会談はランチの後で…
【登場人物】
・山鳥代表…政党のリーダー。マイペースな好々爺。
・井澤幹事長…資金や人事の管理を担当。理知的で独特な間を置いて話す。
・髙橋政調会長…政策立案や法案審査を担当。ズレた視点で物事を評価する。
・笠井総務会長…最終的な党の意思決定を担当。上品な口調で物騒な事を言う。
・杉尾選対委員長…選挙の候補者選びを担当。斬新な立候補者を模索している。
・谷之内秘書…山鳥代表の秘書。真面目な話題を振るが…。
・阿野ウェイター…淡々と料理を運んでくる。
都内の高級洋食店にて、身なりの良い壮年の公人たちが煌びやかな部屋でクロスのひかれたテーブルを囲うように座っていた。
「こうやって揃うのは~いつぶりだろうね~」
一番奥の上座に座るブラウンのスーツを身にまとう老齢の公人・"山鳥代表"が白髭をいじりながら言った。
「代表、この面子が、揃うのは、もう、一年ぶり、に、なります。」
山鳥代表の左側、黒いスーツに空色のネクタイを身に着けた"井澤幹事長"が姿勢良く座りながら返した。
「前々回は中華、前回は和食。そして今回は洋食か。次回は宇宙食かな?」
山鳥代表の右側に座るグレーのスーツを身にまとった"髙橋政調会長"が部屋を見渡している。
「それは良い考えですわねぇ。それでは次回は、某国の宇宙関連の機関を脅して、宇宙ステーションを貸し切りましょう。」
髙橋政調会長の隣に座る白いレディーススーツを着た"笠井総務会長"が上品な口調で応えた。
「今度の選挙はYouTuberを立候補させようかなー。」
井澤幹事長の隣に座る"杉尾選対委員長"が虚空を見つめて呟く。
公人たちが雑談をする中、銀色の台車を押しながらウェイターが入室してくる。
「お待たせいたしました。お料理をお持ちしました。」
紫色のスカーフを首に巻いた"阿野ウェイター"が公人たちの目の前に料理を置いていく。赤色のトマトソースが絡みついたナポリタンが公人たちの前で湯気を上げる。
「うわ~ナポリタンだ~先週はカルボナーラだったから~丁度良かった~」
ナポリタンを間近で見つめる山鳥代表。
「昨日見た刑事ドラマにこういう赤いのが出てきたな。」
ナポリタンの赤色に魅了される髙橋政調会長。
「トマト農家を立候補させようかなー。」
虚空を見つめている杉尾選対委員長。
目の前の料理に浮き立ち、五者五様のリアクションを見せる公人たち。
「では皆様、ごゆっくりご堪能ください。」
阿野ウェイターは、銀色の台車を押しながら部屋を後にした。
「では、皆様、いただくと、しましょう。」
「「「「いただきまーす!」」」」
井澤幹事長の一声で、公人たちが一斉にスプーンとフォークに手を付ける。
「ん~美味しいね~美味しいね~」
「この、トマト、非常に、酸味が、効いており、ともて、クエン酸を、感じます。」
「ああ、白いスーツが…五十万飛んで五百円のシルクのスーツに赤い点が…」
束の間の昼餐で、料理に舌鼓を打つ公人たち。
「うわ~この光景、一昨日観た医療ドラマにあったな。」
スプーンとフォークで真っ赤なナポリタンの中央を開く髙橋政調会長。
「やっぱり医者を立候補させたほうがいいかなー。」
黙々とナポリタンを口に運んでいく公人たち。やがて五枚の平皿は空になる。
「あれ~谷之内くん~まだ~食べてたの~」
「あ…味わって食べていました…。」
ドアの近くに座るスーツ姿の若い女性、山鳥代表の秘書・"谷之内秘書"の皿にはまだ三分の一ほどナポリタンが残っていた。
「あ~そ~谷之内くんは~グルメかい~?」
「…ええ。私、食べるのは好きです…。」
笑顔でナポリタンを喫食する谷之内秘書。
「お待たせしました。二品目をお持ちしました。」
ここで阿野ウェイターが再び台車を押して入室してくる。
「お~今度は~何かな~」
「二品目は、オムライスになります。」
「ご飯もので、ありますね、先ほどは、麺類でしたので、丁度、良いです。」
卵が黄色く光るオムライスがナポリタンの皿の代わりに公人たちの目の前に置かれていく。
「あ…あと一口が…。」
谷之内秘書のナポリタンはあと一口を残して無情にも回収されていった。
「さてと、では切開していきましょうか。」
「「「「いただきまーす。」」」」
髙橋政調会長の一声で、公人たちが一斉にスプーンに手を付ける。
「あ~丸い卵生地が~可愛いね~」
「よし、まずは中央を切開し…なんだバターライスじゃん…。」
「どうしようかなー。誰を立候補させようかなー。もう人じゃなくてもいいかなー。この卵の中に骨のある人いないかなー。」
