猫のいる駅
田舎町から始まるショートショートです
私は、毎日特急に揺られて、二時間掛けて都市部の仕事場へ向かう。
この時期の車窓は稲刈りが終わって、田んぼには刈り残された稲株が規則正しく並び残像を残す。永遠に続くかのごとく主張する──時折かまぼこ型のビニールハウスから柔らかそうな緑色がその景色に彩りを添える。
私はこの変わらない日常を三十年も続けてきた、人口減少のせいか特急の乗客も数える程になってきたので、座席にゆったり座って、はじめの一時間は好きな読書が毎日の日課になっていた。
特急の座席は縦並びの二人掛けになっていて、通路を挟んで右前には必ず私より若い"いつもの男"が座る。
私はその男が実は、人間ではないことを知っている。
男の正体は駅に住みついている老猫で、その化け猫が人間の姿に化けて私が降りる駅まで通っているのであった。
私がそれに気づいてから、かれこれ十年が過ぎていた。
私はもう、関心は失せている。今では化け猫でも、猫人間でも私は読書から目は離さないし、化け猫男に興味もなかった。
その男も、もう自分が化けている事すら気にはしないのか、雨の日は前足で顔を洗う仕草が時折出ても止めない、知らない人が見ると、只の癖だろうと思うに違いない。一度それを目撃した女性が怪訝そうにそれを見つめていたこともあった。
「にゃ~」などと喋ったこともあった…そういうことも思い出した。
かくいう、当の私自身も、
自分が化け猫であった事をずいぶん前に忘れてしまった──のだけれど……
私が居なくなれば、誰も私の前に座る男が化け猫であることを知るものはいなくなる。
おわり
【あとがき】
出だしからは、落ちは考えていませんでした、
途中から猫にしようと考えてから、落ちが決まっていきました。




