第6話 「鑑定依頼――名指しで呼ばれたのは俺だった」
お読みいただきありがとうございます。
第6話は、
追放された鑑定士が“正式に必要とされる”回です。
派手なざまぁではありませんが、
状況が確実に逆転していく段階として描いています。
楽しんでいただければ嬉しいです。
街に戻ってから、一日が経った。
ギルドの空気は、さらに張り詰めている。
掲示板の前には人だかりができ、
依頼書は次々と貼り替えられては消えていく。
「……追いついてない」
リリスが、ぽつりと言った。
「討伐が、間に合っていない」
それもそのはずだ。
魔物は強すぎる。
正確には――本来のランクと、現実が噛み合っていない。
鑑定が、ズレている以上、
戦力配分も、作戦も、すべて狂う。
「そりゃ、こうなるよな」
独り言のように呟いた、その時だった。
「――アイン?」
背後から、控えめな声がかかる。
振り返ると、
そこに立っていたのはギルド職員の女性だった。
見覚えがある。
俺がまだ《紅蓮の牙》にいた頃、
何度か受付をしてくれた人だ。
「久しぶりですね……本当に」
戸惑いと、安堵が入り混じった表情。
「少し……お時間、いただけますか?」
周囲の視線が、こちらに集まる。
嫌な予感がして、
俺は小さく頷いた。
奥の応接室に通されると、
職員は一度深呼吸してから、言った。
「単刀直入に言います」
「鑑定依頼です」
その言葉に、リリスが小さく目を見開いた。
「……俺に?」
「はい。アインさん、あなたに」
はっきりと、名指しだった。
「現在、複数の鑑定士に依頼しましたが……
正直、どれも信用できません」
「鑑定結果と現場が、まったく合わないんです」
――当然だ。
世界の誤作動を、
“数値”だけで測れるわけがない。
「それで……」
職員は、少し言いづらそうに続ける。
「あなたが以前、
“この街の鑑定はズレている”
と言っていたことを思い出しまして」
覚えていたのか。
俺は、少しだけ驚いた。
「あの時は、聞き流されましたけど……
今なら、意味が分かります」
そう言って、彼女は頭を下げた。
「お願いです」
「もう一度、鑑定をしてもらえませんか」
応接室の外が、静まり返っている。
きっと、聞き耳を立てているのだろう。
鑑定士が不足している今、
誰に依頼が行くのかは――死活問題だ。
俺は、すぐには答えなかった。
代わりに、問い返す。
「……条件は?」
職員は、即答した。
「正式依頼扱いです。
報酬も、通常の三倍」
なるほど。
“追放した鑑定士”でも、
背に腹は代えられない、というわけか。
俺は、隣を見る。
リリスは、何も言わず、
ただ静かに頷いた。
――決めた。
「受けます」
その瞬間、
職員の表情が、はっきりと緩んだ。
「本当ですか……!」
「ただし」
俺は、一つだけ付け加える。
「俺の鑑定結果には、口出ししないでください」
「理由を説明できないこともあります」
それでも、
信じる覚悟があるなら――という条件だ。
職員は、迷わず頷いた。
「構いません」
「今は……それしかありませんから」
応接室を出ると、
周囲の視線が一斉に集まった。
驚き。
疑念。
そして、微かな期待。
その中に――
《紅蓮の牙》のメンバーも、いた。
彼らは、言葉を失った顔で、
俺を見ている。
だが、もう遅い。
鑑定士は、足りていない。
そして――
代わりは、いなかった。
俺は、ギルドの出口へ向かいながら思う。
次の鑑定は、
ただの確認じゃない。
世界の“ズレ”を、
誰の目にも見える形で示すことになる。
そしてそれは――
否定されてきた俺の鑑定が、
否定できなくなる瞬間でもあった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
ついに主人公に、
名指しでの鑑定依頼が入りました。
・鑑定士不足
・世界の誤作動
・代わりがいない現実
それらが重なり、
主人公の価値がはっきりと表に出始めます。
次話では、
主人公の鑑定結果が
ギルドと冒険者たちを凍りつかせます。
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