FILE.02 日常崩壊の音色/人と夢魔の相互契約
ついに変身!
OP:[escape]/reset
―公園
お昼時…お子様と一緒に来る若奥様や、リストラされて台所のGすら逃げ出すほど暗いオーラを放つおっさんも居ない…そんな時間帯に俺はここの公園に来た。
そしてここの公園の中心にある噴水…そこが俺の最高の昼寝プレイスであり、特等席だ。
「ん~…良い日和だ。最ッ高のお昼寝日和だな」
そして気持ち良く昼寝としゃれこめ…
「おやおや~?そこに横たわっているは幼馴染のりっくんではないか~!」
なかったぞオイ。
この妙に腹立つ口調の馬鹿と言えば…
いや、無視だ!
ここはスルーしてそのまま心地良い夢へ…
「ふむふむ…良い感じに寝ているようですねぇ?
よしよし…然らばりっくんの色々な『はじめて』を頂ま…」
「寝起きクラッチ!!」
あ、危なかった!
本気で危なかった!!
色々マジで危なかった!!!
「…んで?何をしようとしたのかな?かな?
え?どうした?答えろよ…エリンギ…!」
「え、エリンギじゃなくて枝琳ですぜ旦那ァ…ちょ、首締まっ…極まってる!?極まっちゃってますぜ親方ァ!!」
「極めてんだよエリンギィィィ!!」
コイツは『枝琳・O・篠ノ華』。
日本とドイツのハーフな『ドイツ軍人の母』と、イタリアと日本のハーフな『イタリア軍人の父』を両親に持つ三ヶ国のクォーターで性格が兎に角残念…
所謂『残念美少女』というやつだ。
こいつは糸目で妙な第一印象を受けるため、こういう口調でその印象を和らげているらしい…が、性格と妙に合う為にこれが素の口調となったのだ。
そして事ある毎に俺を襲う厄介者。
「どうせ偶々散歩してたら俺を見つけて暇潰そうと思ったんだろ!え?」
「ふっふっふ…流石りっくん、私の嫁ぁぁたたたたたた!!緩めたコブラツイストに再び力込めんといて!」
「誰が嫁だエリンギ!調理すんぞコラ」
いつもの日常。
変わらぬ日々。
俺が怒って、エリンギが喚いて、円姉がぽやぽやして、百乃が惚けて…それが、俺の日常だった。
それが、崩壊したのも…『本当に突然だった』。
―ドクン…
「ッ…!」
「? どうしたエリン…ギ……?」
エリンギの声が突如途切れる。
いつものニヤけた糸目は前髪に隠れて見えない。
「………て…」
「枝琳…?」
「…にげ……て…りっ、くん…ッッ!!」
その瞬間と共に視界が『白』に染まる。
突然の白に思わず目を閉じ、再び目を開けると…
〈また会ったな。人間〉
あの夢の風景と、夢に出てきた骸骨面でフードの男だった。
「お前は…確かデッド・スカル、だったか」
〈そうだ。因みに貴様の事は一応記憶してある。
無草諒助だったな?〉
目の前で会話しているコイツは…何か変だった。
何というか…そう、【曖昧】なんだ。
存在が曖昧…と言った感じに。
〈どうやら同族が現れたようだな。ご丁寧に、我を狙う序にあの娘を夢喰らう様だ〉
「くらう…?まさか、枝琳を!?」
〈落ち着け…貴様が考えてるような事では無いが…
まぁ強ち間違いではないな〉
思わず身を乗り出し、【くらう】と聞こえた単語に最悪のシナリオが脳裏に過ぎる。
それを宥めるデッド・スカル。
「どういうことなんだ!答えろ!」
〈落ち着けと言っているだろう…!
