第16話 遠征1
朝、目が覚める。セシリアがいない。当然目覚めのキスもない、どうしたんだろう。急いでアルトの部屋に行くと、セシリアがいた。
「おはようございます、ご主人様」
「「おはようございます」」
「おはよう、みんなで集まって何の相談?」
「カーラの守るべきことをいろいろと決めていたんです。この娘は突っ走っていくタイプですから」
とアルト。
「ご主人様も起きられたので朝食にしましょう」
朝食を食べ、ガビー村に向かう。ナウラさんは朝一番と言っていたけど、朝夕の2往復しかないんだよね。馬車に乗り2時間、ガビー村に着く。何かとても懐かしい。
冒険者ギルドに行き、ギルドマスターのバルナバーシュさんに会う。
「おう、坊主。またこっちで仕事か」
「マスターが出していた依頼を受けてきました」
マスターは、少しがっかりした顔で、
「お前ら2人で受けたのか。Bランクで出しておいたはずだが、普通ならBが1人にCが4人くらいのパーティーで受けるもんだろ、お前らのランクはどうなっている」
「僕はレベル14でランクはEです、セシリアはレベル15でランクはDです」
「14と15か、受けた以上はしょうがないな。お前らで我慢する。俺の負担が増えるんだから、必死で頑張れよ。バンガローは無料で使っていい。荷物置いて昼飯食ったら、もう一度ここに来てくれ」
僕たちは、バンガローに行き、荷物を置いた。2人で使うには少し広い感じがする。昼まであと1時間くらいはあるので、セシリアといちゃいちゃすることにした。だって朝のキスが無かったんだもん。
1時間後、昼食を食べに村にただ1つの食堂へ。定食しかない。山菜中心の献立だった。セシリアはけっこう満足していたが、僕の口には合わなかった。肉が食べたい年頃なんです。
「私が料理が上手なら・・・」
とセシリアにはバレていたようだ。でも、しっかりパンのおかわりはした。昼食後、冒険者ギルドに向かう。
「まず、俺と一緒にゴブリンの巣を潰すことは了解してくれているよな。俺のレベルは21、ランクはAだ。属性は土で範囲攻撃『石つぶて』と『土の結界』が使える、今回使えそうなのはそれくらいかな」
「僕は、属性なしです。魔法は生活魔法しか使えません。でも特殊な使い方ができます」
「おう、どんな使い方だ」
「秘密は守れますか?」
「俺はギルドマスターだ。秘密を守る義務がある。たとえギルドのためになる事柄でも秘密を守ると約束したからには俺以外には知らさない。それが良いものなら俺だけが利用できるしな。神に誓って絶対に漏らさない」
秘密は漏らさなくても、あんたは利用するのかと思いつつ、
「では言います。生活魔法1と2が使え、遠距離操作ができます」
「何だそれだけか、何でそれが秘密なんだ」
「僕の必殺技ですから」
「私は、索敵、探索、と、ウォーターボール、治療魔法、身体強化が使えます」
「お嬢ちゃんのほうが頼りになりそうだな」
「俺は、戦斧を使うがお前らは?」
「僕は、ハルバードです。セシリアは剣と盾です」
「武器は使えそうだな。今までの情報では、巣にはレッドオークが1匹、オークが2匹、ゴブリンロードが数匹、ゴブリンが20匹以上いるそうだ。詳しくは分かっていない。
で、計画だが、まずはお嬢ちゃん・・・」
「セシリアです、呼び捨てでけっこうです」
「じゃあ僕もサトシと呼んで下さい」
「そうか、ではセシリアにゴブリンの情報を探って欲しい、坊主もセシリアの手助けをしろ、間違っても戦うなよ。遭遇したらひたすら逃げろ」
僕は、坊主のままかよ。
「「わかりました」」
「あとは、それからだ」
って、計画ってそれだけ? 大丈夫かな。まあ、敵が分からずに作戦立てるよりましか。
「場所は、ここから4時間くらい上ったところだ。あとで地図を渡す。明日1日かけて調べてくれ。
それから・・・」
まだあるのかよ。おおざっぱな計画だけなのに。
「報酬のことなんだけど、いいか」
「はい、ギルド貢献値は0ですよね。報酬は金貨10枚でしたよね」
「うん、金貨10枚は払う。それは絶対に払う」
「他に何かあるんですか?」
「あのゴブリンの巣は古い物だ。相当昔からある。きっとあいつらがため込んだものがあるはずだ。金貨とか宝石とか魔石とか、少なく見積もっても金貨100枚くらい分はあると思う。それらは攻略したパーティーで分けることになっているんだが、最近ここら辺で3つ村が潰されている。孤児やら、老人やらだけで残されている者がいるんだ。そいつらのために使わせてくれ」
