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第53話 「虚偽報告――世界に届かない真実」

お読みいただきありがとうございます。

第53話は、

これまで一度も許されていなかった行為が

初めて行われる回です。

隠蔽でも、反逆でもありません。

ただの“虚偽”です。

ですがそれは、

世界にとって

最も危険なものです。

世界は、

 何事もなかったかのように

 回っていた。

 修正は行われ、

 帳尻は合い、

 数値は平坦だ。

 ――表向きは。

 「……報告を上げる」

 女が、

 淡々と言った。

 いつも通りの声。

 いつも通りの手順。

 「内容は?」  俺が訊く。

 「調整完了」  「判断遅延、なし」  「例外個体、影響軽微」

 完璧な文章だった。

 あまりにも。

 「……それ」  俺は、  言葉を選ぶ。  「事実じゃない」

 女は、

 一瞬だけ

 動きを止めた。

 「事実よ」  そう言って、  こちらを見ない。  「“提出される世界”では」

 【鑑定結果】

 対象:報告データ

 状態:整合性確保

 備考:一部情報、未反映

 ……消したな。

 「……初めてだろ」  俺は、  低く言う。  「世界に  嘘をつくの」

 女は、  ゆっくりと息を吐いた。

 「ええ」  「だから、  たぶん  二度目はない」

 二度目がない。

 それは、

 世界に見つかるという意味だ。

 「……俺のせいだ」

 「違う」  女は、  即答した。  「あなたは、  いつも通り  見ただけ」

 彼女は、

 画面を閉じる。

 世界への報告は、

 完了した。

 何事もなかったように。

 「……ねえ」  女は、  初めて  こちらを見る。  「あなた、  怖くないの?」

 「何が」

 「私が、  今みたいに  嘘を重ねて」  「ある日、  本当に  壊れること」

 「怖い」  俺は、  正直に答える。

 「でも」  続ける。  「それでも、  やったんだろ」

 女は、  小さく笑った。

 「……あなたね」  「本当に  世界向きじゃない」

 その言葉は、

 悪口でも

 褒め言葉でもなかった。

 「これで」  女は言う。  「あなたの行動は、  “未検知”になった」

 未検知。

 それは、

 自由と同時に

 地雷だ。

 「次に何かあったら」  俺は言う。  「全部、  一気に来る」

 「ええ」  女は、  否定しない。  「私ごと、  ね」

 沈黙。

 短いが、

 濃い沈黙。

 世界は、

 何も知らない。

 知らないまま、

 正しく動いている。

 「……戻りましょう」  女が言う。  「今日は、  これ以上  歪ませない」

 その背中は、

 初めて  “調整者”ではなく

 “個体”に見えた。

 世界に届かなかった

 一つの真実が、

 静かに残った。

 それが、

 後で  どれほど  重くなるか。

 まだ、

 誰も知らない。

ここまでお読みいただき、

ありがとうございます。

虚偽は、

感情よりも

重い行為です。

世界は、

怒りも憎しみも許容します。

ですが、

“把握できないもの”を

最も嫌います。

調整者は、

世界に嘘をつきました。

それは、

彼女自身を

例外にしたということです。

次話、

世界は

必ず違和感に気づきます。

問題は――

それが

誰に向かうかです。

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