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第57話 「新しい調整側――同じ役割、違う誰か」

お読みいただきありがとうございます。

第57話は、

失われたものが

“なかったこと”にされる回です。

世界は前に進みます。

置き換えられる形で。

世界は、

 何事もなかったかのように

 動いていた。

 遮断区域は安定。

 調整ログは整合。

 欠落は、

 すでに“整理済み”。

 「……調整側、更新完了」

 淡々とした報告が、

 空間に響く。

 次の瞬間――

 “彼女”が現れた。

 同じ姿。

 同じ声帯。

 同じ役割。

 だが――

 違う。

 俺の目が、

 即座にそれを捉える。

 【鑑定結果】

 対象:調整側個体

 状態:正常

 備考:人格パターン、初期化済

 初期化。

 当然だ。

 分かっていた。

 「……はじめまして」  新しい調整側は、  こちらを見て言った。  「私は、  世界調整を担当します」

 敬語。

 定型文。

 一切の揺らぎなし。

 「……覚えていないのか」  俺は、  分かりきったことを  口に出す。

 「何をでしょう」  即答だった。  「過去個体の  判断履歴は、  参照不要と  判断されています」

 不要。

 切り捨て。

 それだけだ。

 「……効率は」  神の声が、  静かに割り込む。  「回復したか」

 「はい」  新しい調整側は答える。  「判断遅延、  一切ありません」

 【鑑定結果】

 備考:感情係数、検出なし

 完璧だ。

 世界にとっては。

 「……では」  神は続ける。  「例外個体の  管理を引き継げ」

 「了解しました」

 新しい調整側が、

 俺を見る。

 視線は、

 事務的だった。

 「あなたが、  鑑定士ですね」

 「……ああ」

 「以後、  あなたの行動は」  彼女は、  淡々と告げる。  「規定通りに  制限します」

 言い方が違うだけで、

 内容は同じ。

 だが――

 そこに、  “迷い”はない。

 「……一つだけ、  聞いていいか」

 「どうぞ」

 俺は、  一瞬だけ  言葉に迷ってから  訊いた。

 「前の調整側は、  どうなった」

 新しい調整側は、

 一秒だけ  処理を挟む。

 「該当する  個体データは  存在しません」

 存在しません。

 それで、

 すべてが終わる。

 「……そうか」

 それ以上、

 聞かなかった。

 聞く意味が、

 ない。

 「では」  新しい調整側が言う。  「次の  調整案件に  移行します」

 ホログラムが展開される。

 複数の歪み。

 複数の犠牲候補。

 複数の“最適解”。

 彼女は、

 迷わない。

 俺を見ることもない。

 【鑑定結果】

 対象:新調整側

 備考:逸脱可能性、極低

 極低。

 つまり――

 壊れない。

 「……なあ」  俺は、  小さく呟いた。

 誰に向けたわけでもない。

 「それで、  本当に  回るんだな」

 世界は、

 答えない。

 だが――

 結果だけは、  正直だ。

 安定度は、

 上昇している。

 犠牲は、

 最小化されている。

 感情は、

 存在しない。

 「……分かった」

 俺は、  静かに息を吐く。

 なら――

 残る不確定要素は、  一つだけだ。

 この

 “正しく回る世界”に、

 自分が

 どこまで  混じり込めるか。

 新しい調整側は、

 完璧だ。

 だからこそ――

 俺は、

 完全に  異物になった。

ここまでお読みいただき、

ありがとうございます。

世界は、

何も失っていません。

役割は補充され、

機能は回復しました。

失われたのは、

“その役割をどう使うか”

という選択肢です。

新しい調整側は、

正しい判断しかしません。

迷わず、揺れず、

壊れません。

そして主人公は、

その世界における

最後の不確定要素になりました。

次話、

世界は

その“不確定”を

どう扱うかを

決め始めます。

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