「分かりました」と僕、
「お金と宝石、魔石はお譲りしますが、武器や道具はこちらにください」
とセシリアが言う。火の杖だって金貨5枚になったし、いいぞセシリアと心の中で喝采する。
「分かった、欲しい物は選んでくれていい。残ったらこちらで処分させてくれ」
その後、マスターの奥様の手料理をご馳走になった。とても美味しかった。奥様はカーラが言ったとおり、大人の色気たっぷりの美人だった。マスターにはもったいない。お腹の中には子供がいるそうだ。マスターに似なければ良いのだけれど。奥様も冒険者で同じパーティーだったらしい。
その夜、体の点検をしながら、何の気兼ねもなく2人きりの世界を堪能した。朝はもちろんセシリアがキスで起こしてくれた。冷たい井戸水で顔を洗い、パンと山羊の乳で朝食を済ませ、昼食用にパンだけを持って森に入っていった。
しばらくは、セシリアとハイキングだ。はぐれゴブリンは手応えもない存在だ。ゴブリンは組織的にかかってこなければレベル1の魔物だ。集団になると強さが一変する。セシリアを助けたときは、あいつらが混乱していたのが幸いしていたようだ。
マスターからもらった地図を頼りに進んでいく。途中でアプルの木があったので実を魔法で落とす。何の苦労もなく「ファイアー」で落とせる。練習したもんな、あれからずっと。枯れ木ではないので燃え広がることもない。
巣まであと30分くらいの所で食事にする。パンとアプルの実だ。飲み物は水だったがひと心地ついた。これから巣の正確な位置と敵の数を探らなくてはいけない。休憩して、リフレッシュしたところで、慎重に先に進む。
セシリアの索敵にゴブリンが現れたそうだ。索敵とはレベル×10mの範囲で使え、魔物や魔獣の位置が分かる魔法だ、地形も大まかに分かるらしい。使用者に明確な敵意を持っている人間も分かるらしい。セシリアが使うと、セシリアに害を与えようと考えている人間は認識できるが、僕を害しようとしている人間はわからないそうだ。例えば、王様の警護をする護衛が索敵を使っても王様に対して敵意を持っている暗殺者は探れないそうだ。魔物以外には使いにくいらしい。探索は明確に探す物がハッキリしていれば壁の向こうでも探せるらしい。ただ範囲が直径約1m、奥行き1m×レベルと狭く、1部屋探すとMPの消費が馬鹿にならないらしい。
ゴブリンがいないルートを選び、巣に近づいていく。セシリアには、巣の位置もハッキリと分かったらしい。もう少し近づいて、敵の数を確かめたい。巣まで50mくらいに近づいた。
「レッドオークが1匹、オークが2匹、ゴブリンロードが5匹、ゴブリンが20匹くらいです。他に10匹が巣の周りにうろうろしています、見張りのようです」
「よし、離れよう」
ゴブリンの巣から離れ、村に帰る途中、ゴブリンの集団がいた。
「別働隊のようですね。ゴブリンロードが1匹、ゴブリンが7匹です」
「これでオークが合わせて3匹、ゴブリンロードが6匹、ゴブリンが40匹ぐらいか、マスターに報告しよう」
セシリアの索敵はすばらしい。全く魔物に会わずに帰り着くことができた。今夜はうんとベッドで誉めてあげよう。
食事をご馳走になりながら、マスターに報告し、作戦を立てる。料理は最高、奥様も最高。マスターがうらやましい。でも、セシリアも最高だけどね。
「まあ、想定内だな。巣の位置もしっかり分かったし、俺の『石つぶて』で先制パンチをして、セシリアがゴブリンを倒し、オークを坊主と俺が片付ける。というところだな」
「オーク3匹が連携するとやっかいですが、12~3mくらいまで近づけたら殺せます」
「あまり大口叩くなよ、後で後悔するぞ」
「大丈夫です。私はご主人様を守るので、雑魚はマスターが対処して下さい」
奥さんが話に加わった。
「2人とも簡単に考えないほうがいいわよ。相手はオークだし、それもレッドオークもいるのよ。低レベルな物理攻撃は、ほとんど効かないはずよ」
「大丈夫です、オークは何匹も討伐しています」
「そこまで言うなら任せる、ただし、引き上げの指示には絶対に従うこと。お前らには死んで欲しくないからな、何度でも攻撃をかけられるわけだし。明日の昼頃出発するから準備しておくように、巣の近くで1泊して、朝、突入する」
「分かりました」
出発は明日の昼か、うふっ。バンガローに帰り、武器の手入れをして荷物を確かめる。体をチェックして、そのままベッドイン。長い長い夜を過ごした、満足だ。




