第56話 「再構成――彼女は“正しく”消される」
お読みいただきありがとうございます。
第56話は、
誰かが罰せられる回ではありません。
ただ、
“仕様通りに処理される”回です。
その違いを
感じていただければ幸いです。
宣告は、
静かだった。
音も、
光も、
余分な演出もない。
「調整側個体」
神の声が、
空間に広がる。
「ログ欠損の原因は 特定された」
彼女は、
何も言わない。
否定もしない。
抗弁もしない。
それ自体が、
十分な回答だった。
「判断遅延」 「虚偽報告」 「結果としての 世界整合性低下」
神は、
淡々と並べる。
罪状ではない。
ただの、
事実列挙。
「よって」 神は続ける。 「調整側個体を 再構成する」
再構成。
それは、
破壊ではない。
作り直しだ。
【鑑定結果】
対象:調整側個体
状態:再構成処理 対象
備考:人格保持、未定
……未定。
「……待て」
声が、
出た。
俺のだった。
場が、
わずかに 静まる。
「彼女は」 俺は、 言葉を探す。 「世界を 守ろうとした」
「それは 評価に値しない」 神は、 即座に返す。 「世界は、 守られている」
完璧な論理。
否定できない。
「……なら」 俺は、 続けた。 「俺が、 原因だ」
彼女が、
初めて こちらを見る。
ほんの一瞬。
「鑑定士」 神は言う。 「お前は 例外だが、 今回の件において 主体ではない」
主体。
責任。
「再構成は、 個体を 保存するための 最適処理だ」
保存。
その言葉に、
彼女が 小さく笑った。
「……そうね」 「壊すより、 作り直す方が 綺麗」
彼女は、
一歩前に出る。
誰にも
触れられないのに。
「ねえ」 彼女は、 俺を見る。 「覚えておいて」
「私は、 失敗したんじゃない」
「……何だ」
「選んだの」
その言葉が、
胸に落ちる。
「それだけで、 再構成されるなら」 彼女は、 肩をすくめた。 「案外、 安いものよ」
光が、
彼女を包む。
分解でも、
破砕でもない。
“再配置”。
情報が、
整え直される。
人格が、
数式に 引き戻されていく。
【処理進行】
記憶:分離
判断傾向:初期化
感情係数:削除対象
……感情。
それだけが、
削られる。
「……やめろ」
俺の声は、
届かない。
届く必要が、
ない。
「処理完了」
神の声が、
空間を満たす。
そこには――
もう、 彼女はいなかった。
残ったのは、
調整側個体。
同じ形。
同じ役割。
だが――
同じ“誰か”ではない。
【鑑定結果更新】
調整側個体
状態:正常
備考:過去ログ、整理済
整理済。
それが、
すべてだった。
世界は、
再び 安定した。
正しく。
完璧に。
そして――
俺だけが、 覚えている。
彼女が
“そこにいた”ことを。
ここまでお読みいただき、
ありがとうございます。
再構成は、
死ではありません。
ですが、
“同じ存在”が 戻ってくることは 二度とありません。
世界は、
正しさを取り戻しました。
その代わりに、
一つの“選択”が 消えました。
次話、
主人公は
はっきりと理解します。
世界は、
選ばない存在を
許さない。
そして――
自分もまた、
同じ処理の対象になり得ることを。




