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異世界はバラ色に  作者: 里中 圭
第1章 メルカーディア王国編
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第14話 必殺技

戦闘シーンは苦手です。勉強しなくちゃいけませんね。

 朝、セシリアのキスで目覚めても、ベッドには引き込まなかった。アルトがこちらの部屋の荷物も片付けると言っていたのでアルトに鍵を渡しておく。カーラは裏庭で剣の稽古するらしい。


 朝食後、冒険者ギルドへ行き、依頼を受ける。ランクCの依頼だ。パーティーで依頼を受けると、そのパーティーメンバーの最高ランクが基準になる。4つ上まで受けられて、貢献度は個人と同じで、同じランクなら3、1つ上なら5、2つ上なら10、3つ上なら20、4つ上なら50となり、これをパーティメンバーで分割される、端数は切り捨てだ。5人パーティーで2つ上の依頼なら1人あたり2しか貢献ポイントはつかない計算になる。失敗は-5、連続失敗は-10が各個人から引かれる。貢献ポイントより、成功報酬が良いのでパーティーを組むんだそうだ。依頼の失敗は、罰金が賞金の5割なのでこれも厳しい、失敗は許されない。


 成功報酬の基準は、Gランク銀貨1枚、Fランク銀貨2枚、Eランク銀貨5枚、Dランク銀貨10枚、Cランク金貨1枚、Bランク金貨10枚、Aランク金貨100枚、Sランク以上は時価らしい。Dランクのパーティーは4つ上のSランクまで受けられるのだから、貢献ポイントはあまり意味をなさないかもしれない。加えて、討伐した魔物の魔素も換金できる。


 Cランクで、動きが遅く単体な魔物を探す。ワイルドベアの討伐を選んだ。魔素も1000くらい入るらしい。ゴブリンロードが150だったので相当強いかもしれない。失敗すると銀貨50枚だ。カウンターに紙を持って行って依頼を確認する。猫耳のお姉さんのところが一番少ないようだ。人族の冒険者は避けているらしい。セシリアもいるから問題ないだろう。


「ワイルドベアの討伐ですね。サベス村の近くの山に出たそうです。あの山には灰色熊もいるらしいので気をつけて下さい。灰色熊は討伐されても貢献ポイントは付きません。詳しいことは村長さんに聞いてください」

と猫耳のお姉さんが対応してくれた。「にゃあ」とか「にゃ」とか語尾に付かないようだ、なんか残念。


 サベス村には乗合馬車で向かう。モンテロ伯爵領内は街道が整備され、乗合馬車制度があり、領都であるタンガラーダから、ほとんどの町や村には馬車で行ける。サベス村までは馬車で1時間くらいである。歩けない距離ではないが、できれば今日中に帰りたい。


 村に着き、村長宅を訪ね、話を聞く。近くの山にワイルドベアが現れて、もともと山に住んでいた灰色熊が山を追われ村の近くまで出てくるらしい。犠牲者も数人出ているらしい。できれば灰色熊も倒して欲しいが、そこまでの依頼金は出せなかったとのことだ。山へ行く途中で出会った灰色熊は、できるだけ倒すことを告げ、ワイルドベアの出没場所を記した簡単な山の地図を受け取り、山へ向かった。


 山の入ってすぐに灰色熊がいた。

「セシリア、前で受けてくれる?、9m以内に近づきたい」

「はい、ご主人様」

セシリアは余裕で、僕はびくびくしながら灰色熊に近づく、脊椎動物の心臓の位置はだいたい同じはずだ。胸の中央やや下あたりを狙おう。


「来ます」とセシリア。

熊は体当たりをしようと加速する。セシリアは盾で受け流す。凄い、灰色熊といっても体調3mはある魔獣だ、いくら様子見の体当たりとはいえ相当の圧力のはずだ。灰色熊の表情は一気に険しくなり、立ち上がり威嚇する。


 これだ、これを待っていた。心臓めがけて、「フリーズ」、興奮して大声で叫んだ。灰色熊はその瞬間全身を痙攣させ、後ろに倒れていった。セシリアが心臓めがけてとどめを刺す。灰色熊は倒れた。僕はナイフを出して灰色熊に向かう。

「灰色熊の討伐証明はいらないはずですが、肉を取るんですか?」

「いや、内臓の位置を確認したい、魔物が来ないかどうか見張っててくれ」


 熊の解剖だ。ナイフは銀貨50枚で買った解体用のナイフを使う。刀身は10cmと短いが良く切れる。仰向けに倒れた熊の胸を開き、肺と心臓の位置を確認する。狙い通り心臓に「フリーズ」が効いていた、心臓の右上、右心房の中の血液が凍っている。死因は心臓発作かな。肺の中に向かって「ファイアー」を試してみる。気管支のあたりだと火を起こすことができるようだ、空気を吸い込んだ直後に火を付ければ、これも選択肢の1つになる。心臓の位置は確認できなくても肺の位置は呼吸する動物なら観察していれば膨らむので分かる。