…我ら【ドリーマー】の食事は【夢を喰らう】事にある。夢を喰われた人間は【虚夢】に陥る〉
デッド・スカル…長いな。略してデルでいいか。
デルが説明を続ける。
〈夢を喰われ、虚夢に陥った人間は文字通り【生ける屍】と同じ…貴様ら人間で言う、『植物状態』と似通った状態になる〉
「…ちょっと待て、じゃあ枝琳は…」
結局は再び最悪のシナリオが過ぎる。
〈…幸い、あの娘は未だ夢喰われていないようだ。捕り憑いているドリーマーを倒せば…助かるだろうな〉
「教えろ!その手段は…」
〈何故教えねばならない?捕食者が?食料に?
バカめ!!思い上がるなよ人間ッ!!我もドリーマー!それも残忍と恐れられた《死害の死骸骨》だッ!!」
「だったら俺は人間様だ糞野郎!!骨如きが粋がってんじゃねぇ!!」
互いに啖呵を切る。
次の瞬間には、デルが俺に骨で作られた斧剣をつきつけ、俺が自動式拳銃をデルの眉間につきつける。
〈…早くも夢世界の利用法を理解したか…〉
「夢が何時の時代も『何でも有り』なのは変わらねぇんだよ…」
デルはニヤリと嗤い、俺も同じ様に嗤った。
〈なかなか見上げたものだな…無草諒助、契約といこうか!〉
「契約…?」
〈そう、契約だ。我はドリーマーの中でも厄介者でな…何時だって我を狙う輩が多い。
しかし、貴様の様な守護者が居れば万事解決と言うわけだ〉
〈故に、力を貸せ。無草諒助!〉
「嫌だね」
〈クッククク…即答で拒否と来たか。理由と聞こうか?〉
「お前のせいで俺の周囲が狙われるんだろ?んなのゴメンだね!
だったら俺からも契約だ!
『言う事を聞け』!それが契約内容だ!」
その契約内容を聞いたデルは、少しキョトンとした空気から笑いだす。
〈クッックククク…ッハハハハハハハハハ!!!ここまで欲深い人間も久しいな!それも相互契約と来たか!〉
「欲張ってこその人間だろ?」
〈ああそうだとも!良いだろう!貴様は『襲い掛かるドリーマーを倒し』、我は貴様に力を貸し、『言う事を聞く』か!良かろうぞ!!〉
歓喜の喜びに震えるデルに、決意の笑みを浮かべる俺。
人と夢魔の、相互契約が…
〈良いだろう!〉
「ああ…!」
「〈契約だ!!〉」
今ここに結ばれた!!
白い光景が治まり、いつもの公園の風景と苦しむ枝琳の姿が視界に戻ってきた。
(絶対に、助けるからな)
《惚ケテイル場合カ!》
右手の方から声がする。
右手を見ると、中指に骸骨を模した銀の指輪があった。
「…お前か?」
《フン…他ニ誰ガイル?良イカ諒助、我ノ言葉ニ続ケ!》
突然だが、どうこう言ってる場合じゃないな。
《我、汝ト契約ヲ交ワス者》
―我、汝と契約を交わす者
《使途スルハ夢、纏イシハ骸》
―使途するは夢、纏いしは骸
《其ノ者ノ気高キ咆哮ハ誇リ、時トシテ剣ト成ラン》
―其の者の気高き咆哮は誇り、時として剣と成らん
《夢ヲ鎧ニ、コノ声ハ剣ニ…》
―夢を鎧に、この声は剣に…
―《魔ヲ斬り裂ク力を、コノ魂に!!》
「《夢幻、展開ッ!!》」
右腕が翠の炎に包まれる。
俺は、それがわかっていたかのように前へと殴る。
殴った空中に、白い円が現れ、円が見たことも無い模様を描いて、魔方陣のようなものになる。
そして、右腕先から体の左端まで黒と翠の軽装甲が纏わり付く。
実際装甲が在るのは肩と左腕、そして両脹脛だけだった。
胴体はノースリーブの黒いボディスーツ、腰には前が開いたスカート状の黒い長六角の外装。
噴水に映る自分の姿は、蛍火――蛍光色の薄い緑――のような長髪と肌。
黒だった両目は鮮血のような真紅に変化していた。
《良イカ諒助、貴様ハ今カラ夢想騎士、夢吼狼トナッタ!!》
『は?』
《詳シイ話ハ後ダ!!今ハ兎ニ角…殴ッテ蹴ル!ソレダケダ!》
デルがそう言った瞬間に、枝琳の背中から『何か』が這い出る。
それは人の形をしていたが、狼の顔をしていた。
《貴様カ、ロロガ…流石犬ダナ、良ク鼻ガ利ク》
〈テメェ…同族裏切って言う事それか!おまけに天敵の夢吼狼まで居るし…
だ・が…ここで殺しとけば後々同族も楽に食事できるから良いとすっか〉
狼の顔のドリーマー…ロロガだったか?
