第12話 休日
夕食時に、人族以外のことを聞こうとしたらアルトに叱られた。なんかあるみたいだ。部屋に帰ってから聞くことにしよう。夕食は鳥の肉を焼いたものと、よく分からない煮込みだった。パンはおかわり自由だ。おいしかった、さすが宿代が高いだけのことはある。
部屋に戻り、明かりを付ける。火は生活魔法で付けられる。そばまで行かなくても座ったままで2カ所の燭台に火をともす。テーブルの上には水差しと陶器のコップがあるので、水差しの水を凍らせる。アルトとカーラが桶を持って部屋に入ってきた。
「セシリア、体拭く水を汲みに行こっ」
と、カーラが言うので、こっちへおいでと誘って両肩に手をかけ「クリーン」を使う。セシリアのときみたいに抱きしめはしない。
「えっ、何で! 服まできれいになった」
「ご主人様の魔法です。上級の生活魔法です」
とセシリア、上級? いや、2ですけど。
「アルトもおいで」と言って、アルトにも「クリーン」をかける。本当は抱きしめたかったが、みんなもいるのでやめた。
カーラが水差しの水をコップについで飲もうと口を付けた。
「冷たい!」
「あっ、それ凍らせておいたから」
と水差しの蓋を開けると水差しの3分の1くらいの氷が浮いていた。
「あとで、部屋の水差し持ってくる、生活魔法2って便利だね」
カーラは上級じゃなく2って分かっているようだ、常識だよな。
体を拭く必要がなくなったので2人は部屋には戻らず、話をすることに。気になっていた猫耳のことを聞く。
「人族以外にはどんな種族があるの?」
と聞くと、アルトが話し始めた。
「今、この大陸に残っている種族は、人族、エルフ族、ドワーフ族、猫人族、狼人族、竜人族くらいです。人口は、約9割が人族で、あとの1割が他の種族です。正確には分かりませんが他の種族は大体同じ割合だそうです。都会は圧倒的に人族が多く、北の山には竜人族、クラカウティンの森はエルフ族、南の岩場にはドワーフ族、東の草原は狼人族が多いようです。猫人族は集落を作らないようです。
見た目は、ドワーフ族は身長が低く手先が器用、竜人族は大きく鱗があり力が強い。猫人族や狼人族は耳が特徴で俊敏です。エルフ族も耳が特徴で魔法に長けています。他にも島には魚人族がいることが知られています」
「兎人族とか犬人族とかはいないの?」
「これ以外にもいろいろな種族があったのですが、それらの種族は他人がつけた隷属の首輪が効果を発揮したので、捕まり奴隷にされてしまいました。隷属の首輪を付けられると子供ができなくなるため絶滅したそうです。特に兎人族は綺麗な女性が多かったので最初に絶滅したそうです」
見たかったなあ兎人族、って不謹慎だな。アルトは続けた、
「人族は繁殖力に強みがあります。人口が増え他の種族と数の差ができると、他の種族を差別し始めたのです。今は表だった差別は無くなりましたが、まだまだ下に見ている人は少なくありません」
いろいろと問題のある世界のようだ。地球よりもましかもしれないが、
「明日はどうされますか」とアルトが聞いてきた。
「休みにしよう」と答えると、
「青月日ですよ」
とセシリア、カーラがセシリアに向かって、
「じゃあ2日連続休みですね。セシリア、また剣を教えて」
「いいですよ、ご主人様は何か予定があるんですか」
「いや、こちらに来て、いろいろあったので、さすがに疲れたかな。これからの事もあるし、必殺技のことあるし、ここらで1回リフレッシュしておいたほうが良いと思うんだ、幸いお金も足りそうだし、2日休みということで」
それから、3人は盛り上がっていたようだが、僕は話に入っていけなかった。アルトとカーラが部屋に戻ると、当然のことながらセシリアと2人きりになった。
「服を脱いで下さい」とセシリアが言う、なんだいきなりって思うと、どうも僕の体を点検するらしい。服をすべて脱がされてベッドにうつ伏せになる。セシリアはじっくりと背中からチェックし始める。
「傷はありませんが、何カ所か虫に刺されていますね、治療しておきます。では仰向けになって下さい」
えっ、恥ずかしい。
「前は僕が自分で見るよ」
「いえ、ご主人様の体をメンテナンスするのは奴隷の役目です」
「2人しかいないときには奴隷って言わなくてもいいんじゃない?」
「だめです、さあ早くして下さい」
今日だけ逃れても、どうせ毎日点検するのだろうから、覚悟を決めて仰向けになった。恥ずかしい。セシリアは顔色一つ変えずにチェックしていく。羞恥プレイは終わった。ふーっとため息をつくと、
「私の体も点検して下さい、おかしいところがあったら手で押さえて言って下さい、ヒールかけますから」
と言ってきた。そうそうご主人様の勤めですよね。じっくり見ましょ。
まず、うつ伏せから。白い裸体はとても綺麗だ。背中にかかる銀色の髪の毛を上にあげ肩からチェックし始める。傷は全く見あたらない、綺麗なだけだ。だんだん下に視線が下がっていく。お尻のあたりにくると目が釘付けになりそうだ。視線が動かない。鼻血が出そうだ。いやいや、楽しみはこれからだ。仰向けになったら、もっとじっくり・・・。
「終わったよ、仰向けになって」
「いえ、自分で見えるところは自分でやりましたから」
とあっさり言われてしまった。
「じゃあ、寝ようか」