 これが僕の必殺技だ。

「セシリア、この技は秘密にしたほうが良いよね」

「もちろんです。敵に知られたら絶対に暗殺されます。こんな危険な技を持つ者を近づけたくはないでしょうから。化け物扱いされます。それくらい凄い技です」

「でも、弱点もいろいろあるしね」

「ご主人様は、身体強化が使えないのがおしいですね。装備で強化するだけして、私が盾になれば戦えます」


 その後も2頭、灰色熊を倒した。熊が立ち上がらないでも倒すことができた。1頭は肺の2か所に火を付け、1頭は心臓の血液を凍らせる方法で倒した。やはりちゃんと調べることは重要だ。セシリアは警戒しているだけだったが、僕のほうが多かったものの経験値は2人に分けられた、僕1人なら安心して倒せないから当然だけど、どういう計算になっているのか、この世界の神様って不思議だ。


「ワイルドベアがいます。距離は100m、左手の方です」

「崖の上、それとも下?」

「下です」

「他に魔獣は?」

「いません」

まあ、いないだろうな。灰色熊だって追い出すくらいだから。そっと崖の上から近づき様子を見る。ワイルドベアと目があった。

「来るぞ」


 圧倒的なスピードで崖を駆け上がり、目の前に姿を現し威嚇するように立ち上がる。5mは超す大物だ。でも立ち上がり威嚇したのが失敗だったようだ。心臓付近に焦点を合わせ「フリーズ」、少しずつずらしながら3連発。左膝も1発凍らせておく。ワイルドベアは左膝から崩れるように倒れた、関節液も凍らせることができた。セシリアが目から剣を突き刺し、脳を破壊する。「ピロン♪」「ピロン♪」と音がした。


 レベルアップだ、それも2つも。セシリアも上がっただろう。セシリアが左腕を押さえている。

「怪我したのか」

と尋ねると、

「レベルアップしました。レベルアップすると左腕が熱くなるんです」

「僕は、ピロンと音がするんだけど、それは異常なこと?」

「レベルアップを知る方法は人それぞれです。音がしたり、周りが輝いたり、突風を感じたり、体の一部が熱くなったりするそうです」


「討伐部位の牙を抜こう」

「肝臓や肉も高く売れるそうです」

「重そうだね、帰りも魔獣がいそうだし。でも少しなら良いか」

と肉と肝臓を持って帰ることにした。熊の皮に包み、腸を袋状にして中に氷を作り、保冷剤とした。ときどき「フリーズ」をかけながら帰ればタンガラーダまで悪くならないはずだ。村長さんに終了の挨拶をして、馬車が来るまでのんびりと待つことにした。


「心臓の位置が分かっている魔獣なら何でも倒せますね」

とセシリアが言う。

「まあ、人型とか動物型なら大体変わらないと思うけど、見たこともないような奴だと想像が付かないな」

「誰か詳しい人がいればいいんですけど・・・、あっ馬車が来ました」

馬車に乗って、タンガラーダに帰り、終了報告をしに冒険者ギルドに行く。冒険者ギルドは時間が早かったせいか人が少なかった。猫耳のお姉さんのカウンターに行く。まばらにいた冒険者たちがざわついている。何で猫人族の受付に行くのか不思議がっているようだ。


 ひとりの男が近づいてきて、

「何でこんなに空いているのに猫人族の所に行くんだ」

と聞いてきたので、用意しておいた返事を返す。

「あの受付嬢のところで手続きすると、思わぬ助けが入ったり、肉が高く売れたりと、いろいろと運が良いことがあるんだ。失敗もしたこと無いし。一度失敗するまではあの受付で依頼を受けたいと思っているんだ」

「そうか、それならいいんだ」

と納得して戻っていった。他種族への差別はまだまだあるようだ。


 終了報告を終え、肉と肝臓を売り、魔素で報酬を受け取った。何か上級の冒険者になった気分だ。報酬、魔素と肉、肝臓を合わせて金貨3枚と銀貨10枚になった。日本円なら31万円だ、1日で。命がけだが確かに冒険者は実入りが良いようだ。


