第11話 西の神の門
1人の兎人族の若者がこちらを見ている。僕たちを案内してくれた人だ。
「お久しぶりです。東の山岳地帯から戻ってきました」
と声をかけると、兎人族の若者は、
「お久しぶりです。まだ名乗っていませんでしたね、ホドルと申します」
と言いながらこちら近づいてきた。武器は持っているが特に威圧も警戒もしていないようだ。
リーナが村のことを尋ねた。
「村に誰もいないようだけどどうしたの」
ホドルは聞かれることは分かっていたとばかりに、
「村ごと引っ越しました。誰にも知られていないところに村を作るのが私たちの掟ですから」
シェリルは済まなそうに言った。
「じゃあ私たちが入ったから村を捨てさせたのね」
そう言うとみんなははっとした顔でうなだれてしまった。ホドルは笑って、
「念のためです。捨てた村にも利用価値はありますから。お気になさらないでください」
そう言われて黙っているわけにもいかず、
「村のために使ってください。イグナシオ大陸の金貨です」
と、僕はイグナシオ大陸の金貨を10枚渡そうとした。すると、
「1枚だけいただきます。あなた方と会ったという証拠に。それから、神の門までお送りいたします」
ホドルはそう言うと歩き出した。僕たちが再び村を探さないようにするための行為だろうと想像できる。そういう掟があるなら仕方がない。神の門に早く行けるのでこちらからお願いしたいくらいだ。
西の山岳地帯は東の山岳地帯よりも入り組んだ構造になっているので案内してもらえるのはありがたかった。上っていく道中、東の山岳地帯であったことをホドルに話した。村の長老達はこの話を聞くためにホドルに村を見張らせていたのだろうから。途中には魔物もいた、火トカゲや灰色熊に出会ったが難なく撃退していく。
「凄いですね。もし、あなた達が奴隷商人だったら私たちは村ごと奴隷にされていましたね。リトルサラマンダーを倒したというのも嘘ではなかったのですね」
と引きつっていた。
アルトが心配そうに聞いた。
「神の門の祠は使えるのでしょうか。壁はバラバラに壊されていましたよね。閉めるときは石版は機能しましたが、あれからまた魔物にでも荒らされていたら使えないかも」
「でも結界が有るんじゃないですか」
とナナが言う。ホドルが、
「大丈夫です。壊れたのは火山の鳴動が原因で魔物のせいではありません。結界は生きているようです。祠も簡単にではありますが修復しました。石版には傷は全くありません」
そう説明する。この人達があの祠を守っているのか、そういう一族なのだろう、それなら掟とか厳しいものが有ってもおかしくないかなと考えた。
「この丘を越えると祠です」
とホドルが言う。シェリルとリーナが、
「やっと帰れるのね。帰ったら結婚式を挙げましょう。アドリアナも結婚したことだし、遠慮無く盛大に挙げましょ」
「そうよね。私たち7人の結婚式だものね。盛り上げないとね」
とはしゃいでいる。
「結婚式とかやるの」
と僕が聞くと、5人は声を揃えて、
「当たり前でしょ」
と睨んでくる。それから5人で衣装や式について話が盛り上がってしまった。
「ホドルさん、ごめんなさいね。彼女たち勝手に盛り上がって」
「いえいえ、帰り道が見えたことでホッとなさったのでしょう」
「送っていただいたお礼に、少しですがリトルサラマンダーの肉や鱗を貰ってください。それに、火トカゲや灰色熊の素材は祠においていきます」
「ありがとうございます。喜んで使わせていただきます」
と現金には興味なかったような感じだったけど素材なら貰ってくれるようだ。いろいろ有るのだろうな掟に。
祠に着いてもホドルさんは帰ろうとしない。どうやって神の門を開くのか興味津々のようだ。
「ホドルさん、神の門が開くのを見たことはありますか」
「いえ、サトシさん。少し開いていたところは見たことはありますが、開けるところは見たことが有りません。どうやって開けるのか見ていても良いですか」
「構いませんよ。じゃあ、リーナ、ナナ、アルト、お願い」
別に教えても構わないとは思うのだけれど、3人の属性は黙っていることにした。3人が魔力を流すと石版が光り神の門が開く。壁が壊れ神の門が直接見えるので、神の門が開くにつれてイグナシオ大陸の砂漠が見えてきた。
「ホドルさん、案内ありがとうございました。ここに置いていく素材は自由に使ってください」
「こんなにたくさん良いのですか。ありがたく使わせていただきます。神の門は閉めていただけるのですよね」
「はい、イグナシオ大陸の祠に行って閉めます。それでは帰ります」
そう言って僕たちは神の門を通りイグナシオ大陸へと戻った。
イグナシオ大陸へ戻り、神の門の祠に入った。リーナとナナとアルトは神の門を閉めている。僕は闇の袋から通信機を取り出した。
「ナウラ、聞こえる、僕だ。サマルカン大陸から今イグナシオ大陸に戻ってきた」
と元気に叫ぶ。すると、通信機から声が聞こえた。
「はい、よく聞こえます。侍女のイエリです。ナウラ様はいまギルドに行かれています。すぐにエミレーツさんを呼んで参ります、少々お待ちください」
ナウラはギルドで仕事しているんだ。当然そうだよな、声聞きたかったのに。などと考えていると侍女頭のエミレーツさんの声が聞こえてきた。
「お帰りなさいませ。と言ってもまだ砂漠なんですのよね。実はお知らせしなければならないことがあります。プエルモント教国でファジルカ大陸から魔物の侵攻が有ったようなのです。詳しいことはマディヤのオアシスに事態を詳細に説明できる人が派遣されているとのことです。その人に詳しく聞いて下さい」
「分かりました。マディヤのオアシスに着いたらまた連絡します」
「その頃にはナウラ様にここで待機していていただきます。皆様はご無事なんですよね」
「はい、みんな元気です。では、すぐにオアシスに向かいます」




