第50話 「一箇所だけ、救え」
お読みいただきありがとうございます。
第50話は、
主人公が初めて
“制限された立場”で
選択を迫られる回です。
正解はありません。
許可された行動も、
救いきれる数も限られています。
それでも、
選ばなければなりません。
制限は、
数字として現れた。
【管理条件】
一時介入:許可
同時対象数:1
超過時:即時修正対象
「……一つだけ、か」
思わず、 声が漏れる。
「ええ」 女は、 隣で淡々と言った。 「今日は、 それだけ」
遮断区域の外。
押し出された歪みが、
いくつも見える。
一つは、
居住区。
一つは、
実験施設跡。
もう一つは――
避難所。
どれも、
放置すれば
被害が出る。
「……全部、 見えてるのに」
俺は、 歯を噛みしめる。
【鑑定結果】
対象:居住区
備考:中規模被害/死者可能性低
【鑑定結果】
対象:実験施設跡
備考:崩壊確定/作業員死亡
【鑑定結果】
対象:避難所
備考:遅延拡大/二次災害発生
数字だけ見れば、
答えは簡単だ。
「……実験施設だな」 フェンの声が、 通信越しに聞こえる。 「死者が 確定してる」
「ええ」 アリアも、 同意する。 「そこを 止めるべきです」
正論だ。
誰も、 間違っていない。
俺は、 女を見る。
「……止めたら、 他は?」
「放置」 女は、 即答する。 「世界は、 そう判断する」
放置。
切り捨て。
合理的。
俺は、 避難所の鑑定結果を もう一度見る。
死者確定ではない。
だが――
“遅延”。
そこにいるのは、
逃げ切れなかった人たちだ。
「……鑑定士」 女が、 静かに言う。 「迷う時間は、 もうない」
分かっている。
世界は、 答えを 待たない。
俺は、 深く息を吸う。
そして――
指を伸ばした。
「……ここだ」
示したのは、
避難所だった。
一瞬、
空気が止まる。
「……意外」 女が、 わずかに目を細める。 「効率は、 一番悪い」
「知ってる」 俺は答える。 「でも、 見捨てられなかった」
世界が、 動く。
避難所周辺の 歪みが、 引き戻される。
空気が、 整う。
「……助かった」 誰かの声が、 遠くで聞こえた。
その直後――
【警告】
未介入対象:修正開始
映像が、 割り込む。
実験施設跡。
崩れる天井。
逃げ遅れる影。
「……っ」
通信が、 途切れた。
死者発生。
確定。
女は、 何も言わなかった。
責めもしない。
慰めもしない。
ただ、 結果を 記録する。
「これが」 女は、 淡々と告げる。 「あなたの 最初の選択」
俺は、 画面を 見つめたまま 答えた。
「……覚えてる」
助けた場所と、
助けなかった場所。
その両方を。
それが――
俺の鑑定だ。
ここまでお読みいただき、
ありがとうございます。
主人公は、
最適解を選びませんでした。
ですが、
最も人らしい選択をしました。
世界にとっては、
間違いです。
それでも、
彼はその結果を
受け入れました。
ここから先、
選択は
毎回、何かを殺します。
それを
“選び続ける”物語が
始まります。