 宿に帰ると、アルトとカーラが待っていた。アルトに相談があるので部屋に来て欲しいと言われ、アルトの部屋に行く。

「この宿にいつまでいるのですか?」

アルトが問い詰めるように聞いてくる。

「いつまでって、お金はあるし快適だし特に問題はないと思うんだけど」

「お金は稼いでいただけるけど、宿代は高いと思います、武器や防具も揃えて欲しいし。それに、・・・、私の存在する意味がありません」


「そうかそうだよね、じゃあ、アルトはまず家を探して欲しい。借家で、ここの宿泊費よりも安ければいいから、治安が良い地域であれば、あとはまかせる」

「分かりました探します、やっとお役に立てることが出来ます」


 2日後、僕たちは「光の森の泉亭」を出て、借家を借りることにした。冒険者ギルドから街の中央にあるお城の方向に200mくらい行った高級住宅街の1歩手前、サルダニア通りにある4LDKで家賃は1週銀貨20枚、30日で金貨1枚、日本円なら月に10万円だ。治安は良い地域であることは確認済みである。アルトは高くてすみません、と謝っていた。東京ならこんなものではないだろうし、宿泊費5日分なので安いもんだ。


 依頼の方も順調だ、はぐれたオークを2回倒した。レベルは僕もセシリアも同じ13になった、経験値の差はまだあるんだけどね。

「2週でレベル13なんて、誰かに知られたら噂になります」

と言われ、僕は有頂天になっている。だって、オークは動きが遅く心臓の位置がハッキリしていて氷を作るだけの簡単なお仕事でした。また青月日から黒月日を2連休として家を片付けたり、買い物をしたりして過ごした。個室は4部屋あるが、使っているのは2部屋だけだ。もちろん、僕とセシリア、アルトとカーラの部屋割りとなった。アルトの料理は美味しいし、セシリアとの夜は・・・、朝もですけど。


 休み明けの赤月日、リフレッシュした心と体で冒険者ギルドへと向かう。猫耳のお姉さんの所で受付してもらう。

「ナウラと申します。あなたたちがきてから、だんだんと私の所でも依頼の手続きをしてくれる人が増えてきました。ありがとうございます」

「いえいえ、噂は本当のことですから。今日はこの依頼をお願いします」

「かしこまりました」


 ランクCのブルーウルフ討伐の依頼を受ける。アルサンベル高原に出たらしい。ヴェシエ村の近くにある高原だ。馬車で1時間、それから徒歩で2時間かかる。アルトが作ってくれたお弁当もあるし、夜までには帰ってこれるだろう。


 昼前にアルサンベル高原に着く。歩くのにはだいぶ慣れてきた。セシリアは片手剣と盾、僕の武器は鉄の短槍、攻撃手段は生活魔法だ。セシリアの索敵にブルーウルフが掛かった。総勢9匹、レベルの低い黒色狼や灰色狼を従えているようだ。何とかなるだろう。


 ブルーウルフがゆっくりと近づいてくる。手下の狼も遅れて近づく。この世界の魔獣は威嚇するのが好きなようだ。助かる。7mくらいに近づいたところで体の中央をめがけて「フリーズ」。ブルーウルフは痙攣し倒れた。後ろの狼8匹が一斉に飛びかかってきた。セシリアが必死で防ぐが僕の方にも向かってきた。1匹を「フリーズ」で倒す。もう1匹に槍を向ける。そのとき横から、灰色狼に右足を噛まれ倒される。痛い、気が遠くなるような痛さだ。灰色狼の喉に向けて「ウォーター」「フリーズ」を使い、狼の息を止めて口をあけさせる。そして心臓めがけて「フリーズ」、息の根を止めた。セシリアは、4匹を倒し、5匹目にかかっている。あと残り1匹だ、いないと思った瞬間、後ろから左足を噛まれる。MPの残りが心配なので喉の奥に「ファイアー」で火を付ける。狼はビックリして叫び離れ口を左右に激しく振っている。セシリアが心臓を一突き、とどめを刺した。


「ご主人様、大丈夫ですか」

とセシリアが「ヒール」をかけてくれた。「ヒール」は見かけ上はすぐに良くなるが、痛みとか筋力とかが回復するのにはやはり時間がかかるようだ。しばらく動けない。セシリアはブルーウルフの牙を抜き戻ってきた。

「ちょっと甘く見ていたようだ」

「今まで順調すぎましたからね、仕方ないですよ。まだ歩けませんか」

「もう少し待って、痛さには弱いみたいだ」

「でも噛まれてから2匹倒したんですよ」

「1匹は、セシリアがとどめを刺してくれたけどね。残りのMPも考えずに連発したからね」


 しばらく、2人で過ごし、槍を杖代わりにヴェシエ村にたどり着いた。最終の馬車には何とか間に合い乗ることが出来た。



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