爪を伸ばして、姿勢を低くして臨戦態勢となる。
…ちょっと待て。俺ってば急所――心臓とか頭とか――剥き出しなんだが!!?
〈死ね!我等が天敵よ!!〉
飛び掛って来るロロガ…しかし、その攻撃は通らなかった。
何故ならば…
《何ダ?犬ノ癖シテ役立ツノハ鼻ダケカ?》
黒いスカート状の外装の一部から幾多の骨の腕が飛び出して、ロロガの爪を受け止めていたのだった!
『これは…』
《夢吼狼ノ鎧…『夢想鎧』ノ能力ダ。
変身者ノ体内ニ封ジ込メタ『ドリーマー』ノ能力ヲ自在ニ操リ、自ラノ武器トスルンダ》
『博識だな…色々助かるぜ』
《契約ハ絶対ダカラナ…死ナレテハ困ルノデナ》
戦闘中にも関わらず、他愛も無い会話をする俺たち。
互いに、それだけの余裕があったのだろう。
化け物と対峙し、それと戦う俺でさえ…
《諒助、コイツハ雑魚ダ。一息デ極メルゾ!》
『応!』
ロロガの腕を抑えたままの『骨の腕』の使用法を理解し、動かしてロロガと距離をとる。
ロロガに半身を向け、足を肩幅より少し広めに開き、左手を広げてロロガへ狙いを定め、右腕に驚くほどの力が篭り、緑の炎を纏う。
―ウェイク・アッパー…!
脳裏に浮かんだ言葉と共に、緑の炎を纏った右腕で、ロロガを思いっきり…
――轟ッ!!
殴るッッッ!!!!
ロロガの頬へと突き刺さり、振り切った俺の拳。
それを見届けると、倒れるロロガを背後に、俺は呟いた。
『Auf Wiedersehen…(あばよ。それこそ、永遠にな…)』
倒れ伏したロロガは石像のようになり、ガラガラと音を立てて黒い砂となった。
その後、俺は気を失っている枝琳を背負って、枝琳の家まで届けた。
(『…事後?』とマジ顔でおばさんに言われた時は焦ったな…)
そして道中。
デルがこんなことを言ってきた。
《諒助。今更ダガ、後戻リハ出来ンカラナ。
気ヲ抜クナヨ?》
「カッ!骨のアクセ如きが今更後悔か?俺は決めた事は守るのが『売り』でな。そこまで弱く薄い男じゃねぇ」
《…ソウダッタナ。ソウ言ウ男ダカラコソ、私ハ貴様ト契約ヲ結ンダ。ソウデナクテハ困ル》
そう言い合い、笑い合う俺達。
日常も良いが…こういうのも悪くねぇ。
「そういえば…お前の性別ってあんの?」
《ム?一応私ハ女ダガ?》
「は?」
《…解ラナイノモ無理ハ無イガ、ソノ反応ハ些カ失礼ダナ》
「…っはぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!?」
……ああ。
まぁ…悪くない、か?
―FILE.02 end...
次回
FILE.03
愉快痛快誘拐?/このポン骨は厄介事しか呼び込まない