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異世界はバラ色に  作者: 里中 圭
第6章 三つの水晶編
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第4話 生贄

 ルグアイでは、ルナがトゥラスノ伯爵領に来ていた。ヴァンデルの北からトレーヴ山脈に入ったところにあるその地域は鉱山にも乏しく山の魔物を狩るくらいしか生計をたてるすべがないような地域だった。トゥラスノの城に入ったルナは伯爵と向き合っていた。

「チャハリ、水竜の宝石を貰おうか」

「何のことで」

「ふざけるな、宰相を殺害し水竜の宝石を奪ったのはお前だろう」

「ほう、教皇様は、私が奪ったのなら素直に出すと思われているのですか」

「出さぬのか、じゃあ死んでもらおう」

そう言って、ウォーターカッターを伯爵めがけて放つ。伯爵は右手を上げて袖でウォーターカッターを受ける。

「右手の袖がリトルフェンリルの皮か」

そう言ってルナは立ち上がった。伯爵は身を翻し逃げ出す。その瞬間にルナはウォーターストームを放つ。伯爵はうつ伏せに倒れる。上からルナが右脚で押さえる。その瞬間に壁が崩れ山賊たちが十数名出てきた。


 ルナは躊躇なく伯爵に止めを刺した。山賊たちの刃がルナの身体に殺到する。ルナを中心に爆発が起こる。ウォーターバーストだ。あっけなく山賊たちは倒れてしまった。

「ふん、リトルフェンリルの皮だけで安心しおってそれも袖だけで。策士のつもりかもしれないが所詮小物だったな」

ルナは水竜の宝石を奪い階下に下りていく。


 教皇騎士団の4人は城内の兵たちを一堂に集めていた。とても兵と呼べる装備ではなかった。山賊だった。

「サルト・チャハリ・トゥラスノ伯爵は死んだ。これより山賊どもは妾の配下に入れ。いやなら死ね」

そう言うと山賊どもは平伏した。


 ◇ ◇ ◇


 白一色の衣を纏った兎人族の娘が乗った輿を中心に冒険者たち一行はアルティカス山を目指して行く。冒険者ギルドの地図では町の門から山に入って半日くらい上ったところに生贄の台が設置されているそうだ。話を聞くと1月に1人の生贄を捧げるようだ。


「ひどい、生贄なんて野蛮なことを」

「でも、それも生きるための知恵なんだろうね」

「ちょっと、聞いてくる」

そう言ってセシリアはカウンターに行った。

「リトルサラマンダーを倒したらあの生贄はどうなるの」

「生贄はもう死んだことになっています、戻るところはありません。リトルサラマンダーが死ぬか、1週間生きていたら生贄の役目を終えます。死人扱いですから冒険者になるか奴隷になるしかありません」

「倒せばいいんですね」

「倒せればですけどね」

とギルド職員はあきれ顔だ。


 セシリアは戻ってきて言った。

「さあ、倒しに行きましょ」

シェリルも、

「どうせ洞窟に行くのだから倒さないと始まらないものね」

リーナも、

「じゃあ、追いかけましょう」

僕たちは生贄の行列を追いかけた。


 アルカティス山は西の火山帯よりも土の色が黒く岩も大きいように感じる。セシリアが、

「火トカゲもほとんどいません」

と言う。このあたりはまだ町に近いところだからかもしれないけど、不気味さが異様に漂う。行列の速度はだんだん速くなる。いくらBクラス以上の冒険者を集めたとはいえ恐いのだろう。ほとんど走る速度になっている。僕たちはナナの消気で気配を消し付いて行く。


 生贄は逃げられないように首輪を付けられて鎖で台座の留め具につながれた。冒険者たちは逃げるように帰って行く。1週間後に確認に来ることになっているはずだ。しばらくして、

「助けに行こう」

そう言って僕たちは台座の上に登る。生贄の女の子はビックリして僕たちを見ている。


 セシリアが、

「助けに来たよ」

という。

「でも、私が死ぬことでみんなの命が助かるなら」

「そんなことないよ。生贄なんて本当は意味ないんだよ。魔物相手だし約束されている訳じゃないからね」

「でも、私が逃げたら誰か代わりの者が生贄になります」

と俯き泣きながらつぶやく。リーナが、

「ここまで来たんだから大丈夫だよ。確かめに来るのは1週間後でしょ、その頃にはリトルサラマンダーはもういないから」

「どうして、リトルサラマンダーがいないって」

シェリルが、

「私たちが倒すからよ」

とにっこり微笑む。


 アルトが優しく、

「私たちは冒険者で『黒龍の牙』という名のパーティーです。私はアルト。そこにいるのがリーダーのサトシ様です。あなたのお名前は」

と言うと、

「ラフィーです」

と小さな声で言った。僕は声が出ない。だってとても可愛い、もうこの世のものとは思えないくらいに。美しく、可愛く、はかなげで、小さく震えて涙を溜めて。そう思っていると目の前を何かが上下する。セシリアの手だ、久しぶりだ。


 戦うんだから足手まといになるが放ってはおけない。敵はリトルサラマンダーだけとは限らない。レッドウルフも火トカゲもこの娘には脅威なのだ。

「一緒に行くよ。指示には従ってね」

と釘を刺す。首輪を外し、服を着替えさせる。白い衣からアルトのレンジャースーツに。もちろん僕はセシリアと一緒に警戒にあたらされ、着替えを見ることはできなかった。このあたりは縄張りだろうからリトルサラマンダーは1日に1回は現れる可能性が高い。ここでは戦い辛いのでもう少し上の方に上がることにした。


 坂道を上っていくと地響きが起こった。慌てて隠れナナが結界を張る。リトルサラマンダーが生贄の台座の横を通り過ぎる。生贄がいないからといって特に怒ったという感じはしなかった。それからまた上の方に向かって戻っていく。付いて行けば洞窟があるのだろう。


 もう少し上り、野営の準備をする。ラフィーはまだ何が起こっているのか分かっていないようだ。

「みなさんは、冒険者ですよね」

アルトがラフィーの相手をする。一番優しそうだものね。ナナが料理をしている、珍しいことにセシリアが手伝っている。と、目の前を何かが上下する。えっ、セシリアはあそこにいるのにと思って横を見るとシェリルだった。そして思いっきり笑われた。


「そうですよ。冒険者」

「クラスはどれくらいなんですか」

「クラスはこちらではGランク」

「えーっ、全くの初心者じゃないですか」

「こちらではね。でもイグナシオ大陸ではサトシ様はS,私たちはAランクです」

「イグナシオ大陸。そこからいらっしゃったのですか」

「はい、ここの洞窟に用があって来ました」

「そうなのですか、でもリトルサラマンダーには勝てないと思います。逃げてください、私のことはいいですから」

「実は1度倒したことがあるのリトルサラマンダーをね。心配しないで」

「・・・」

「それに、ラフィーがいなくても洞窟には行かなくてはならないの。あなたのことはついでだから恩も感じる必要は無いのよ」

「・・・」

「夕食ができたみたいね。食べましょ」

そうして、アルティカス山での1日目が終わった。


 2日目はまた山登りだ。坂をどんどん上っていく。ラフィーには加速をかけて僕たちのスピードに着いてこれるようにしている。治療魔法でセシリアが疲労も感じさせていないようだ。夕方前には洞窟のある広い場所に出た。リトルサラマンダーが坂を上ってくる。シェリルが素早くラフィーを山陰に隠し結界石を置く。そうして僕たちは戦闘隊形を取った。


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