第19話 公爵
僕とシェリルは教国に報告に行った。ロチャとオルモスに馬車を出してもらった。他のメンバーはサマルカン大陸に行くための準備をするために残るそうだ。雨の中を馬車が進む。ロチャとオルモスは御者台にいる。オルモスはかなり渋ったが、1時間ごとに御者を交代することにした。
「リーナたち、私に気を遣ってくれたのかしら」
「そうだろうな。でも、サマルカン大陸に行くのは決定事項なんだね」
「そうね、新婚旅行ってところね。その後はまたシャイアス大陸に行って、最後はファジルカ大陸に行く」
「それ全部新婚旅行」
「そうよ。ナウラには悪いけど。家ではナウラが中心だよ、そうみんなで決めたんだ」
「厳しい新婚旅行になりそうだね。リトルサラマンダーが相手だよ」
「そうね。できれば相手をせずに炎の水晶を見つけたいわね」
本気かどうかは分からない。
「それよりも炎の水晶がどこかの国の国宝にでもなっていたら大変だよ」
「そのときはそのときよ。戦って奪うか、リトルフェンリルの皮で買い取るか、借りるか。サトシのマインドボールで国王を操るかすればいいことになってるわ」
「簡単に王様には会えないよ、きっと」
「リトルサラマンダーを倒せば会ってくれるよ」
「みんなで、そんなことまで話しているんだ」
「家事はみんな侍女達がやってくれるから暇なんだよね」
「でも王宮でもそうだったんだろう」
「王宮では行事が一杯でけっこう忙しかったのよ」
そういう話をしながらいちゃいちゃして、3日かかってクラチエに着いた。ガルシアス王に王の執務室で会う。そこにはディオジーニ様もいた。ガルシアス王が、
「Sランクになったそうだな」
「はい、今日はシェリル王女との結婚のお許しをいただきに来ました」
「シェリル、本当に冒険者になるのか」
「はい、サトシと結婚して冒険者になります」
「冒険者になってもよいがサトシとの結婚を認めない、と言ったらどうする」
「じゃあ、冒険者になってサトシの愛妾になります」
ガルシアス王は笑っている。
「そうか、じゃあ結婚は認めよう」
僕とシェリルは声を揃えて、
「ありがとうございます」
と言った。
ディオジーニ様が言った。
「王様、叙任を」
「シェリル、トーレンズ地方を与える。今日からトーレンズ公爵だ」
「有り難くお受けいたします」
ディオジーニ様が説明する。
「トーレンズはわが国の西南に位置するところです。南は砂漠、西は岩の多い山岳地帯ですが、土地は肥沃で農業がさかんな地方です」
「今は誰が治めているのですか」
「アルバーノ側の3人の伯爵が治めていた。今は俺の直轄領だ。役人たちはほとんど残すが使えない奴は言ってくれ、クラチエに戻す」
「領内に伯爵領を1つか2つ作っていただくとありがたいのですが、よろしいですか」
「では、人選をお願いします。あまり領地には行けないと思いますので」
「そのあたりも含めて選んでおきます。でもときどきは領地の視察にも行っていただかないと」
「分かっています。引退したらそこに住むことになるでしょうからね」
そうか、ディオジーニ様は拠点を移してくれることを期待していたのか。
「屋敷は構えてもらうぞ。住まなくてもな」
「はい、分かっています」
ガルシアス王が、
「結婚式はどうするんだ」
と聞く、シェリルは答える。
「何も考えていないけど」
「サルバティ大聖堂で俺とアドリアナ王女の結婚式を挙げる。今、その準備がされている。大聖堂なら今からでも式を挙げるだけの準備はできているぞ。俺もお前の花嫁姿を見てみたいのだが」
「いやです。あそこはアルバーノ兄様を暗殺した場所なのですよ、無理です」
「そうだよな。済まなかった」
結婚式の話が一段落したところで、ディオジーニ様がトーレンズ地方を管理している役人を紹介してくれた。
「アルティカス子爵です」
「アルティカスと申します。27になります。現状をまとめておりますのでお読みください」
と言って分厚い本を渡してくる。
「分かったわ読んでおきます。しばらくはあなたに任せるからよろしくね。今度、領内に行ったときに詳しく説明してくださいね。ディオジーニ様、後見をお願いします」
「はい、もちろん」
そう言ってディオジーニはにっこり笑った。この笑いが曲者なのだが。
王宮を辞して馬車に乗る。今日はコルウェイ草原の高級旅館に泊まる予定だ。2人だけの夜もあと2日だ。部屋に入ってキスしようとするとノックの音が聞こえた。ロチャとオルモスが入ってきた。そういえばロチャとオルモスにクラチエでの情報収集を頼んでおいたのだ。
「サトシ様、報告があります」
「不審な動きが何かあった?」
「クラチエは平和そのものです。アドリアナ王女も歓迎されているみたいです。ただ、大したことではないかもしれませんが」
とロチャ、オルモスが続ける。
「西の山岳地帯を狩場にしている狩人がいるのですが、その中の何人かが帰ってこないそうです。今まではそんなことがなかったそうです。山賊が住み着いたか、強い魔物が入ってきた可能性が有るとの噂がありました」
「西の岩山には魔物はいないはずよ。いても洞窟の中の大コウモリくらいと聞いているわ、山賊かしら。噂になっているくらいだから役人の耳にも入っているわね」
「短い時間でよく調べたね。今日はしっかり休んでいいよ」
「はい、でもあんな良い部屋でいいんですか」
「この宿は良い部屋しかないよ。ゆっくり楽しんでね」
その夜はたっぷり楽しんで、次の日はタンガラーダに泊まり、マリリアに帰った。
家に帰りみんなに報告した。シェリルが言う。
「トーレンズ地方から税が入るわ。そのお金はトーレンズのために使いたいのだけど良いですか」
リーナが、
「もちろんそれが良いわ。でも私たちが働いた分は報酬として頂戴ね」
「分かってるわよ。ナウラ、経理とか分かる」
「もちろん分かります。ギルドで一般事務から経理、秘書、何でもこなしていますから」
「じゃあ、これを読んで欲しいの。分からないところには印を付けておいて。おかしいとこにもね」
「分かりました」
とナウラが言うと、シェリルが、
「敬語は使わないで」
「分かったわ。サマルカン大陸に遠征している間にじっくりと読んでおくわ」