オムライスの生地が公人たちによって次々と切り開かれていく。その中のライスだけが公人たちの口に運ばれる。
「………(モグモグ)」
公人たちの昼餐の様子を呆然とした顔で喫食しながら眺める谷之内秘書。
「あ~ところで~みんな~少し~話したいことが~あってね~」
声のトーンを落とし、真っ直ぐ前を見据える山鳥代表。谷之内秘書がすかさず空気の変化を感じる。
「代表、今回は、どんな、お話で、しょうか?」
井澤幹事長もスプーンを止め、山鳥代表の顔を見る。
「一旦、中断。」
髙橋政調会長は、スプーンを置き、額を拭う。
公人たちの表情が次々と真剣なものに変わっていく。谷之内秘書も食事を口に運ぶ手が自然と止まる。そして真剣な表情で話に聞き入る。
「この~先の~話~なんだがね~」
山鳥代表の目、井澤幹事長ら公人たちの表情…谷之内秘書も秘書として、支える存在として、これから静かに飛び交う主張と駆け引きに心を傾ける。
「この先~…どんな~料理が~運ばれてくると~思う~?」
―ガタンッ!
山鳥代表に傾けていた体がそのまま倒れてしまう谷之内秘書。
「そうですね、麺、米と、続きましたので、今度は、魚ですと、嬉しいですね。」
「僕は赤いものならなんでも。」
「そうですねぇ、もっと煌びやかな見た目のお料理がいいですわねぇ。」
「立候補させられるものならなんでも。」
公人たちがこの先の料理を見据える中、ゆっくりと起き上がる谷之内秘書。
「谷之内くん~君は~この先~どんな料理が~運ばれてくると思う~?」
「…代表…皆様…もっと…もっと見据えるべき先があるのではないでしょうか?」
乱れた髪を整えながら問いかける谷之内秘書。
「もっと見据えるべき先~?」
「ええ。もっと見据えるべきところが。」
「ああ、そういう、ことですね。」
谷之内秘書の言葉に反応する井澤幹事長。
「幹事長…」
「もっと、見据えるべき、先、本日の、夕飯、ですね。」
「あっ…」
椅子から転げ落ちる谷之内秘書。
「夕飯ならもう決まっていますわ。北海道の新鮮な海産物と腕利きの料理人を呼び寄せて、至高の海鮮料理を堪能する予定です。電話一本で漁場と板前を黙らせましたわ。」
「サブスクで刑事ドラマか医療ドラマを見ながら、赤いものでも食べようとかと。あ、宇宙SF見て黄色いものでもいいな。宇宙人の血液が黄色かったりするんです。」
椅子を直し、髪を整え、座りなおす谷之内秘書。
「どうだね~? 谷之内くん~我が~『七転八党』略して『転党』の幹部陣の夕飯は~?」
「うーん、とても凄いですね!」
ヤケクソ気味に返す谷之内秘書。そこへ阿野ウェイターが三品目を乗せた台車を押して入室してきた。
「お待たせしました。三品目は…」
「「「「おー?」」」」
公人たちが料理を覆う銀色のドームに注目する。
「『山盛りポテトサラダ』になります。」
「「「「サラダかー!」」」」
声を合わせて歓喜する公人たち。
「何やってんだコイツら…」
公人たちを軽蔑した目で見つめる谷之内秘書。
阿野ウェイターによって半球体のようにギッシリと皿に盛られたポテトサラダが置かれていく。
「あのう…すみません。」
去り際の阿野ウェイターに声を掛ける谷之内秘書。
「どうされましたか?」
「ここのコース料理って、どんな基準で出す料理決めてますか?」
「シェフの匙加減でございます。」
「シェフの方は、結構食いしん坊な方ですか?」
「ベジタリアンです。」
「その割に炭水化物しかなくないですか?」
ナポリタン、オムライス、ポテトサラダ…一日分の摂取量を今この場で超えていきそうな勢いだ。
「そうですね…シェフも恋しいんでしょうかね?」
「なんですかそれ…?」
「ごゆっくりどうぞ。」
スタスタと去っていく阿野ウェイター。
「綺麗な半円、鮮やかな白色…全てが美しいですわねぇ。それでは皆様、この美しさのままにいただきましょう。」
「「「「いただきまーす。」」」」
笠井総務会長の一声で、公人たちが早々にスプーンを握る。
「むふぅ~ん~ぬふふ~」
山鳥代表が口一杯に頬張っていく。白髭が踊っているようにも見える。
「なんだかこの料理からはなんのイメージも湧かないな。」
髙橋政調会長が寂しげに咀嚼している。
「ジャガイモ農家…いいや、マヨネーズ工場の工場長を立候補させようかなー。」
杉尾選対委員長が無表情でポテトサラダを見つめる。
「きゅうりが、入って、いますね。にんじんも入っていますね。ベーコンも、入って、いますね。そして、余計な、ものは、入れない。非常に、完璧です。」
井澤幹事長もこのポテトサラダには絶賛の模様。
「…皆様!」
