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もう無理無理無理!隣国の狂犬将軍は今日も元気です

掲載日:2026/07/31

前書き


隣国には、とても有名な軍人がいる。


敵からは恐れられ、味方からは頭を抱えられる存在。


その名は、ヴィクトリア・ヴォルコヴァ。


彼女は、名門ヴォルコヴァ家の娘であり、隣国軍第三師団を率いる指揮官だ。


新しい武器は誰より先に自分で試す。

部下には朝と昼の二回、全力の檄を飛ばす。

気に入らないことがあれば大声で叫ぶ。


口癖は――


「もう無理無理無理!」


……なのに。


気づけば、誰より早く問題を片付けている。


気づけば、誰より仲間のことを考えている。


気づけば、部下たちは彼女の背中を追いかけている。


そんな彼女を支えるのは、冷静沈着な右腕、イヴァン・ドラゴフ。


無茶を形に変える天才と、無茶を実現可能にする天才。


正反対の二人が揃った時、どんな不可能も「できるかもしれない」に変わっていく。


これは、騒がしくて、豪快で、少しだけ不器用な指揮官と。


そんな彼女を誰より理解する仲間たちの物語。


……ちなみに今日も司令部には、彼女の声が響いている。


「はよせぇぇぇ!!」


「もう無理無理無理!!」

『もう無理無理無理』


隣国には、とんでもない女がいる。


その名は――ヴィクトリア・ヴォルコヴァ。


裏社会を牛耳る一族、ヴォルコヴァ家の一人娘。


父はかつて「笑顔で相手の心を折る男」と呼ばれた伝説の親分。


そんな家に生まれたヴィクトリアは、当然のようにその血を受け継ぎ――。


……受け継ぎすぎた。


現在。


彼女は隣国軍第三師団の指揮官。


敵からは「戦場の狂犬」。


味方からは――。


「めちゃくちゃな人」


そう呼ばれている。


朝六時。


軍事工房に怒声が響き渡る。


「もう無理無理無理!!」


職人たちが振り返る。


「指揮官、おはようございます。」


「おはようちゃうわ!!」


ヴィクトリアは完成前の試作武器を指差した。


「これ、あと三日かかるってどういうこと!?」


「新型武器ですから……。」


「三日後に戦争終わってたらどうすんねん!!」


「いや、そんな……。」


「はよせぇぇぇ!!」


工房全体が震える。


しかし、怒鳴っている本人は次の瞬間。


「貸して。」


「え?」


ヴィクトリアは工具を握った。


「初めて作る武器を、作ったことない奴に作らせるな。」


「指揮官……。」


「どこが難しいか、どこで手ぇ止まるか。私が知らんかったら、改善なんかできへん。」


そこから数時間。


誰より真剣に。


誰より泥臭く。


彼女は試作品を完成させた。


「よし。」


周囲から歓声が上がる。


だが。


「イヴァン。」


隣で静かに見ていた男がため息をつく。


イヴァン・ドラゴフ。


ヴィクトリアが唯一、絶対の信頼を置く右腕。


「何でしょう。」


「直して。」


「……やはり私ですか。」


「お前、こういうの使いやすくする天才やろ。」


イヴァンは武器を手に取り、細部を見る。


「ここを変えれば、兵士の負担が減ります。」


「ほら。」


「何がですか。」


「私の見る目。」


「自分で言いますか。」


イヴァンは呆れながらも笑った。


彼は天才だった。


ヴィクトリアが現場で生み出したものを。


誰でも使える形へ変える。


二人が組めば、どんな無茶でも形になった。



昼。


ヴィクトリアは兵士たちの前に立つ。


「お前らぁぁぁ!!」


全員が背筋を伸ばす。


「昼飯食ったからって魂まで休ませるな!!」


「手ぇ動かせぇぇ!!」


「敵は待ってくれへんぞ!!」


兵士たち。


「了解!!」


毎日恒例。


朝一番。


そして昼二時。


ヴィクトリアの檄が飛ぶ。


うるさい。


怖い。


でも。


誰より先に働いている。


だから誰も文句を言えない。



そんな彼女には、隣国に一人だけ気を許す友人がいる。


二人が会うと。


「聞いて!」


「何?」


「あいつほんま腹立つねん!」


「分かる!」


そこから始まる。


悪口大会。


一時間。


二時間。


全然、人の話を聞かない。


周囲は諦める。


「あの二人が話し始めたら終わりだ。」


しかし。


友人が言った。


「でも、あの人にも事情があったんじゃない?」


