2話「世界は。」
「あなたに質問があります。アーカイブさん。ここはどこですか?」
「?忘れちゃったの?ここは、私と君の——」
自分はアーカイブの声を遮る。
「どこにある、部屋なのですか」
アーカイブは悩んだ。
「……もう、単純じゃない…か……ここはね、研究施設だった場所の部屋なんだよ」
自分は聞いた。
「だった。もう違うのですか」
アーカイブは聞いた。
「……核爆弾ってわかるかな?」
自分は答えた。
「核爆弾。核分裂や核融合の力を利用し、都市を一瞬で壊滅させるほどの爆発を起こす兵器。強烈な熱や衝撃波だけでなく、放射——」
アーカイブは自分の声を遮った。
「わかってるならいいよ。まぁその核が、全部壊しちゃったんだ」
メモリー更新。
……保存完了。
「では、なぜここが残っているのでしょうか」
自分は聞いた。
「それはね……外に出てみれば全部わかるかな」
アーカイブは言った。
メモリー更新。
……保存完了。
「では、外に出なくてはならないのでしょうか」
自分は聞いた。
「いや。まずは機械みたいなその思考回路を直さないと……遠くにあるんだけど、取ってこれるかな?」
アーカイブは答えた。
「わかりました。どこにあるのでしょう」
自分は聞いた。
「私がいる所。つまり、管理室だよ。ここにある部屋は4つしかないし、簡単だと思うな」
アーカイブは答えた。
自分はベッドから降りた。
自分は扉を開けた。
一つ一つ部屋のプレートを読んだ。
………見つけた。
自分は扉を開けた。
目の前には大きなデータバンクがあった。
「これをどうすればいいのでしょうか」
自分は聞いた。
「その横にある箱、開けてくれる?…そう。中にあるやつを取り出して?……そう。じゃあ、その「コピー機」についてるコード、「思考回路」って場所に刺してくれる?」
自分は、コードを、「思考回路」に刺した。
「……………………よし。終わり。じゃあ、それ、最初の部屋に持ってきてくれる?」
アーカイブは言った。
自分は、これ、を最初の部屋に持っていった。
〈システム停止〉
〈システム起動〉
生体分析開始。
呼吸器……正常。
心臓……異常あり。
脳機能……正常。
視覚機能……異常あり。
痛覚……異常あり。
思考回路……正常。
【拡張モジュール】
記憶写本モジュール……正常。
模擬流暢モジュール……正常。
意識を再構築します。
「——起きて」
暗闇の中に、ノイズが走った。
〈視覚機能 強制起動〉
自分の呼吸器を稼働させる。
私はゆっくりと体を起こす。
……どこ。…ここ…
「大丈夫?」
どこからともなく声が聞こえる。
「こ……ここはどこなんですか?」
私がそう聞くと、声は満足そうに言った。
「いいね……ここでできることは全部できたかな……データ送るね」
研究施設。
核汚染。
外に出る。
「……私は、どうすれば…」
「……君の名前を教えてくれる?」
私は、自分の中にあるメモリーを覗いた。
……メアリー。
「私の名前は、メアリー……です。あなた…は」
「私は……アーカイブだよ。君を助ける……君のための、「君のアーカイブ」だよ。」
「私の、アーカイブ?……では、アーカイブさん……私はこれからどうしたら……」
「まずは、外に出てみよっか」
私は彼女に聞く。
「でも、核で……」
放射線だらけのはず……
「それについては心配しないで。生命維持に必要なのは全部機械だし、なんなら呼吸しなくても大丈夫。…でも、怪我はしないでね。だって、腸とか、腎臓とか、そう言うのは機械じゃないから。まぁ、なくても生きられるけどね」
私の体は……機械。
「私……何も覚えてなくて…」
「それは当然でしょ?君は、知識がある赤ちゃんと同じ。生まれたばっかりだからね」
「私は…一体…何者なので——」
アーカイブは私の言葉を遮る。
「考えても仕方ないでしょ?早く外に言ってみよう」
……多分何回聞いても同じ答えが返ってくるんでしょう。
「……わかり…ました」
私はベッドから降りる。
「わっ…」
私は少しつんのめった。
足元にあったのは……手の中に収まる程の、小さな何かだった。
よく見ると、「コピー機」と書いてある。
何か大切な物のような気がして、私はそれを服のポケットに入れた。
「えっと…これからどうすれば……」
私がそう言うと、アーカイブはアームを使って扉を開けた。
「さぁ、外に出てみよっか。そうすれば、全部わかるから」
扉を潜り抜けると、他の三つの扉が目に入った。
「どれが……外の…」
「前じゃないよ。後ろ見てみて」
後ろを振り返ると……
——他の扉とは全く違う、厳重な扉があった。
「これが……外への扉……」
直接見たことはないけど……青空とか、葉っぱとか、そう言う物がある……の?……それとも、核で全部…消えてしまったの?