谷之内秘書が声をあげる。公人たちが一斉に谷之内秘書に注目する。
「お食事に水を差すようで申し訳ありませんが、最近のクモリカ合衆国と我が国との関係についてはどういうお考えをお持ちですか?」
谷之内秘書の問いかけに、しばしの沈黙が流れる。
「クモリカね~昔から~我が国とは~良くやって~きたね~。ただ~最近~なんだか~雲行きが~怪しいね~」
沈黙を破った山鳥代表が遠くを見つめている。
「私も、そう、思います。クモリカ合衆国の、カルタ大統領と、直接、対談を、行う、べきかと。」
井澤幹事長が山鳥代表を見つめる。
「その通りだね~カルタ大統領が~就任した時に~一回~対談~したけれど~あれから~随分と経ったね~」
「代表! 今後の日曇関係のために、対談の申し入れをしましょう!」
谷之内秘書が身を乗り出す。
「そうだね~準備も~早急に~進めないとね~何の話題から~入ろうか~前回は~オフホワイトハウスで~晩餐会で~ステーキを~切り分けながら~貿易の~話をして~ガーリックソースを~かけながら~関税の話をして~その後~ステーキの肉が~ステーキの肉が~何の肉だったけ~?」
「代表、ラム肉で、あります。」
「そうだ~羊だ~それで~あの味が~忘れ~られなくて~次の~対談も~ラム肉の~ステーキを~要望しようか~」
「良い、お考えだと、思います。」
「はぁ!?」
山鳥代表と井澤幹事長の脱力し過ぎな脱線に度肝を抜かれる谷之内秘書。
「よ~し~クモリカ合衆国に~ステーキディナーで~トークをしようと~通達しよう~。」
「代表、お受けできません…。」
そこへ阿野ウェイターが台車を押してやってくる。
「皆様、ステーキをお持ちしました。」
「「「「おー!」」」」
沸き立つ公人たち。
「『おー!』じゃないっ…」
歯ぎしりが止まらない谷之内秘書。
鉄板で油を鳴らすステーキに公人たちの表情が高揚する。
「では、肉牛でも立候補させていきましょうか。」
「「「「いただきまーす!」」」」
杉尾選対委員長の一声で、公人たちが一斉にナイフをステーキに入れていく。
「もはや人ですらなくなりましたね…立候補者。」
ステーキに手をつける気にもならない谷之内秘書。
「あ~溢れるね~油が~」
「これは、レア、ですね。肉汁が、肉の中に、溜まっており、噛んだ瞬間に、溢れ、出します。」
「に…肉に刃物を入れてしまった…刑事ドラマの犯人の回想シーンを思い出す。」
「この熱された鉄板、交渉の道具に使えそうですわねぇ。どこに押し付けましょう。」
「これは間違いなく当選させられる。」
旨味のエキスが溢れ出し、これまでにないくらいに舌鼓をリズミカルに打つ公人たち。
「皆さん!」
谷之内秘書が立ち上がって声を上げる。公人たちは肉汁あふれるステーキをリス食いしながら谷之内秘書に注目する。
「国民から、税金の引き下げに関する要望が強まっていますが、こちらについて何か対策案はお考えですか? 国民の生活をより良くする案は何かございますかね?」
不気味な視線を公人に浴びせながら問いかける谷之内秘書。
「そ~だ~ね~…どの~税を~引き下げようか~」
谷之内秘書の静かな気迫に気圧される山鳥代表。
「今の、歳入の、状況を、鑑みれば、現状維持が、望ましいかと。」
山鳥代表に視線を向けられた井澤幹事長もステーキを切る手が止まる。
「何を言いますか、引き下げるどころか引き上げるべきですわ。引き上げた分は国会の周囲をバラの花で埋め尽くすことに使いましょう。全国のバラ園をサボテンの針で脅してもいいですわよ?」
谷之内秘書の気迫に対抗するかのように、笠井総務会長のバイオレンスなお嬢様節が炸裂する。
「サブスクに税をかけるのだけはやめてくださいね。」
髙橋政調会長は相変わらず淡々としている。
「え~それで~引き下げるのか~引き上げるのかも~かなり~悩むね~これは~」
「ここは、現状維持で、問題、ないかと。」
「酸素に税をかければ鼠算式どころではないほどに歳入が増えますわ。」
「サブカルの税はすべて撤廃を。」
公人たちの議論が紛糾する。その様子を無表情で見渡す谷之内秘書。
「誰を立候補させようかなー何を立候補させようかなー斬新な立候補者いないかなー囚人を立候補させようかなー反社を立候補させようかなーもう全員AIでもいいかなー。国を回せる人…回すのが上手そうなピザ職人がいいかなー。」
「あ~ピザ~食べたいね~」
「この、レストラン、ピザも、用意、されています。」
「え~ほんとに~!?」
「トッピングは華々しいのでしょうかねぇ?」
「赤いソースは必須で。」
公人たちがピザ談義に浮き立ち始める。
―ダーン!
