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異世界はバラ色に  作者: 里中 圭
第5章 迷走編
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第8話 新しい拠点

 マリリアに到着したのは黒帝龍の60日、昼過ぎだった。馬車を冒険者ギルドに預けに行くと応接室に通された。レオネスさんから今日帰ってくることは伝わっていたらしい。

「シェリルも一緒に戻れたのだな」

「はい、でも教国から条件を出されました」

「それは?」

「情報の件と献上品の件です」

「献上品、それはどういうことだ」

「メルカーディアの王に何かを献上する場合は、教国の王に全く同じものを献上すること。ということです」

「非常に珍しいものは献上するなということだな。ディオジーニらしいな」

「そうらしいです」


「アラスティアからサトシたちが戻ったら、ただちに王宮に来させるようにとの連絡を受けている。なんでも教国から使者が来たそうだ」

「王宮には僕だけでいいのですか」

「全員とは聞いていない」

「サトシ、私も行く」

とリーナが言った。交渉係だもんね、相手はアラスティア様なので僕も心強い。他のみんなも一緒に行くと言うと思ったのになぜか誰も付いてくるとは言わなかった。


 王宮に着くと、アラスティア様の部屋に通された。レオネスさんもいた。レオネスさんはアラスティア様がしゃべる前に話し出した。

「サトシ、通信機の実験は大成功だ。魔石の方も計算では1年くらい持ちそうだ。年に1回は君に魔力を流してもらわないといけないがな」

「そうですか、1年に1回くらいなら何とかなると思います。そうだ、通信機を僕たちにも貰えますか」

「じゃあ、この試作機を冒険者向けに頑丈に改良して持ち運べるようにしよう。それくらいならすぐにできる。それから、この魔石に魔力を流してくれ。とりあえず大使館用に2セット作る」

「分かりました」

そう言って木の魔石に魔力を流す。その間、アラスティア様はじっと睨みつけるように僕を見ていた。魔力を流す作業が終わった。レオネスさんは木の魔石と試作機を持って部屋を出て行った。


 アラスティア様が口を開く。

「教国から使者が来た。ディオジーニからの早馬による使者だ。サトシたちが帰ってくる前に知らせたかったのだろうな」

「何と言ってきたんですか」

「条件のことだ。情報を冒険者ギルドから流すというのがまず問題だ。君らへの依頼もギルドを通すとなると秘密が保てなくなる」

「でも、教国内での活動はこれから増えてくるかもしれません。北へ行くのもルグアイよりは通り安いですし」

「仕方ないのかな。まあ、今までの分がアドバンテージになるから同じ情報でも価値が異なるかも知れんしな。献上品はいらないからこちらにも渡すなということだろうな。ディオジーニらしい選択だ」

「それで、1つ献上しなくてはならなくなりました。これです」

そういってリトルフェンリルの皮を出す。

「これは、リトルフェンリルか。まさか倒したのか」

「いえ、偶然に手に入れただけです。シャイアスの聖なる森で」

「これだけのものは2つとない。いや2つあったから献上するのか。価値は分かっているのだろうな」

リーナが割り込む。

「もちろんです。お願いもありますから」

「何だ、言ってみろ」

「家が欲しいです。馬や馬車が置けて、部屋数の多い家が。できればマリリアの近くで」

「すぐに検討させよう。王に謁見して献上してもらうぞ」

「はい、分かりました」


 アラスティア様は表情を引き締めて言った。

「シェリル王女との結婚の件なのだが」

あ、やはりもう伝わっているんだ。

「その件は半年の猶予をいただきました」

と言ってみたが・・・。

「アドリアナ王女とガルシアス王の結婚は知っているな。もし、王女と結婚するとなるとメルカーディアの王とも親戚関係になるな」

とアラスティア様は少し暗い声で言う。リーナが、

「それを言うならルグアイ王国の王妃は教国の第1王女ティレニア様。王族はみんな親戚関係です」

「それはそうだが、そうなっても俺はサトシに敬語は使わないからな」

そこっ、そこですか悩んでいたのは。

「師弟関係ですから、敬語なんてとんでもない」

「そうだな、じゃあ、謁見の間に行こう」

なんだか少しほっとした表情だ。何を考えているか分からない人だ。


 謁見の間で待っていると王が入ってきた。王も事情は聞いているようだ。隣には宰相のアスワン様もいる。アラスティア様が、

「冒険者サトシが国王陛下に献上の品を持って参りました」

とサトシからリトルフェンリルの皮を受け取り、国王の前に差し出す。侍女達がさっと広げ国王に見せる。

「見事な皮だ。献上の品ありがたく思う」

と国王が言い、宰相が、

「国王からのお返しとして、マリリア郊外にある国王別邸を下賜する。有り難く使うように」

「お心使いありがとうございます。謹んでお受けいたします」

と正しいのかどうか疑問だができるだけ丁寧にお礼を言って頭を下げる。

「大儀であった」

と国王が退出する。僕とリーナも謁見の間を出た。


 アラスティア様が、

「国王の別邸は、マリリアの西門をでて2kmくらい北に行ったところにある。北は近衛隊の演習場。西には近衛隊の社宅が並ぶ。屋敷を下りるとマリリア行きの巡回馬車が回っているところだ。国王の別邸周辺だけあって治安は抜群だ。これが譲渡証明書と鍵だ」