ヴィクトリアは一瞬黙る。


「……。」


「いや、それは違うわ。」


「え?」


「そこは私の考えが間違ってた。」


「切り替え早。」


「間違ってると思ったら直すやろ。」


さっきまで散々悪口を言っていた相手を、今度は庇い始める。


それがヴィクトリアだった。


感情的。


短気。


でも、筋だけは絶対に曲げない。



ある日。


隣国から重要な客人が訪れた。


「指揮官、ご挨拶だけお願いします。」


「分かった。」


その言葉を信じた部下は後悔した。


一時間後。


まだ話している。


「それでな、うちの兵士たちが本当に優秀で。」


「はい。」


「特に新人のあの子な。」


「はい。」


「最初は失敗ばっかりやったけど、今じゃ誰より頑張ってる。」


客人は笑う。


「本当に部下思いですね。」


ヴィクトリアは照れくさそうに鼻を鳴らす。


「当たり前やろ。」


「うちの子らやからな。」


少し離れた場所で聞いていた兵士たちは顔を見合わせた。


朝は怒鳴られる。


昼も怒鳴られる。


でも。


誰より自分たちを認めてくれる。



戦場の日。


敵軍は三倍。


誰もが絶望した。


「指揮官……。」


ヴィクトリアはため息をつく。


「もう無理無理無理。」


兵士たちは苦笑する。


「また始まった。」


しかし次の瞬間。


ヴィクトリアは剣を抜いた。


「でも。」


「無理って言った後に考えるのが、私やろ。」


イヴァンが隣に立つ。


「信頼している右腕、イヴァン・ドラゴフが言うとった。」


「人数で勝てないなら、相手に考える時間を与えるな。」


「行くで。」


「全員、私についてこい。」


圧倒的な不利を覆し。


勝利を掴んだ。



戦いの後。


ヴィクトリアは地面に座り込む。


「疲れた……。」


イヴァンが言う。


「無理ではなかったですね。」


「いや。」


「めちゃくちゃ無理やった。」


「ですが勝ちました。」


ヴィクトリアは笑った。


「根性。」



部下たちは今日も思う。


この人は、本当にめちゃくちゃだ。


怒鳴る。


騒ぐ。


いたずらする。


無茶を言う。


でも。


誰より先に動く。


誰より仲間を信じる。


だから。


ついて行きたくなる。


今日も司令部に響く。


「もう無理無理無理!!」


その声を聞いて、兵士たちは笑う。


「ああ。」


「今日もヴィクトリア・ヴォルコヴァは元気だ。」


それだけで、皆は少し安心するのだった。

後書き


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


今回のお話の主人公、ヴィクトリア・ヴォルコヴァは、とにかく勢いだけで突っ走るような指揮官です。


「もう無理無理無理!」


と叫びながら、結局誰より先に動く。


「はよせぇぇぇ!」


と部下を急かしながら、自分が一番無茶をする。


そんな、周りから見れば「本当にこの人について行って大丈夫なのか?」と思われるような人物です。


でも、ヴィクトリアが慕われる理由は、決して強さだけではありません。


自分が分からないことは自分で経験する。


初めて扱う武器なら、まず自分で作って試す。


部下に無理を言うなら、自分も同じ場所に立つ。


そして何より、誰よりも仲間を信じている。


普段は口が悪くて、騒がしくて、いたずら好き。


隣国の友人とは何時間も悪口を言い合う。


でも、自分が間違っていると思えば、誰より早く認める。


そんな不器用な真っ直ぐさが、彼女の一番の魅力なのだと思います。


そして、そんなヴィクトリアを支えるイヴァン・ドラゴフ。


暴走する天才と、それを現実に変える天才。


二人が揃って初めて完成する関係性も、今回描きたかった部分です。


完璧な人間ではないからこそ、人は誰かを必要とする。


無茶苦茶だからこそ、周りが支えたくなる。


そんな「愛される指揮官」の物語として楽しんでいただけたら嬉しいです。


……ちなみに、ヴィクトリアは今日もきっと叫んでいます。


「もう無理無理無理!」


その数時間後には、全部終わらせていることでしょう。


最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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