重い打撃音が響く、公人たちが固まって谷之内秘書に注目する。
「アンタら! それでもこの国の舵を取る人間か!?」
山鳥代表ら公人たちは困惑している。杉尾選対委員長は一人ぶつぶつ候補者案を唱えている。
「何がピザがどーのこーのだ、目の前の快楽に浸りやがって、なんのためにこんだけの偉いヤツが集まってると思ってんだ、アァ!?」
「谷之内さん、少々、言葉遣いを、考えて…」
「黙れ! 刻み野郎!」
「は、あ、い?」
機械音声のような反応をする井澤幹事長。
「クモリカとの外交関係、なんとも思ってねぇのかよ! あんだけカルタの手の平で振り回されやがってよぉ! ナポリタンの上でフォークばっか回しやがって!」
目を見開いて井澤幹事長に詰め寄る谷之内秘書。
「その目、完全に洋画のアサシンの目してるね。」
「あぁ? なんだこのエンタメサブカル廃人がよぉ?」
「廃人? え? 廃人?」
動揺して首をあちこちに動かす髙橋政調会長。
「税について、国民様が声を上げてる税の問題について、どう思ってんのかって考えたことねぇのかよぉ? 引き下げる気はねぇのか? オムライスの生地みてぇに引き裂くぞ?」
じりじりと詰め寄り髙橋政調会長を見下ろす谷之内秘書。
「あなたね! さっきからなんなの!? それが目上の人間に対する態度ですの!? 汚い口を利いて! 代表! この愚か者に即座に実力行使を…」
「ああ!? なんだこの似非マダム!」
「なんですのそれ!」
笠井総務会長にガンを飛ばす谷之内秘書。
「お前らよぉ! 次のディッシュよりよぉ! 次世代のフューチャーを予想しろってんだ!」
「お待たせしました。デザートお持ちしました。」
またしても銀の台車を押してきた阿野ウェイター。
「待て待て待て待て待て待て…」
阿野ウェイターを制す谷之内秘書。
「ちょっと今取り込み中だから後にしてもらえる?」
「えーでも、『アイスクリーム乗せジャンボパフェ』だから今すぐ食べて頂かないと、ドロドロになっちゃいますよ?」
「本当になんちゅう思考で決めてんだよこの店のコースは!」
「は?」
「ナポリタン、オムライス、ポテトサラダ山盛り、ステーキ。なんだこの炭水化物のバカ騒ぎは。そして極めつけは『アイスクリーム乗せジャンボパフェ』。高級料理店とは思えないほど料理偏差値低そうだな。」
「シェフに言ってくださいよ。」
「そんじゃベジタリアンのシェフに言っとけ、『肉も食え』ってな。」
谷之内秘書の言動に呆気にとられる阿野ウェイター。
「立候補…立候補…立候補…」
今の状況に見向きもせず、呪文のように呟き続けている杉尾選対委員長。
「なんだコイツ、気色悪ぃ…」
杉尾選対委員長に蔑んだ目を向ける谷之内秘書。
「もう炎上系のネット活動者でも立候補させようかな…ハイエナでも立候補させようかな…あ、最近流行ったタピオカを立候補させるべきか…」
「なんで人でも動物でもなくなりついには食品が議員になるんだよ…」
「この飽食の時代に相応しい立候補者…あーッ! 山鳥代表!」
立ち上がり、血走った目で山鳥代表を見る杉尾選対委員長。
「な~なんだい~? 杉尾くん~?」
少し仰け反る山鳥代表。
「誰を立候補させるべきか、何を立候補させるべきか…投票を行いましょう…!」
静まり返る室内。
「もう誰も信用できね。」
滅茶苦茶な公人たちを尻目に谷之内秘書は天を仰いだ。




