第9話 踏襲
引っ越しを終え、馬が届き、通信機も手に入った。そろそろ本格的に活動を再開しようと思う。部屋は全て1人部屋となった。それぞれの居室にはダブルベッドのあるベッドルームと居間が付いている。僕が入ることになった部屋には天蓋付きの豪華なとても大きなベッドがあった。居間はマリリアの家のリビング並みだ。貴重品を入れる魔道具の金庫も付いている。魔力を流して閉めると同じ魔力を流さないと開かない仕組みだ。貴重品と言っても闇の袋だけなんだけど金庫があると便利そうだ。部屋を出ると廊下も広く豪華な装飾が施されている。
ロチャとオルモスは、侍従長の家に住んで貰うことにした。そこも広く豪華な家だった。王族の侍従長は当然のことながら貴族なのだ。だから貴族用の作りになっている。ロチャが、
「とてもあの家には住めません、広すぎます。維持するのも大変です」
すると、エミレーツさんが、
「管理は私たちの仕事です、自由に使って下さい。お食事もこちらで用意いたします」
「そんな・・」
ロチャとオルモスは黙ってしまった。僕が、
「ロチャとオルモスにはいろいろとやってもらうことがあるし、家を空けることも多くなると思うから、そうしてもらうといいよ」
と言った。僕だってこの待遇に慣れるまで相当な時間がかかるんだろうなと思う。
ロチャとオルモス、それにエミレーツさんを呼んで明日からのことを話す。
「とりあえず明日から遠征するので馬車の用意を頼むね」
「はい、分かりました」
とロチャ、やることが明確になり少しは落ち着いたようだ。エミレーツさんが、
「どのくらい家を空けられるんですか」
「タンガラーダ方面に1週間から長くても10日の予定です。残していく馬の世話は誰に頼めばいいですか」
「サトシ様、敬語は使わないで下さい。私たちは使用人なんですから」
年上の女性に敬語を使うなと言われても困るのだが。
「エミレーツさん、そういうのに慣れていませんので」
「呼び捨てにして下さい。こういうことはけじめを付けないと恥をかくことになります。サトシ様も私たちも。馬の世話は庭師にやって貰います。他に何かやることはありますか」
「いえ、特に思いつきません。そうだ、使用人の数は足りるの」
「今のところは十分です。多いくらいです。お食事は広間に用意いたしますか」
うなずくとエミレーツさんは出て行った。ロチャとオルモスも遠征の準備をするために出て行った。
その日はみんな自分の部屋で寝た。朝も誰も来なかった。これが自然なんだろうけど何か寂しい。家が広いとこういう毎日が続くのかな。2階には8つの居室がある。階段を上がると広い廊下があり、その突き当たりが僕の部屋だ。そして左に3室、右に4室ある。左には奥からセシリアとアルト、右にはリーナ、シェリル、ナナ、ナウラが入った。1つ余っている部屋は女性たちの衣装部屋になった。シェリルとリーナの服が教国から大量に運ばれてきたのだ。
朝食を食堂で食べて馬車に乗る。侍女達に見送られ出発した。まずはマリリアに行きギルドに行くナウラと別れ、スウェードルさんの店に行き装備を受け取る。全員分の新しい装備ができていたのだが、装備を受け取ったのは僕だけだった。みんなは少しずつ手直しを要求していた、主にデザインの部分を。
「今までに行ったところを一通り回ろう。まずはガビー村に行こう」
御者はオルモスに任せる。ロチャも御者台に座っている。セシリアとアルトの記憶から消えているガビー村のことを確認し、会うべき人と行くべき場所を決めた。
夕方、ガビー村に着いた。冒険者ギルドに入りバルナバーシュさんに挨拶する。
「こんにちは。バンガローをお願いします、1泊です。3人が泊まります。それと馬車を置ける宿を紹介して下さい」
「おうサトシか、また人数が増えたな。今回は何のようだ」
「隷属の首輪を外したんです。それでセシリアとアルトの記憶が消えたので今まで行ったところを廻っているんです」
「隷属の首輪って外れるのか。外すと記憶が消えるのか、やはりただでは外れないんだな」
「奥様にも2人を会わせたいんですけど良いですか」
「ああ、いま家にいるよ」
バンガローの鍵を受け取り、エリシュカさんに挨拶してバンガローに入る。バンガローには僕とセシリアとアルトが泊まる。他の5人は宿に泊まった。
次の日、ロチャとオルモスを残してトリニダの森に入る。ロチャたちはバンガローに泊まることにしたそうだ。通信機を渡し使い方を教える、明後日、ケンプ村まで迎えにきてもらうつもりだ。
まずは、ゴブリンの巣に行くことにした。途中で会うはぐれゴブリンを倒しながら進む。ゴブリンの巣を潰す前夜に野営した場所で昼食を食べ、ゴブリンの巣に向かう。ゴブリンの巣にはまたゴブリンの集団がいた。ただ、オークやゴブリンロードの姿はなかった。セシリアの索敵では、ゴブリンが20匹ぐらいいただけだった。巣の上にも2匹いる。
「あのときはバルナバーシュさんが前面から、僕とセシリアが巣の上に回って戦ったんだ。ナナ、バルナバーシュさんの役をお願い、合図をしたらゴブリンの集団に石つぶてを放って、セシリアと僕は巣の上のゴブリンを倒して合流するから。巣の中からゴブリンをおびき出そう、リーナ、巣の中にライトボールをお願い」
僕とセシリアが巣の上に回ったところで、リーナがライトボールを巣の中に放つ。ゴブリンたちが驚いて巣から出てくる。巣の上のゴブリンもそちらに移動しようとする。それをセシリアが倒す。僕はナナに合図をした。石つぶてが飛ぶ。石つぶてだけでゴブリンは全滅した。石つぶての威力にナナが一番驚いていた。
「まあ、こんな感じだったよ。もう少しは手応えがあったけどね。それから中に入ってゴブリンが溜め込んだ宝を確かめたんだ」
中に入り、左に進む。そこには骨が散乱していた。右に進むと広い空間があった。錆びたナイフなどはあったが大したものはなかった。
「ここにマジャルガオンの袋と風の弓があったんだよ。金貨や宝石もたくさんあった」
そう説明する。
ゴブリンの巣を出て東に進み川に出る。川から少し坂を上がったところに出た。
「ここだ。僕とセシリア、アルト、カーラが初めて会った場所だ」
そして、もう少し上りバラ色祭のときに行った場所を確認した。川まで戻り野営した。次の日はケンプ村でロチャたちと合流し、タンガラーダへ着いた。黒月日だったので屋台を回り『光の森の泉亭』に泊まった。例のリトルフェンリルの皮を使ったゲームの屋台は無かった。次の日は、タンガラーダから依頼を受けて行ったところを回った。もう1泊して、山賊に復讐した場所を通り、テラッセンに行く。コンラッド様に挨拶して、地竜、キングベアを倒したところを見て、マリリアに戻った。
マリリアに戻り、『蒼龍の書』をじっくり読むことにした。みんなは僕の部屋、ベッドルームではなく居室の方に集まった。ここなら『黒龍の牙』だけで話ができる。
ファジルカ大陸への神の門は教国の西、西の岩山の中にあると書いてある。そこまでの道順も載っている。ただ、神の門を開けるには3つの鍵が必要と書いてあった。




