第55話 「空白――調整ログに残った痕」
お読みいただきありがとうございます。
第55話は、
世界が探していたものに
“形”が与えられる回です。
それは証拠ではありません。
ですが、
見逃せない欠落です。
異常は、
ついに
“見える形”になった。
「……ログに、 空白があります」
ルークの声が、
いつもより低い。
「空白?」 アリアが、 即座に身を乗り出す。
「はい」 ルークは、 端末を示す。 「調整系ログ、 第七階層」 「特定時間帯の 記録が―― 存在しません」
存在しない。
欠損でも、 破損でもない。
「……記録されていない?」 フェンが、 眉をひそめる。
「いえ」 ルークは、 首を振った。 「“消された形跡”です」
室内が、
静まり返る。
俺は、
すぐに 目を使った。
【鑑定結果】
対象:世界調整ログ
状態:部分欠落
備考:人為的操作、強疑義
……出たか。
世界が、 最も嫌うやつだ。
「……世界は?」 セリアが、 声を落とす。
「すでに 検知しています」 ルークが答える。 「ただ、 “誰が”ではなく、 “どこで”を 特定中です」
俺は、 女を見る。
彼女は、
無言だった。
だが――
“平常”ではない。
【鑑定結果】
対象:調整側個体
状態:表面安定
備考:内部負荷、上昇
上昇。
「……見つかったな」 俺が言うと、 女は 小さく息を吐いた。
「ええ」 「想定より 少し早い」
少し。
それだけで、 十分すぎる。
「修復は」 アリアが、 慎重に問う。
「できません」 ルークが、 即答する。 「世界は、 “欠落を欠落として” 保持しています」
つまり――
証拠として。
「……どうなる」 フェンが、 低く言う。
俺は、
正直に答えた。
「次は、 “原因に繋がる動線”を 洗う」
「誰が、 そこに アクセスできたか」
「……調整側しか、 無理じゃないか」 フェンが、 歯を噛みしめる。
女は、
何も言わない。
だが――
否定もしない。
【警告】
再照合フェーズ:次段階移行
世界は、 もう “探す対象”を 絞っている。
「……ねえ」 女が、 ようやく口を開く。 「覚悟は、 してる?」
「何の」
「“嘘をついた”ことより」 女は、 静かに言う。 「“嘘が必要だった” 理由まで 問われるわ」
それは――
彼女一人の 問題じゃない。
俺も、 含まれている。
世界は、 静かに 穴を見つめている。
そこに、 何が 入るはずだったのかを。
そして――
誰が、 それを 消したのかを。
ここまでお読みいただき、
ありがとうございます。
世界は、
欠落を“エラー”として扱いません。
“記録すべきだったもの”として
扱います。
それは、
意図を問うということです。
次話、
世界は
調整側そのものに
踏み込み始めます。
彼女が
切られるのか。
それとも――
例外が
前に出るのか。
選択の猶予は、
ほとんど残っていません。




