェードルさん、今日もよろしくお願いします」

「何がお入り用ですか?」

これを見て下さい。とカーラの双剣とレンジャースーツを出す。

「双剣はもう修理はできないでしょうね。レンジャースーツは修理できます」

「では双剣は同じ物をください。それからレンジャースーツの修理もお願いします」


「あとこれを見て下さい」

と指輪を出す。

「これは装飾用ですね。古い物ですね。あまり価値はないようです。銀貨1枚で引き取ります」

なーんだ、たった銀貨1枚か。もっと何かあると思ったんだが。


「では、これは売ろうとは思っていないのですが、ゴブリンの巣で見つけた物なんです。見ていただけますか?」

と闇の袋から火の杖と風の弓を出す。

「それは闇の袋ですね。イバダンを呼びましょう」


 工房からイバダンが出てきた。イバダンは闇の袋をみてひとこと。

「凄い袋ですね」と武器よりも袋の方に目がいっている。よほど良い物らしい。

で、あらためて弓と杖を渡し、見てもらう。


「火の杖は普通の品です。これを使うと、火の属性が無くてもファイアーボールくらいなら打てるようになります。火の属性があれば火の魔法が大きくなります。風の弓は、風属性が無くても風の加護が得られます。MPを使用して、矢の速度、命中率が上がります。風の属性があればMP消費無しに使うことができます。

 どちらも古い物なので少し調整する必要があります。どうしますか?」

「火の杖はこちらのアルトが使う物なのですが、杖で剣を受けたり、叩いたりできるようにできますか?」

「長さが1mくらいのあるので、金属で補強することで可能でしょう。杖の先をとがらせ突き刺せるようにもできます。片手剣ほどの重さにはなりますが」

「ではそのようにお願いします」

「弓は普通に調整します。それ以外は無理でしょう」

「ハルバードがあるんでそれで良いです。あとナイフを2本下さい、はぎ取りようのやつでいいです」


「では、明日の朝、取りに来て下さい」

「全部で金貨7枚になります。アルトさんの防具はいかがされますか」

「とりあえず、レンジャースーツで、あとはレベルが上がったら考えることにして」

「そうですね。それが良いと思います。金貨5枚、合わせて金貨12枚です」


「そうそう、私どもは、ここをたたんで王都の方に店を出すことになりました」

「急ですね。せっかく良い店を知ったのに残念です」

「スカーレット様が王都に店を用意するとまでおっしゃっての要請ですので、我々としても凄いチャンスなのです」

「スカーレット様って、近衛隊長の?」

スカーレットの名前が出てきたので、アルトが慌てて聞く。

「はい、スカーレット・アリンガム様です」


 それから、カーラのいきさつを話した。そしてスウェードルさんから、スカーレット様がイバダンの作った武器を愛用していること、その調整のために近くにいて欲しいと言われたことなどを聞いた。双剣とレンジャースーツを受け取って、店を出た。


 家に帰りアルトは、カーラにスカーレットとスウェードルの関係を話し、恩を返す糸口ができたことを喜んだ。セシリアとアルトは剣の稽古を始めた。アルトには、カーラほどの剣の才能は無かったようだ。


 次の日、武器を受け取り、依頼を受けに行く。スウェードルさんたちは明後日には王都に出発するそうだ。アルトはMPが11あるので、火の杖を使うと11発のファイアーボールが打てるらしい。Gランクの依頼ならそれで充分だろう。アルトはゴブリン狩り、僕たちは、簡単に済ませられる熊狩りを選んだ。


 その後2週間、アルトは順調にレベルを上げ5になった。ファイアーボールは取らずにポイントを溜めて8P使って範囲攻撃のファイアーストームを取得した。まだ範囲は狭いが、レベルや知力が上がれば範囲も広くなるらしい。セシリアは身体強化を取るべきだと言っていたが、アルトは攻撃優先のようだ。


 カーラも順調に回復し、剣の稽古ができるようになった。

「もう大丈夫」と言い張っているが、セシリアは今日まで依頼を許可しなかった。


 赤龍の19日、カーラが復帰した。僕よりひどいケガだったのに上級魔法だったせいか復帰は早かった。これから1週間4人パーティーで依頼をこなし、連携を調整する。その後に山賊退治に挑む予定だ。街の武器屋で安い盾、それでも金貨1枚もする、をアルトとカーラに買った。剥ぎ取りようのナイフを渡すとアルトは良い包丁が手に入ったと喜んでいた。


 灰色狼の群れ、火トカゲの群れ、ビッグベア討伐をこなしていった。その間、僕はできるだけ魔法を使わずに弓とハルバードで戦った。普通の戦いにも少し自信が出てきた。ギルドランクは全く上がっていない。セシリアがD、僕がE、アルトとカーラがFだ。レベルは僕とセシリアが15のまま、アルトとカーラが8になった。アルトは身体強化とファイアーアローを、カーラは身体強化と俊足を取得した。装備が良い物であり、2人のレベルアップを目的とするときには、攪乱したり関節を凍らせたりしてからアルトとカーラがとどめを刺すなど、少し卑怯な方法なのでレベルアップが早いようだ。

「3か月でレベル12になって、早いほうだと自慢してたのに」

とセシリアは不満そうだ。


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