第20話 アルヘンの森
朝早くセシリアがキスで起こしてくれた。
「おはようございますご主人様」
「おはようにゃん!」
「おはようございます」
と3人はおどけて挨拶する。でも表情を見ると少し緊張しているようだ。やはり4人で聖なる森へ行くことに不安があるのだろう。サンセベの森のとき、もし4人だったらウスパジャタの祠までは行けなかっただろう。あの頃よりもレベルは上がったとはいえシェリルとリーナがいないのはやはり寂しい、じゃなくて、戦力的に落ちるだろう。
朝食後、ペドリドさんに借りた馬車に乗る。大型馬2頭引きの馬車で9人乗るのには少し狭く感じる。もっとも御者席に2名は乗るので窮屈と言うほど狭くはない。
「では、行ってきます」
「お気をつけて」
ペドリドさん達に別れを告げて街道を西に向かう。長閑な平野がしばらく続く。そして左手に森が見えてくる、大きな大きな森だ。そしてその周りには多くのテントが見える。昼食の準備なのか炊飯の煙も見える。
「もめ事はいやだね、どうしますかサトシ様」
とパースさん。なんかあらたまった言葉使いだ。
「サトシで良いですよ、呼び捨てで。敬語もいらないし。とりあえず迂回して行きましょう。敵対しているわけじゃないので離れて通過すれば無視してくれるでしょう」
「Sランクの冒険者に対して敬語を使わないことは出来ません」
それで今回の遠征では口数が少なかったのか。
「でも、サトシ様はないでしょう、年下なのに」
「でもSランクといえば上級貴族と同等ですから呼び捨てには出来ません。サトシさんくらいで勘弁してください」
「では、それで。でもAランクになったらパースさん達も貴族扱いですよ」
「ははは、信じられん」
馬車は森の入り口を迂回して進み、途中何事もなく2泊して、山に入った。登ること半日、少しだけ開けたところに出た。そこから先は葉の生い茂った大きな木々が空を覆い尽くすような感じで続いている。うす暗い森だ。
「なんかいやな感じね。あっ今結界を通った」
セシリアが言う。バッセルトンさんが御者席に座り、残り全員が馬車を降り馬車を守るように進んでいく。セシリアが、
「右手魔物が来ます。3匹です」
出てきたのはマンティスだった。
3匹くらいならとパースさん、コリーさん、アルバニさんが倒す。魔法も使わずに物理攻撃だけで対処できる。マンティスは戦うときに甲高い声を上げる。それを聞いたのか、
「右手からさらに魔物が来ます。100匹以上います」
「左からレッドボアも来ます。5匹です」
「パースさん達は馬車を守ってください。ナナルは石つぶてでマンティスを頼む」
ナナルが石つぶてを放つ、マンティスの動きは速いが外郭はそれ程硬くないようだ。石つぶてでどんどん潰れていく。撃ち漏らしたマンティスはアルトがハルバードで倒す。パースさん達もアルトから離れて通過してくるマンティスを倒している。
左からレッドボアが突進してくる。そこに震地を放つ。レッドボア達は転倒する、転倒するがすぐに起き上がろうとする。そこにセシリアと剣で一頭ずつ屠っていく。今日は牡丹鍋だな。
戦いが一段落すると、もうマンティスは襲ってこなかった。出てきたのははぐれゴブリンとオークくらい。組織だった攻撃もなく。瞬殺しながら奥へと進む。
「結界が有ります。ここから先は第2相です」
とセシリア、
「うわ-っ、第2相になるとまた暗くなるな。こっから先はアンデッドだろうな、この暗さだし」
とパースさん。
「ここから先は僕たちだけで行きます。ここで馬車を守って待っていてください」
「第1相の魔物なら何とでもなる。コリー、結界を頼む」
パースさんはホッとした表情でコリーさんに指示を出す。緑鰐の牙のみんなも緊張が解けた。よほどアンデッドが苦手なんだろう。リーナがいないのが少し不安だが問題は無いだろう。アルトはナナと一緒に牡丹鍋を作っている。
◇ ◇ ◇
マグルティ達3人は祠に入った。
「なんだここは」
祠の中央には円板があり、その中央には大きな魔石が埋まっている。魔方陣とその中央にある魔石を確認する。
「この魔石を持って帰れば凄いことになるぞ」
「しかし、我々3人ではとても無理です。30人いたって不可能だと思います」
「そうだな、ヌグルマに期待するしかないな。狼煙を上げよう」
狼煙を見たベースキャンプの兵がヌグルマに報告する。
「狼煙が上がりました。いかがなされますか」
「迎えに行こう。十分に戦える者はどれくらいいる?」
「およそ8000です」
「では1000人を突入部隊、7000人を陽動部隊とする」
「マグルティ隊から1000人の突入部隊を選出するように、絶対無事に第3相まで送り届ける」
「はっ」
第2相に入ると牙竜、レッドウルフ、灰色狼の群れが襲いかかってきた。7000人が拡散したり固まったりしながら魔物達を引きつける。2回目なので思ったよりも巧くいく。その隙に10人ずつの隊が100班に分かれ第3相に突入していく。何とか無事に1000人を送り込むことが出来た。陽動部隊の被害は重傷者も含めておよそ500。被害は少なくなかったが作戦は大成功だった。
マグルティ達3人は祠から第3相の入り口にある広場に兵が集まっていることに気付いていた。
「500、いや800はいます。それ以上かも」
「これで何とかなるな」
◇ ◇ ◇
第2相に入るとすぐに、
「ゾンビがいます」
とアルト。索敵を使うまでもなく見えるところにゾンビがいた。まあ問題ないだろうと僕は闇の魔剣をセシリアは氷の刃をアルトは炎のハルバードを構える。ナナは長刀みたいな武器を構えている、ミルルさんが作ったものらしい、きれいな彎曲が目を引く。ゾンビもスケルトンも瞬殺だった。動きが遅い上に威力のある武器で斬りつければアンデッドだろうが何の問題もなかった。
「前に何かいます。大きいです」
とセシリアが言う。5mはありそうな犬がいた、鑑定をかけるとガルムとでた。
「ガルムだ。倒さないと進めないんだろうな」
ガルムは動かない。ならばこちらから行くしかない。
「どうします、向こうから攻撃してこないのなら一気に倒してしまいましょうか」
アルトが前に出る。
「ファイアーラプチャーをかけます。きっと避けられるでしょうから、それからが本番ね」
「分かったわ。辺りには他の魔物はいないわ。ナナ、加速と強化をお願い」
「まかせて」




