第13話 安否
オルウェリさんは居住まいを正し、
「残念ながらプエルモント国王ガルシアス陛下は崩御されました」
これまでのオルウェリさんの態度や軍のみんなの対応からあるいはと想像していたのだろう、シェリルは取り乱すことなくじっと耐えていた。
「それに」
とオルウェリさんが続けた。シェリルはハッとしたようにオルウェリさんを睨みつける。
「教皇サルバティ15世、テルミニオ王弟殿下も重傷を負われたという報告がまいっております」
「えっ、テルミニオお兄様もお怪我を」
とシェリル。
「広場におられたほとんどの貴族の方、男性は殺され女性は攫われました。攫われた女性のほとんどは両国の精鋭の皆様がお助けになりましたが重傷者も多く情報は未だに混乱しております」
そのとき通信機からナウラの声がした。
「テルミニオ王子も教皇猊下もお亡くなりになったそうです。昨日その報告が届きました」
シェリルの嗚咽が聞こえる。マルチェリーナも泣いている。アルトは呆然としている。そのままこの場を解散し宿舎に戻る。みんなベッドに入り泣いていた。外で何やら気配がしたので僕は宿舎の外に出た。
宿舎の門の前にはオルウェリさんがいた。
「アラスティア様からの伝言があります」
「分かりました」
そう言って、宿舎から少し離れた広場のベンチ代わりの岩に座る。
「黒龍の牙の皆様には辛い報告でした、特にシェリル様には。気持ちが落ち着くまでゆっくりしていただきたいところなのですが、事態は急を要しております。バフーサムの悲劇は政治的にも軍事的にも影響が及びます。次期国王の問題、有力貴族の後継問題、軍事バランスの変化によるクーデターの可能性、他国による侵略の可能性など不安定要因が多すぎます。不幸中の幸と言いますかディオジーニ様はクラチエでの結婚式の準備をされていたので無事でしたのでしばらくは抑えが効くかもしてませんが、事が大きいだけにいつまで押さえられるかは分かりません。黒龍の牙にと言うよりも、シェリル王女に一刻も早くクラチエに帰っていただくとこが最優先課題だ、とサトシ様に伝えるようにとアラスティア様からのご命令でした。テルミニオ殿下も亡くなられたとなるとさらに急ぐ必要が出てきました」
アラスティア様の考えはどうであれ、このままここにいても何の解決にもならない。帰りを急ぐことでシェリル達も少しは気が紛れるかもしれないし、カーラの情報も詳しく聞きたい。
「分かりました。明日の朝ここを発ちます」
「そうですか、我々が道を確保しています。案内を付けますので急げば4日でクーバンに着けるはずです」
「土の魔法師と砂そりを用意しました。途中のキャンプ地も確保しております。明日の朝、お迎えにまいります」
「よろしくお願いします」
宿舎に戻るとみんなに取り囲まれた。
「早く帰ろう。今すぐにここを出て」
とセシリア。
「明日の朝、出発する。土の魔法師と砂そりを貸してくれるそうだ。途中のキャンプ地も確保されている。今から僕たちだけで行くよりも早く着くことは間違いない。それよりも眠れないだろうけど、横になるだけでも体力は回復するから明日の朝までは横になっていよう」
そう言うとみんなはそれぞれのベッドに入った。
次の日の早朝、砂そりは6人乗りのものが2台、縦6m、横3mほどの大きさだった。荷物や食料、水は闇の袋に入れてできるだけ軽くしてある。土の魔法師が6名乗っていた。僕たちが乗ると体が触れあうほどではないが、動き回れるほどの隙間はなかった。
「狭いですが我慢して下さい」
彼ら、土の魔法師は砂の扱いに特化した魔法師だった。呪文を唱えると砂は大きく持ち上がり波をを作る。その波に乗るようにそりを走らせる。坂道をずっと滑り降りている感じだ。
「けっこうスピードが出てるね」
と言っても横にいるシェリルもリーナも黙ったままだ。魔法師の1人が言った。
「はい、スピードは出ますが魔力も使います。6人いないと連続して走らせることができません。今回のような場合は良いのですが、使い勝手が悪い緊急事態用の乗り物です」
「魔物が出たらどうするんですか」
「皆様にお願いするしかありません。それまではごゆっくりお休み下さい」
魔物も出ず退屈な時が過ぎていく。あまり動けずに時間がたっぷりあるだけにみんな考え込んでいるようだ。
「恐れ入ります」
と魔法師の1人が言った。セシリアが治療魔法を使ったようだ。リーナもときどき光の癒しを使っている。少しでも魔法師達が楽になるように気を遣っているのだ。
「セシリア、魔物はいない?」
「小物ばかりです。襲ってはこないと思います」
順調に1日がすぎ目的のキャンプ地に到着した。夜はゆっくり休む。何もせずじっとしているのも疲れるものだ。到着の予定はナウラに伝えてある。クーバンにはロチャとオルモスが迎えに来ているはずである。
2日目も順調だった。3日目にはサンドワームが向かってきたがアルトのファイアーラプチャー1発で難なく追い返した。シェリルだけが何か考え込むようにじっとしていた。
「治療魔法や癒しの魔法で我々も楽をさせていただきました。このままクーバンまで一気に行きたいと思いますがいかがでしょうか」
「そうしていただければありがたいです」
クーバンに着いたのは4日目の夜明け前だった。
魔法師達と別れてロチャとオルモスがいる宿舎へと向かう。きっとまだ寝ているはずだ。起こしてもいいが僕たちも少し休みたい。宿舎の竈を借りてアルトが料理した軽食を食べる。セシリアとナナ、それにリーナはベンチで固まるように眠っている。
「ねえサトシ、ちょっと良いかな」
「なに、シェリル。改まって」
アルトは何かを感じたのか食器を持って洗い場の方に去っていった。




