第54話 「検知――世界は、嘘を数えない」
お読みいただきありがとうございます。
第54話は、
世界が“異常”ではなく
“差分”を見つける回です。
嘘は、
それ自体では問題になりません。
合っていないことが、
問題になります。
異変は、
警告では始まらなかった。
数値だった。
「……鑑定士」 ルークが、 端末を見つめたまま言う。 「世界安定指数に、 微差が出ています」
「どのくらいだ」 フェンが問う。
「……誤差以下です」 「ですが」 ルークは、 一度言葉を切る。 「昨日の報告と、 完全に一致しません」
一致しない。
それだけで、
十分だった。
俺は、 何も言わず 目を使う。
【鑑定結果】
対象:世界状態ログ
状態:整合性低下(微)
備考:原因未特定
未特定。
それは、 世界が “探し始めた” という意味だ。
「……来るな」 俺は、 小さく呟く。
「何がだ」 フェンが、 視線を向ける。
「確認だ」 俺は答える。 「罰じゃない」
その瞬間――
空気が、 一段、 静かになる。
騒音が消えたわけじゃない。
だが――
“意味”が薄れる。
「……これ」 リリスが、 息を呑む。 「世界が、 観測強度を 上げています」
観測。
神ではない。
裁定でもない。
ただの、 “照合”。
「……対象は」 アリアが、 声を落とす。
「まだだ」 俺は、 首を振る。 「でも――」
言葉を選ぶ。
「“結果”じゃない」 「“過程”を 見始めてる」
世界は、 誰が何をしたかを 見ない。
何が起きたかと、 どう辻褄が 合っているかだけを見る。
だから――
嘘は、 “結果が合っている限り” 許容される。
逆に言えば。
合わなくなった瞬間、
すべてが 対象になる。
【鑑定結果更新】
補足:
調整系ログ再照合、開始
……まずい。
女が、 無言で こちらを見る。
ほんの一瞬。
だが、 十分すぎる。
「……気づかれた?」 俺が、 低く問う。
「いいえ」 女は答える。 「“気づこうとしている”」
その差は、
絶望的だ。
「時間は」 俺は問う。
「分からない」 女は、 正直に言う。 「数分か、 数時間か」
「でも」 続ける。 「“嘘をついた側”は、 必ず 浮き上がる」
浮き上がる。
責任を なすりつける 必要すらない。
世界が、 自動で 抽出する。
「……俺か」 俺は、 呟く。
「違う」 女は、 即答した。 「あなたは、 嘘をついてない」
「私は?」
女は、 答えなかった。
その沈黙が、 答えだった。
【警告】
観測強度:上昇
対象抽出率:未確定
世界は、 怒らない。
急がない。
ただ――
必ず、 見つける。
誰かが、 “余計なこと”を した場所を。
俺は、 ゆっくりと 息を吐いた。
「……もう、 戻れないな」
女は、 小さく笑った。
「最初からよ」
世界は、 静かに 照合を続けていた。
まるで――
答えが出ることを
疑っていないかのように。
ここまでお読みいただき、
ありがとうございます。
世界は、
嘘を裁きません。
感情も問いません。
ただ、
「合っているかどうか」だけを
確認します。
そして一度でも
合わなければ、
原因は必ず
特定されます。
次話、
世界は
“誰がズラしたか”ではなく、
“どこでズレたか”に
辿り着きます。
それが――
誰の破滅に繋がるのかは、
まだ分かりません。