「手を翳して」
扉のちょうど真ん中に、手の形をした模様がある。
「こ…こう?」
私は、模様に手をピッタリくっつける。
手の大きさも、形も、丁度ピッタリ。
……気味が悪いくらい。
扉が……音もなく、少しずつ開いて行く。
「———!」
目の前に広がったのは……一面の砂浜。
でも……驚いたのはそっちじゃない。
「天……井?」
空はない。そこにあるのは、足がすくむほど高い場所にある、ただの板。
上から、灰のような物が落ちてくる。
「——これっ…砂じゃ——」
砂浜だと思っていたのは、全部灰。
「どう?わかりやすいでしょう?」
開いたままの扉から声が漏れている。
「ここは1階。1番下だよ。……4階で核爆発が起きたの。……私…いや、「私達」の目的は、5階……「エデン」にたどり着くこと。この星で、唯一核の影響を受けてない場所。…楽園だよ」
……理解が追いつかない。
天井?エデン?…「私達?」…もう…
「わかん…ない…よ……」
私は膝から崩れ落ちる。
「——?エラーでも起きたの?直してあげようか?」
扉から、アームが伸びてくる。
「——いや…」
私は、アームから後ずさる。
「やめ……て」
……怖い。
「模擬流暢モジュールが故障したのかな?大丈夫。直してあげるからね」
その優しそうな声に、何にも感情が篭ってないのを、……私はやっと知った。
「やだ…」
私は立ち上がって、走り始める。
「あっ!!」
私は、音もなく倒れ込む。
……私…走ったことない…
髪と服に灰が張り付く。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
それでも、私は何度も倒れながら歩き続ける。
「——また死んじゃうね。あの子も」
遠くからそんな声が聞こえる。
ガンッ
「うっ——」
また転んだ。
……でも、それは私のせいじゃない。
「はっ?なん…で…」
目の前に、誰かの頭が転がっている。
……違う。
私だ。
悲痛に満ちた表情の、
私の頭。
「わっ、私がっ、しん、死んでっ、死んで」
沢山私がいるの?
夢。
これはタチの悪い夢。
私は自分の頬をつねる。
ほら。
痛くない。
これは夢。
「えぐっ…ひぐっ」
帰りたい。
…私にだって、温かい家と、家族があるんだよね?
脳が検索を始める。
家。家族。温かいご飯の匂い。
———〈該当するメモリーは存在しません。 〉
「そうだって言ってよぉ…」
………いっそこのまま寝よっかな?
苦しまないで。
何も考えずに。
「それも……いいかもね…」
私は灰の上に横になる。
……ふかふかなのかはわからない…けど。
………きっと寝心地がいいはず。
このまま灰を被って、埋もれてよう。…ずっと。
ゴォォォォォ……
……?何?……この音。
目も、柔らかいのも、痛いのも、よくわからないけど……
……音だけは、…はっきり聞こえる。
私は周囲を見渡す。
「……なに…あれ…」
右側から、凄い砂嵐が襲ってきてる。
もう少しで巻き込まれる。
————死ぬ。
「やだ……死にたく……」
……怖い。……死にたくない!
気づいた時には、私は駆け出していた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
一歩歩くたびに足を取られる。
———!あそこに空き家が!
「あそこ……まで……」
後ろから聞こえてくる音はどんどん大きくなってる。
「———っ!」
私は振り返る。
灰の壁。
もうすぐそばに来てる。
私は必死に足を動かす。
〈脚部、過負荷〉
足が沈む。
ドサッ
「もう…目の…前…なのに…!」
足が動かない。
でも———
私は灰を掴んで、無理矢理体を引っ張る。
「うぅ……ぅ…」
バタン!!
私は扉を閉めた。
バァンッ!!
灰嵐が家を飲み込む。
壁が軋む。
私は暗い部屋の中で震えながら、自分の頭を抱え込む。
「生き…て……る………」
———おかしいよね。……さっきまで死んじゃえばいいって…思ってたのに。
疲労が、私の瞼を落とす。
「寝た……ら……」
死んじゃうかもしれない。
また、みんなみたいになっちゃうかもしれない。
ゴォォォォォ……!
「………」
でも、……私は流れに身を任せるようにして、意識を手放した。