「ありがとうございます。明日にでも行ってみます」

「できれば、使用人を雇って欲しい。それも考えておいてくれ」

「はい、分かりました」


 家に帰るとリビングにはご馳走が並んでいた。ロチャとオルモスもいた、もちろんナウラも。

「サトシ様、誕生日おめでとうございます」

とアルトが言う。そうか、17歳になったんだ。日本での誕生日と違うのですっかり忘れていた。みんな口々に

「おめでとう」

と言ってくれた。そして、

「プレゼント」

と言って、リーナがキスしてくる。シェリル、ナウラ、ナナ、アルトも続く。さすがにロチャは動かない。そしてセシリアの番になった。

「お誕生日おめでとう」

と言って、キスしてくれた。みんなが拍手する。きっとこれがみんなの考えたプレゼントなのだろう。みんなのキスがプレゼントだったのか、セシリアにキスさせるのがプレゼントだったのか。まあ、どちらでも嬉しいのだが。

「ありがとう、みんな。これからもよろしく。じゃあ、乾杯」

そして夜遅くまで楽しんだ。


 次の朝はアルトがキスで起こしてくれた。今日は家を見に行く日だ。ナウラは仕事があるので行けないらしい。ロチャたちも一緒だ。ロチャとオルモスには馬や馬車の管理を頼むことにした。冒険の送迎も頼むことになる。


 マリリアを出て北に向かう。広い緩やかな上り坂を進むと左手には近衛隊の家族が住む社宅が広がっていた。右手に門がありそこを中に入る。200mくらい行くと立派な門構えが見えた。

「ここだね」

と言って鍵を出すと、門が開かれた。中に人がいたらしい。現れたのは50歳くらいのシャキッとした女性だった。

「この家の管理を任されていた侍女頭のエミレーツと申します。下賜をお受けになりおめでとうございます。さっそくお屋敷をご案内申し上げます」


 エミレーツさんは説明を始めた。

「このお屋敷は、王家が近衛隊の演習をご覧になるために作られたものです。ですから演習が見える位置に建っております。裏門を出ればすぐに参加することもできます。ただ、あまりにマリリアから近く、ここ数年は使われておりませんでした。お部屋は居室が8つ、客室が4つ、それに広間、食堂、応接室、会議室がございます」

相当の広さだな。管理するだけでも大変だ。説明は続く。

「本邸の周りに本邸に従事する侍女棟と侍従長の家があります」

なんと、そんなに広いのか。

「そして先ほどの門を出ますと、厩舎、使用人棟があります」

「ちょっと待って下さい、いったいどれくらいの広さなんですか」

「敷地は縦横300mの正方形になっております」

「ということは道を曲がったときにあった門から」

「そうです。何か問題がおありですか」

みんなビックリしている。シェリルとリーナはそうでも無いみたいだが。


 エミレーツさんは少し頭を下げて、

「お願いがございます。使用人をそのままお仕えさせていただけませんか」

「何人いるんですか」

「私を除いて侍女が9名、そのうち2人は料理が専門です。それに庭師が3名、侍従長と守衛などは軍属なので王宮に戻られるそうです」

「では、あなたを除いて12名ですね」

「庭師は夫婦者を使っておりますので6名と考えて下さい。いろいろと役に立つ女性たちですから」

15名になるのか。

「エミレーツさんもいてくれるんですよね」

「はい、よろしければ置いて下さい」

「じゃあ、屋敷の見取り図と管理費が分かるものを用意して下さい」


 みんなに相談すると、シェリルは、

「こんな広い家、私たちだけでは管理できないんだから雇うべきよ」

と言う。リーナが、

「でも、エミレーツさんはアラスティア様の息のかかった人かもしれないわよ。情報が筒抜けになるかも」

セシリアも、

「そうよね警戒はすべきかもね。でも、あらためて雇ったらもっと危ない人達になるかもよ」

「そうよリーナ、王家が雇っていた人達だから身元は確かなはずよ、そのまま雇うのが正解よ。それに貴族扱いなんだからそれなりの社会貢献はしないといけないのよ。人を雇うことも含めてね」

「でも、シェリル。領地もないんだよ」

とリーナが言うがシェリルは譲らない。

「冒険者なんだから、冒険で稼ぐべきよ。それで貴族扱いになったんだから」

他のみんなには自分たちのこととは考えにくいみたいだ。僕だってそうだ、でも何となく分かる気がする。

「そうか、そうだよね。貴族扱いされるってことはいろいろと便宜を受けるってことだから、それはみんなに返さないといけないってことか。例え領地が無くても」

とそのまま雇うことになった。基本的に衣食住を支給するのだから給金は安くても良いらしい。もちろん給金を下げるつもりはないけど。それに、馬も含めて敷地や家の維持費を合わせると相当な額になるだろうな。


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