といってベッドに潜り込む。セシリアは明かりを消し、当然のように僕のベッドに入ってくる、お互い何も着ていない。ならば、やることはひとつしかない。
「セシリア」
と声をかけ、キスをする。初めて僕のほうからした口づけだ。セシリアはいやがることもなく受け入れてくれた。抱きしめると、
「ご主人様、私はもう子供を産めません。でも精一杯お仕えいたします。もしご結婚されても、お子様がおできになっても捨てないで下さい」
なぜかアルトの顔が一瞬浮かんだ。べつにセシリアよりアルトのほうが好きなわけではない。アルトに同じ事を言われたらセシリアの顔が浮かんだはずだ。いや、そんなことはどうでもいい。
「セシリア、好きだよ」
「・・・」
力を込めて抱きしめ、もう一度、長い長い、キスをした・・・。
僕もセシリアも初めてだったが、何の問題もなく最高の夜が過ごせた。
「おはようございます、ご主人様」
いつもより、長いキスで起こされた。思わずセシリアをベッドに引き込んでしまった。
昼近くになり、遅い遅い朝食を食べに食堂に降りていったら、女将さんがあきれ顔でこちらを見ていた。2人とも真っ赤な顔になって朝食を食べた。何を食べたのかは覚えていない。部屋に帰って今日は何をするか考えよう。アルトたちは気を利かしてか、あきれてか姿を見せない。
「あと5泊分です」
と、金貨1枚を女将さんに支払い、部屋に戻る。カーラが、剣の稽古をしようと呼びに来たので、アルトと2人で服を買いに行く、さすがに作務衣とジャージだけではつらい、通りを行き交う人を見ながら、どんな服を買うか考える。さすがに此処は暑い地域らしく、黒を着ている人は少ない。
店に入り、服を選ぶと黒もけっこう置いてある、温度調節の魔法がかかっているらしい。ものすごく高いそうだ。で、無難に上は白と生成、下は黒2枚、やはりこだわりの黒は譲れない。黒のズボンは魔法がかかって無い安いものだ。麻っぽい多少ごわごわした感じだ。下着もトランクスみたいなものを買った。ゴムはないらしく紐で結ぶものだ。アルトも下着を何着か買っていたようだ。
宿に帰り、部屋に入るとセシリアが体を拭いていた。ナイスタイミングだ。やっぱキレイだ。さっと体を隠そうとしたので、ドアを閉め、アルトとカーラの部屋をノックした。カーラは体を拭き終わっていたらしく、よほど疲れていたのか、ベッドに倒れ込んでいた。
氷を作ってやるよと、水差しに向かって「フリーズ」をかける。
「助かります」
とアルト、カーラは倒れ込んだままだ。
「すみません、着替え終わりました」
とセシリアが呼びに来たので、部屋に帰り、買ってきたものを衣装ケースに入れる。
昨夜のこともあり、会話が続かないので、魔法の練習をする。まずは、桶の中にコップを置き、水を作る。水は予想どおり溢れてしまった。水を桶に捨て、今度はコップ半分くらいの水を作る。イメージすればできるはずだ。「ウォーター」、成功だ。では、1滴作ろう。コップの30cmくらい上に水を1滴作る。できた水はコップに落ち、波紋を作る。MPの消費は全て1だ、1m以内なので遠距離操作はいらないみたいだ。最後に3cm角の氷をイメージして2個作る。MPは2減った。やはり2個作ると2減るのか、かき氷は無理だな。
休みながら、遠距離にしたり後ろを向いたりしてやってみる。後ろを向くと、やはり狙いが定まらないようだ。まあそんなものだろう。視覚にとらえる範囲ならほとんど正確に作る事ができる。セシリアは、面白そうに僕の魔法を見ていた。
その夜は、激しかった。何がって、教えない。昼近くまで寝ていた。朝食は食べていない。
次の日は、黒月日。日本で言うなら日曜日だ。街の通りには様々な屋台が出てお祭りみたいになっている。食べ物を売っている屋台。武器や防具の屋台、雑貨の屋台、いろいろあるようだ。屋台の串焼きを食べながら歩いていると、人だかりのしている屋台があった。
ゲームの屋台だ。そのなかで最も人が集まっているのは、ガラスの様なケースの中に入っている玉を台から客が魔法で落とすゲームだ、1回銀貨1枚で、落とせば金貨1枚というものだった。ガラスの様なものは水オオトカゲの鱗と書いてある。
「インチキです。あれは、リトルフェンリルの皮でできたものです。リトルフェンリルの皮は透明で魔法を通しません」
とセシリアが言うので、鑑定で確かめる。リトルフェンリルの皮が2枚重ねてある。
冒険者がウインドカッターやウォーターボール、ファイアーボールなんかで挑戦しているが、何かの仕掛けだろう、外に魔法が当たると台が少し動く。おしいと思って再度試したくなる。よく考えてるな。
「僕なら、落とせるかもしれない」
というと、セシリアは、
「だめです」と僕の袖を引っ張って、屋台を離れて行く。
「屋台の周りに、顔つきの悪いのが何人かいます。もし、落としたら、いかさまとか何とか言って絡まれます」
「そうだな、でも試したい。分からないように水を1滴だけケースの中に作ってみる」
屋台から3mくらい離れて、無詠唱で「ウォーター」を使う。ケースの中、台の真ん中あたりに1滴水がついた。もちろん僕とセシリア以外は誰も気づかない。セシリアの顔は真っ青になっていた。自然な感じで屋台を離れ、アルトたちと合流した。




