第8話 「制御不能――獣人剣士が暴走する理由」
お読みいただきありがとうございます。
第8話は、
新ヒロイン・獣人剣士の本格登場回です。
主人公が“戦う”のではなく、
“制御する側”に回るバトルを意識して書いています。
楽しんでいただければ嬉しいです。
嫌な予感は、だいたい当たる。
街の外れ。
廃れた採掘場跡で起きている異変――
それが、俺の次の鑑定対象だった。
「……血の匂い」
現場に近づいた途端、リリスが眉をひそめる。
崩れた岩壁。
散乱する武器。
そして、倒れ伏す冒険者たち。
――生きている。
だが、全員が気絶している。
「やりすぎだな」
加減を知らない。
それが、俺の第一印象だった。
奥から、金属音が響く。
重い。
だが、迷いのない足音。
姿を現したのは――
昨日、ギルドで見かけた獣人の少女だった。
フードは脱げ、
狼の耳と尻尾が、はっきりと見える。
筋肉のついたしなやかな身体。
手には、血の付いた大剣。
「……まだ、立てるのか」
低く、唸るような声。
瞳は赤く染まり、
理性の光が、ほとんどない。
――暴走状態。
「下がって」
リリスが、一歩前に出る。
だが、俺は腕で制した。
「いや。今は、俺が行く」
剣は抜かない。
代わりに、目を開く。
――鑑定。
【鑑定結果】
対象:獣人剣士
状態:強制覚醒/制御喪失
原因:自己強化系スキルの過剰起動
備考:本来の制御権限が存在しない
「……なるほど」
力が強すぎるんじゃない。
最初から、止める仕組みがない。
だから、暴走する。
彼女が、地面を蹴った。
一瞬で距離が詰まる。
「――っ!」
衝撃で、地面が砕ける。
回避しながら、叫ぶ。
「聞こえるか!」
「その力、
お前の本来のものじゃない!」
答えはない。
ただ、剣が振り下ろされる。
――間に合わない。
その瞬間。
緑の光が、割り込んだ。
リリスの結界だ。
「アイン!」
「分かってる!」
俺は、選択肢を探す。
【修正権限】
対象:自己強化系スキル
処理案:制御仮設
注意:外部管理者が必要
外部管理者。
つまり――俺だ。
覚悟を決める。
「……リリス」
「少しだけ、支えてくれ」
「分かった」
次の瞬間。
世界が、軋んだ。
獣人の身体を覆っていた赤い魔力が、
一斉に停止する。
動きが、止まる。
膝をつき、
大剣が地面に落ちた。
荒い呼吸。
赤い瞳が、ゆっくりと戻っていく。
「……あ?」
困惑した声。
彼女は、自分の手を見つめ、
そして俺を見た。
「……何を、した」
「止めただけだ」
正確には、
“戻した”。
完全じゃない。
だが、今はそれでいい。
【通知】
制御仮設:成立
対象:獣人剣士
状態:暴走解除(仮)
彼女は、しばらく黙っていた。
やがて、苦笑する。
「……久しぶりだな」
「頭が、静かなのは」
そして、俺を見て言った。
「なあ、鑑定士」
「その力……」
「私にも、効くんだな」
その問いに、俺は頷いた。
「効く」
「ただし、条件がある」
彼女は、興味深そうに耳を動かす。
「聞こう」
「俺の指示に従うこと」
即答はなかった。
だが――
彼女は、ゆっくりと立ち上がり、
剣を鞘に収める。
「……悪くない」
そう言って、名乗った。
「フェンだ」
「制御できない力で困ってる」
「しばらく、付き合え」
それは、依頼じゃない。
勧誘だった。
隣で、リリスが小さく呟く。
「……強い人、仲間になりそう」
「だな」
また一人。
世界の“ズレ”を抱えた存在が、
俺の前に立った。
鑑定士の仕事は、
どうやら――
どんどん増えていくらしい。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
獣人剣士フェンが登場しました。
強いけれど、制御できない――
典型的な“問題児枠”です。
今回のポイントは
・力が強すぎるのではなく
・止める仕組みがなかった
という部分。
次話では、
フェンを正式に鑑定し、
彼女の力の“本来の形”が見えてきます。
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